二人手を引いて
「今は、ゆっくりしような。」
「落ち着いて、じっとして下さい。」
見えない、見ない、見たくない、暗く閉ざした視界に深く沈んでゆく、センチメンタルに浸る感情が外の世界を拒絶して、ただ椅子に座る人形と代える。
「エイナは何も悪くないですから。」
「そうだ、まだ何もしなくてもいいんだよ。」
今はただ二人の声しか聞こえない、煩わしいものなど何もない、ネガティブな思考だって止めて置く。
そうしたらきっと嫌になるよりマシだろうから。
「さあ委ねて下さい。」
「そう、なによりも耳を傾けて……」
二人の声をはっきり感じる、聞き慣れたはずのヒカリの声も、自分と同じはずのシルエの声も、なんだかいつもより深く入り込む。
「良い子ですねー。」
「えらいぞー、えらいえらい!」
さらに近く、より近く、左右から聞き分けられるように密接するように音が這い寄る。
「もっと聞き取れるようにしないと駄目ですかー?」
「欲張って、思うがままに答えて良いんだぜ。」
「んひゅ」
吐息が触れるほどの距離で、囁く声が聞こえる。
ただでさえいつもと違うのに目を瞑っているとなると神経が過敏で思わずおれも息が漏れる。
「エイナはこれ、好きですよね?」
「こんなに幸せなことないよな?」
「あっ」
悶える快感に身をよじってどうにか逃れようとしても左右からの挟撃が止めてくれない、痺れる衝撃が体中を迸る、暖かくてこそばゆくてぞくぞくする体感に頭をぐちゃぐちゃにかき乱される。
「可愛いですよ、食べちゃいたいくらいに……」
「お姫様が可愛すぎるのが駄目なんだぜ?」
「んえぇ゙ぇ゙ぇ゙っ」
ぴちゃりとほんの小さい水音がして耳の一部が生温かく包まれた、あまりの衝撃につま先から頭のてっぺんまで震えきった。
「あっずるいですよ!」
「オレがお姫様に何したって自由だろ?」
「ななな何をしゅるんでひゅか!?」
目を開けて見れば二人はおれを挟んで向かい合っていた、近いし右も左も胸が当たりそうで破廉恥だ!
「なにって言わせんなよ恥ずかしい、お姫様へのラブコールだよ。」
「なんでこんなのが影法師に!」
キリッとした顔でとんでもないことを抜かすこいつは本当におれから産まれたのだろうか。
「逆だ、人付き合いのないお姫様が白馬の王子様レベルの理想をしていたからこうなんだぜ、オレもお姫様もおんなじエイナだったから分かる。」
「んぎぃ……」
腹立つ……おれがぼっちのこじらせ魔法少女憧れ馬鹿だとでも言いたいのか、反論を……思い返せない、言われて見ればそんな気がする、許せない。
「涙目で怒ってますね……」
「元気出てきていいじゃねえか、そっちのほうが素敵だぜ。」
「うぐっ」
正論だ、認めたくないが正論だ、いつまでもうじうじしている愚か者よりよっぽど良い、おれは立ち直るのにまんまと利用された、耳を!
「まあでも今日は悲しみに暮れたお姫様を癒す為徹底的にお世話させて貰うが。」
「あ、いいですねソレ、私も全力で協力させてもらいます。」
「ひっヒカリ!?」
絶対にろくなことにならない考えにヒカリは賛同する、この場に神はいないのか、あんなに頼りになるヒカリも自分自身さえも敵だった。
「うーんエイナには悪いですが思い詰めた時はおもいっきり楽しんだ方がいいですから。」
「誰が頼んだんですかあそんな事お……」
「おいおいお姫様の為なんだぜ、オレが良いって言えば良いだろう。」
いい笑顔するな!分け身のくせにおれをおもちゃにする気だろ!顔見ればわかるぞ!
「こんな所に入られない!」
全力で魔法を行使する、するりと音もなく一瞬で体を影に取り込む、死のプレッシャーで掴んだ魔法の使い方、病院での一ヶ月も黙って過ごしていた訳じゃない、ひっそり医者にバレないように魔法の練習をしていた。これはその成果。
「駄目だろ逃げようとしちゃ。」
「はえ!?」
だというのに当たりの光景は何一つ変わっていなかった、何もなかったように椅子の上に戻っている。
「オレも影の魔法少女なんだから。」
「なんで……」
影法師としておれの理想としていてもおれ以上の出力なんて出せるはずがない、己の魔法はこれが限界なのに。
「パワーの違いは単にオレが超強いのにイレギュラーに現界してるからだよ。」
「へ?」
「ここが極楽塔なせいでマジカルパワーが飽和されて居られるだけ、本来一級のマジルガを瞬殺出来るオレが本気で出てこようとしたらお姫様はじけ飛ぶぞ。」
「分かったから怖いこと言わないで!」
だから今まで出てこなかったのは分かるがそれにしても恐ろしい、おれから産まれたのに強すぎでは……
「まあこっからはこっちのターンだ。」
「ひぇ」
捕食者に怯える小動物にしかおれはならなかったのだった……
「ちゃんとごはん食べるんだぞー?」
「はいあーん。」
逃げようとしたせいか椅子に影で縛りつけられたまま食事させられるという罰ゲームを受けている。
「ぅあーー」
屈辱、なんという屈辱、だが抗うすべもないのでしくしくと心が泣きながら口を開ける、雛鳥じゃないんだぞ……
「お手製の愛情たっぷり朝ごはんを召し上がれ♡」
「小動物ですねえ……」
手でハートを作りながら何故あんな態度取れるの?むそむそと精一杯こぼさないよう食べているのに台無しだ、味は美味しいのに。
「食べ終わりました……」
「お粗末さま。」
「じゃあ歯磨きしましょうね。」
「ふえ?」
拘束が解けたと同時に流れるように膝枕される。
何度目か知らないがヒカリの顔と胸がよく見える、なんでなんでなんでこうなるの。
「はい口開けてー」
「お口ちっちゃいですねー、可愛いですよ。」
「ほほひへほんはほほひ」
普通人に見られない喉の奥底まで見られているのが奇妙で、まっさらな歯ブラシがデリケートな口の中を他人に許すことが恥ずかしい。
「歯並び綺麗ですね、歯は全部生え変わりましたか?」
「まだいくつかのこってるな。」
言ってない事情までバラされるのが恥ずかし過ぎて顔が赤くなる。殺せよ。
慰めなんかじゃすまないほど目一杯甘やかせて
癖が出ている
今章が一番穏当でう
明日更新




