第11話 契約花嫁は公開証明会に立つ
三日後、私は領都の会館で公開証明会を開いた。
相続争いが長引けば、鉱山も市場も止まる。だからこそ、閉じた室内ではなく、人の前で事実を並べる必要があった。辺境では紙だけでなく、顔もまた証拠になる。
会場には領民代表、工房主、会計官、子爵家関係者、そしてマルグリット本人まで揃っている。私は壇上で遺言二通を並べた。
「まず確認します。正式登録版には、作成確認票と異議保留届が紐づいています。追補版には、本来あるべきこの二点がありません」
私は空欄の登録目録を見せた。
「さらに綴じ糸、紙質、封蝋、署名の線圧すべてが一致しない。これは原本ではなく、原本に見せかけた工作物です」
ざわめきが広がる。
マルグリットは立ち上がり、声を張った。
「そんな理屈で、故人の遺志を否定するのですか!」
「理屈ではありません。手続きです」
私は淡々と言い返した。
「遺志を守るために、手続きがあるのです」
その一言で、前列にいた年配の商会主たちが深く頷いた。辺境では、手続きを軽んじる者は取引も軽んじる。
続けて私は、王都式の青銀蝋、旧書式、抜けた税台帳、送金先の商会名を順に示した。証拠が一つでは反論されても、十並べれば流れになる。
証明会の最後、イザークが前へ出た。
「俺は家督が欲しいわけじゃない。でも、子爵様が残した坑道の補修基金を消されるのは困る」
その率直な言葉に、会場の空気が変わる。
マルグリットは口元を引きつらせたまま、何も言えなくなった。
証明会が終わった後、ディートリヒが私へ視線を向ける。
「あなたは場を掌握するのがうまい」
「人前で嘘を暴くのが仕事でしたから」
「今は?」
「今もです」
そう答えると、彼はほんの少しだけ笑った。
冷徹辺境伯が見せるその表情を、私はまだうまく受け止めきれなかった。




