第12話 隠された養子縁組証書
公開証明会の翌日、私たちは北の修道院へ向かった。
フリーダからの書簡で、故ハルトムート子爵が数年前に秘密裏に養子縁組の相談をしていたことがわかったのだ。記録があるなら、公証局だけではなく、教会法管轄の写本庫にも残っている可能性が高い。
修道院長は六十代の厳しい女性で、最初は閲覧を渋った。だがディートリヒが領主命令ではなく、正式な異議審査として要請書を差し出すと、彼女は黙って鍵を持ってきた。
写本庫の奥から出てきた箱には、一本の白いリボンで括られた証書が入っていた。
私は慎重に開く。
「養子縁組証書……」
作成日は三年前。養親はハルトムート・ヴァイス子爵。養子はイザーク・ヘルマン。理由欄には『成人後の継承資格を将来的に整えるため』とある。証人二名、修道院長の印、そして子爵本人の署名。全て真性だ。
「なぜ公開されなかったのですか」
私が問うと、修道院長は重い声で答えた。
「親族の一部が、イザーク殿を事故に見せかけて消そうとしたからです。子爵様は、正式公表の時期を待つとおっしゃっていた」
私は証書を胸の前で閉じた。
守るために隠した書類が、死後には逆に悪用される。皮肉だが、よくある話でもある。
帰りの馬車で、ディートリヒが静かに言った。
「叔父は人を信じるのが下手だった」
「でも、紙には託した」
「ああ」
私は窓の外を見る。曇った空の下でも、遠くの坑道口だけは明るく見えた。
「これでイザークの資格は立証できます。ただし、偽造した側を潰さない限り、また新しい紙を作られる」
「なら、先に手を押さえる」
ディートリヒの声は変わらず静かだったが、その中に鋼の硬さが混じっていた。




