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第10話 相続税台帳の空白

夜会の翌朝、私たちは子爵家の会計金庫を開けた。


 中にあったのは、相続税算定前の仮台帳、鉱山収支報告、賃金支払簿、輸送記録。だが肝心の四か月分だけが抜けている。まるでそこにだけ、穴が開いているようだった。


「削られていますね」


 私は残った帳簿の端を撫でた。紙の厚みが不自然に薄い。束ごと抜かれたのではなく、必要なページだけ丁寧に切り取られている。


 けれど数字は、他の記録にも必ず影を落とす。


 私は賃金支払簿と輸送台帳を突き合わせた。鉱石の搬出量は増えているのに、納税額が減っている。さらに不足分の金額は、王都の書式商会『エルンスト商会』への送金額とぴたり重なった。


「エルンスト商会は?」


「レオポルトの実家が主な出資者だ」


 ディートリヒの答えに、私は静かに頷いた。


「では確定です。マルグリットは鉱山権を奪うための前線。王都で印章を作らせ、辺境で遺言を差し替え、利益はレオポルト側へ戻している」


「叔母君の遺言も同じ構図か」


「ええ。私の屋敷は王都で換金しやすい。鉱山は辺境で長く利益を生む。両方を同じ網で獲るつもりだったのでしょう」


 そこへ、イザークが荒い息で駆け込んできた。


「坑道の契約板が剥がされてました。名義欄だけ切り取られてる」


 私は思わず笑ってしまった。


「ずいぶん必死ですね」


「笑う場面か?」


 ディートリヒに問われ、私は帳簿を閉じた。


「必死な相手ほど、もう余裕がないということです」


 相手は消し続けている。つまり、消せば終わると信じている。


 なら、こちらは残っている欠片を全部つなげればいい。


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