誰だって14年経って知らない自分がいたらびっくりする
朝だ、何も変哲のない朝。
クリスマスだが特に何かあるわけでもないし、いつも朝は億劫だ。
寝室は既に明るい、電気が付いてなくとも日は当たっている。
心地よい布団の感触が名残惜しくてずっとここにいたいがそうも行かないのでもぞもぞと這い出る。
立つのも面倒だが芋虫のようにとろく動いてもしょうがないので立ち上がる、頭も回らないし清々しさとほ無縁だ。いつも通りだなとぼんやり思いながら扉に向かう。
「おはようございます」
そう言って寝室の扉を開けてヒカリがいるリビングに向けて挨拶をした、だけど見えた光景はあり得るものは違っていた。
「エイナってああいう所が可愛いですよね、わかります。」
「だろ?ったくお姫様は自覚がないのがもったいない、まあ考えないようにしてるんだがな。」
バタンと一度扉を閉めた、なんだあれは、おれの姿そっくりで笑いながら何かを力説しているあれはなんだ、ヒカリも何故か同意するように頷いていたしおれは何を見ている?
「おいなんで閉めるんだよお、もしかしてあれから?挨拶しなかったのは悪かったな。おはようお姫様。」
「あうえりゅいえあいあ!?」
がちゃりと扉は開けられどアップでおれの顔が迫る、ここ一ヶ月でようやく見慣れてきた顔がいきなり来るってホラー以外の何者でもない、理解出来ないことは怖い。
「めちゃくちゃ怖がられてますよ……?」
蛇に睨まれた蛙のように震えるおれにヒカリはおれのそっくりさんの横から覗かせる、たすけて。
「すごい心外だな、オレもお前なんだぞ、他人じゃない。」
「へっ?」
ぱちんと手を叩くとおれの震えは止まった、心はフラットに冷静さが保たれた。
「何者なんです!?」
「影法師ってやつだ、心当たりはあるだろ?初対面じゃあるまいし。」
ふふんと鼻を鳴らす、おれの記憶にはないが確かにはじめましての気はしない、でも顔もおんなじだから当然な気も……
「悪い人じゃないですよ!」
「オレはお姫様の味方だからな。」
ヒカリのお墨付きに謎に艶やかな笑みで肩を組んでくる状況に混乱する。
「なんでもうそんなに仲が良いんですか!」
「寝てる間に話をしていたからな。」
「もうお友達ですね。」
おれが寝ている間にとんでもないとこまで来た、どうしてこうなった。
「一から全部説明して下さい……」
理解不能の進行不能で脳みそが白旗を上げた。
「まあ自己紹介するとオレはエイナ、まごうことなくエイナだと言える、が流石にお姫様と区別がつかないのでシルエと呼んで欲しい影法師だ!」
ヒカリに介護されながら朝ごはんを食べているのにやかましくシルエと名乗った奴が決めポーズでこちらにアピール、おれはこんなんじゃないが?
「生まれは最近だが存在自体は生まれた時からあったぜ、お姫様しか分からないがあの時分裂した派生形と言える。」
要領を得ないが多分おれが魔法少女に成った時に産まれたらしい。
「私にも分かるように聞かせて下さい。」
ヒカリはこちらを真剣に伺って様子を見る。
「ま、お察しの通り本当に説明すると重くなるけどそれでも良いか?」
「お願いします。」
静かに、真面目にシルエは正座して話す、おれと同じ黒い目、だが底の見えない穴の様に虚無が覗く影がそこにあった。
「むかしむかしあるところに何も知らないクソガキがいました。」
こうしていると何となく本能で分かる、今まで意識していなかったが魔法少女としての己の魔法、呼吸するくらいに自然に扱えるが己の魔法そのものに意識を向けると確かにシルエと繋がっている。
「クソガキは魔法少女に憧れてましたが平和な日常を過ごしています。」
それならシルエが震えも止めれる、なんだかんだ怖いと感じても拒まなかったのもドッペルゲンガーでもスワンプマンでもなく己の一部だと認識していたのだろうか。
「ですか平和は脆いもの、突然失ってしまうこともあります。」
影法師、光に当たって映る人影、影の魔法としてはこの上なく相応しいものだろう、でも何故あんな自我があるのか。
「ある日クソガキが家に帰ると家族は死んでいました。マジルガの仕業です。」
言い分的に魔法少女に成った時に何かあったのだろうがあの時に大した記憶はない。
「無惨にも訪れた悲劇にクソガキは絶望しました、惨劇の原因は直ぐ側にいるのに。」
思い出したくもない、ああ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、胃液が込み上げる、涙が溢れる、忘れたくて蓋をしたのに今更なんでと罅が入る。
「あっけなくクソガキも殺されこの物語も終わり……と言えず、ちょっとだけ続きがあります。」
おれが喋れないことをシルエは語る、おれはもう目も口も影で縫い止めているのに。
「最後のクソガキの小さな想い、願わくばここに魔法少女を……と」
耳も塞ぎたいが多分これを聞き逃すときっと取り逃がしのつかない事になるから耐える。
「奇跡は起きてクソガキは強く優しく何より理想的な魔法少女に生まれ変わりました。家族の仇など一撃で葬り全ては消えました。」
分かる、分かってしまう、これはエイナの話だ、おれが叶えたい願いが反映されたシルエット。
「遺されたのは魔法少女で有るだけの無垢な少女、その後は光の魔法少女も知る所です、めでたしめでたし」
通りでおれは無気力で、悲観的で、夢も希望もない訳だ。
だってただの理想の影で、ネガティブな要素も持った絞りカスなのだから影の魔法が生まれるのも当然だ。
「……大体分かりましたが、エイナが酷い事になってます。」
「……悪いがオレにそう言う気遣いは出来ねえ。」
別におれがどうであれ何も変わらないならしばらく目も開けたくないな。
「オレの正体はお姫様の魔法少女の憧憬、願望、理想の具現体だ、ぶっちゃけ人間じゃない。感情のないマジルガと一緒にされても困るがこういうのは苦手だ。」
「慰めるには時間が一番です、一緒に居ましょう。」
「そうだな、結局自分で納得するしかないよな。」
二人は優しくておれにはもったいなくて、気にかけてくれる所が好きで、そんな所に結局甘える自分が嫌いだ。
エイナはホラーめちゃ苦手
シルエの詳細はこんなもの……だがエイナ自身についてはおいおい
ちょっと前にちょびっと強引に説明したけど
明日更新




