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十四.逆ギレ


「お心遣い、痛み入ります。……ですが、こちらの贈物は受け取ることはできません」

「……………………それは……なぜ?」

 

 天界の物を人間に与えることは『禁忌』と分かっているはずなのに、とてもそのようには見えないほど、彼女は「信じられない!」と言わんばかりの驚きの表情を見せた。

 それは間違いなく、絶対に断られない自負が根底にあったからこそ出た、自然な反応だった。

 

「私が作った反物は、神々でも評判の代物。況してや『悪縁切り』の神徳など、貴女の立場であれば喉から手が出るほどの物ではなくて?」

「そもそも、この悪縁切りの『悪縁』とは、一体何方との縁のことをお考えなのですか?」

「それ、は……」

「須勢理姫様が思う、私にとっての『悪縁』とは、どの縁のことでございましょう」


 珠梨からの当然の問いに、須勢理姫は分かりやすく言葉を詰まらせた。

 眉を顰め、目は泳ぎ、答えられない様子からは、動揺が見て取れる。彼女が搾り出して何かを言いかけたとき、珠梨はさらに畳み掛けるように尋ねた。

 

「大国主様との縁ですか? それとも、()()()()()すべての縁ですか?」

「珠梨」

「篁沙久は黙って」


 挑発とも取れるような言い草に、不穏な雰囲気を感じ取った篁沙久がすぐに止めに入ろうとしたが、珠梨はそれを牽制した。

 

「贄姫、あなた……まさか私が謀っているとでも?」

「気分を害されたのであれば、御詫び致します。奉納日が1年後に差し迫った今、出し抜こうとされる方もいらっしゃいますので。皆様の公平性を担保するためにも、加護が付与される贈物は受け取れません。どうか、ご理解下さい」


 尤もな理由を添え、反物に一切触れもせず、毅然とした態度で珠梨は丁重に断った。

 しかし、須勢理姫はそれが大層気に入らなかったらしい。その感情が、先程までの穏やかな雰囲気であった彼女を、大きく変貌させた。

 筋を通していようが、自身の思い描く展開にならないことへの苛立ちで、徐々に須勢理姫の本性が態度に漏れ始めた。


「……私が、誰の為にわざわざこんなものを作ったと?」

「さあ? 私には関係ありません」

「迷惑なのよ。貴方達のせいで、しばらく主人は会合にも出られず、肩身の狭い思いをするハメになってしまったわ」

「お言葉を返すようですが、それは大国主様がご自身で招かれた結果です」

「違うでしょ!!!!」


 感情露わに、須勢理姫は金切り声混じりに、突然声を張り上げた。

 忌々しげに、恨めしそうに般若のような形相で珠梨を睨み据えながら、ついにその本性が現る。

 

「全部、貴女の危機管理の低さが招いた結果でしょッ!」


 思わず耳を塞ぎたくなるほどの大声が上がる度、珠梨はビクッと肩を跳ね上がらせた。

 怨念渦巻く須勢理姫のあまりの迫力に、じわじわと珠梨も恐怖心が湧き始め、小刻みに手が震え始めた。


「どうしてもっと気を付けないのよ。散々持て囃され、求められ、迫られてきたのだからいい加減分かるでしょう?! そこにいるだけで誘惑するって!!」


 ついには生饌を珠梨のいる御簾に目掛けて投げつけようとする始末。

 過激になってきた須勢理姫の行動を見兼ねた篁沙久が、咄嗟に野菜を持つ彼女の手を掴み、止めに入った。

 しかし、篁沙久の仲裁に入ったことで、結果的に油を注ぐ形となり、須勢理姫の暴走はさらに加速し、歯止めが効かない状態となる。

 


「離しなさいよ!! そもそも篁沙久が贄姫から目を離さなければ、大国主様が手を出す前に止められたはずでしょ! なんのための護衛か!!」

「須勢理姫、どうか今一度お鎮まり下さい!」

「味が分からぬなどと言っておきながら、本当は天照大御神と結託し、供物を独占しようとしているのではないか!!」


 最早、まともな会話ができる状態ではない。

 彼女をここまで荒ぶらせているのは、愛した男が他の女に手を出したショックからなのか、それとも本当に妄信しているのか。


(やはり面倒になってしまったか……!)


 夫の非礼を詫びに来た、誠実な女神の面影など、もうない。完全に他責的な思考。出てくる言葉は、この世のありとあらゆる汚言ばかり。

 いつ落ち着くか分からない彼女を押さえながら、篁沙久は、どうすればこの場を収めることができるかを考えあぐねていた……須勢理姫の罵倒が耳に入ってこない程に。


「旦那様は、お前達の罠に嵌められただけ! 何も悪くないわ! 悪くないのよ!!」

 

 するとそんな折、徐ろに珠梨が御簾の中から出てきた。


「バカ! 奥に戻れ!」


 篁沙久が喚起するも、珠梨はそれを聞き入れず、彼に身動きを封じられながらも暴れ狂う須勢理姫に自ら近づいて行った。

 そして――



 

 ――――バチンッ!!!!

 

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