第13話 印章工房の帳簿
領都へ戻った私たちは、王都と取引のある印章工房を調べた。
工房主ヘルムートは最初、何も知らないと繰り返した。だが工房の帳場に残る受注台帳と、私が持参した発注番号を照合すると、顔色が変わった。
「この番号、覚えがありますね」
私が言うと、彼は汗をにじませた。
「……ただの複製依頼でした」
「公証印の複製が、ただの依頼で済むと思っているのですか」
静かに詰めると、ついに彼は帳簿の隠し引き出しを開けた。
そこには、王都エルンスト商会名義の支払い控えと、マルグリット側近の署名入り受領証が挟まっていた。しかも注文品目には『縁欠けなし・旧型教会印模造・子爵家私印補修』とまで書かれている。
「誰に指示されたの」
「王都の……レオポルト様の使いからです」
ヘルムートは崩れ落ちるように答えた。
「借金を肩代わりすると言われて、断れなかった」
私は受領証を丁寧に封筒へ入れた。
証拠は揃った。偽造遺言を作ったのは偶然重なった複数人ではない。一つの意志のもとで動いた共犯関係だ。
工房を出たあと、ディートリヒが足を止める。
「これで終わりに近づいたな」
「いいえ。終わりではなく、やっと王都へ戻れるだけです」
「戻るのは辛いか」
問われて、私は少し考えた。
「辛いです。でも、奪われたままにするほうがもっと嫌です」
私の答えを聞いた彼は、ほんの少しだけ顎を引いた。
「なら、最後まで付き合う」
その言葉は短かった。けれど契約書のどの文言よりも、頼もしく感じた。




