クリスマスパーティー(参加者不在)
「はぇ……?」
意識がぼんやりしている、自然と開いた目には知らない天井……いや知っている、曖昧な記憶を探ればヒカリと喋っていたニューホームだ、朧げな最後の記憶はヒカリとの会話だった。
なぜおれはこんな目にあっているのか、分からない、ほんとになんで気絶しまったのか。
「……え?」
そうして気付く、自分が何処にいるか、寝転んでいるのにフローリングの硬い床ではない、柔らかな感触に不安定な凹凸は人工物ではなく生物の上のような……いやな予想がよぎる、足の数カ所は床の上、腰から上は暖かく、身じろぎしても落ちないようにホールドされている、ここまでくれば見えずともどうなってるか大体分かる。
この頭のとびきり柔らかい感触は、つまり、つまるところ枕にしていたのは胸、この部屋には二人しかおらず誰のであるかは明白で……
「うるいあうえあ!?」
「起きましたか?」
ヒカリの胸枕でおれは寝ていた、理解してしまった事実が脳に冷や水をかけられたように意識を覚醒させる。
胸の中から逃れるよう腕から抜け出して転がり離れた、ヒカリの前で気絶して何度も似たようなリアクションしてるな。
「ごめんなさい。」
「はい?」
だがいつもと違いヒカリは体を起こししおらしく謝罪してくる、何があった。
特に謝られる事など何一つないがどうしてこんな事に、記憶にないのにされても困る。
「エイナを私が眠らせたからこうして時間を奪ってしまいました。」
「あー、そうなんですか。」
今回はヒカリが原因だった、それなら良かった、また接触に耐えられず気絶しただけなら恥ずかしくて末代までの恥だ、もう既に恥さらしだがヒカリの手によって寝ていたならまだまだ全然マシだ。
「反応が軽いですね……」
引き気味にこちらを見ている、そんな目で見られましても特にリアクションはないですけど。
「今更気絶も睡眠も変わりませんし。」
「大分違いますよ……?貴重な時間を私が消費させてしまったことに何も思わないのですか?」
むしろありがとうと言いたいぐらいだ、ヒカリの上で寝るなんて贅沢をしていたのに文句なんてあるわけない、それよりずっと一人でいるほうが怖い、家を出てから独りの時は無かったから。
「ヒカリと一緒にいられることがなによりなので……」
「……真顔で言わないで下さい。」
そっぽ向いてむず痒そうにしている、照れているヒカリを初めて見た。
珍しい顔にほうけているとぐーぐーとお腹が鳴った。
「ふほおお!?」
静寂を切り裂きはっきりと分かるように音が響く、思わず腹を抱えて防御した。
「……お腹空きますよね。」
そっと視線を戻した、お恥ずかしい所をお見せしてしまい大変恐縮なのですが無かった事になりませんか?気づかなかった、油断、無意識、そんな考えがぐるぐる回って言葉をひねり出す。
「お腹は一片たりとも空いて等ありませぬから本当違うんで深い理由があった所存であり」
「流石にソレは無理がありますよ……?」
誰か介錯して下さい。
「さあ起きて下さい、ごはんはありますから。」
失意の底に沈んでいるおれを引き揚げる、正直言うとお腹と背中がくっつきそうなほどお腹が空いているので素直に立ち上がる。
「はい……」
ヒカリはテンポよく冷蔵庫から作り置きされた皿をテーブルに並べる、いつの間に用意されているのだろう。
「まあ丸一日寝ていましたから当然お腹は空きますよ。」
「はい?」
さらっとすごい事実が出た気がする、ちらりと時計を見ても数時間も経っていないが実は日を跨いでいた?
「今日は十二月二十四日です。」
「そんなに時間が……だから謝ってたんですか。」
申し訳なさそうに頷くヒカリ、個人的には何も気にしてないので顔を上げて欲しい、起きていても何もやることない様なので惰眠をむさぼるのも一興だろう。
「まあ過ぎた事をうだうだ言うのも違いますし用意してくれたごはんをいただきましょう。」
机の上には冷しゃぶにサラダと冷蔵ですぐ食べられる物が並んでいる。
「作ったのはおばあちゃんですけどね、私はずっとエイナと一緒に寝ていました。」
ヒカリは苦笑いで椅子に座りおれも着席する。そうだったのか、てっきりヒカリが全部用意したと思ったらアカリさんが用意していたらしい。
「「いただきます」」
うん、あっさりとしたゴマダレが冷えた豚肉が絡みあって美味しい、アカリさんも料理上手だなあ。
「一日ぶりだと胃に沁みますね。」
見事な食べっぷりで一瞬で平らげたおれ達はお皿を片付けて食後のデザートにまでありついていた。
まさかメロンがあったとは、ありがたく二人で頂戴している。
「ここまで贅沢で良いんですか……?」
おれは口が小さいのでカットされたメロンをちびちび食べているがヒカリはパクパクと一口で食べている。
「お金の心配だけはしなくていいですよ。」
どこか遠い目をしながら味わうヒカリ、でも高そうなメロンだと心配だろう。
「入るぞーヒカリー」
そんなやり取りの最中アカリさんがやって来た、鍵なんて付いてないのでがちゃりと音がして扉が開く。
「何か用ですか?家に必要な物は全部運んでもらいましたけども。」
「見れば分かるのじゃ、今日が何の日かは分かるじゃろう?」
子ども用のサンタクロースのコスチュームに立派なつけ髭をして決めポーズを取る。
小さい子が頑張っているようで可愛いが立ち姿は古いのでおばあちゃんなんだなあ。
「クリスマスですがパーティーでもするんですか?」
「その通りじゃ!ここじゃ季節ごとのイベントはしっかり行っておるからの。」
テンション高くこちらに向かってビシッと指を指す。
「何もそこまでしなくても良いんじゃないですか?家でもそんな事しないですし。」
「相変わらず乗り気じゃないのヒカリは。」
非常に温度感に差がある、口を出すには少々気まずい空気。
「イベントは必ずしも気にする必要はないとおばあちゃんが教えてくれましたから。」
「そうか、チキンとケーキは用意してあるから後で持ってくるのじゃ。」
どうしよう、何も言えない。救いは甘い甘いメロンだけだった。
「好きにするがよい、エイナもパーティーに参加したければ来てもよいぞー。」
それでも軽く手を振ってアカリさんは元気に去って行った。
「これでいいんですか……?」
「まあ季節のイベントとかはいつもこんなものですね。」
ヒカリはもぐもぐとメロンを飲み込み空いた手をくるくる回しながら考えるように上を向く。
「少し前の話ですが訳あって、いやそこまで深刻なものでもないですけどね。」
「はあ」
「中学生になる時ですね、おばあちゃんが家を空ける事が増えてから基本一人になりまして家族でのイベント事の楽しみ方をすっかり忘れてしまいました。」
「それは深刻と……なんでもないです。」
ヒカリにも思春期らしい、いやそんなレベルじゃないけどとにかく事情があった。
「私が行事を楽しめる自信が無いだけです、おばあちゃんも分かっているから踏み込んで来ませんし、エイナは参加してもいいんですよ。」
複雑な家庭環境であることは理解しているが間近で見ると歪さが目立つ。
ヒカリは今の状況もそう言うものだと受け入れている、多分精神的に自立しているせいだ。
普通の女の子ではあるけど芯があるのは見て分かる、なんでかは知らないが普通の人と言うかおれより強く自我を確立していると言うか。
「一人だけで楽しむのも忍びないのでヒカリと一緒に居ますよ。」
そのせいでヒカリは一人の人間として信頼してくれているアカリさんに甘えて、アカリさんは放任主義で深く踏み込まない節がある、病院にも見舞いに来た憶えが無い。
ただのネグレクトなんじゃないかと思うが今は一緒に暮らしているからと考えるのをやめた。
「エイナと一緒ならなんでも楽しいかもしれませんね。」
結局この日はケーキとチキンを食べて、アカリさんが持って来たボードゲームで夜まで遊び休日らしい無意義な一日を過ごした。
気まぐれでしか書かなくて
冷しゃぶに料理の上手さはあんまりないのでお肉が美味しいだけです
エイナは料理出来ないのでなんでも美味しいって言う
自分で作ると首を傾げながら食べるくらい微妙な腕前
調子良さそうなので更新
明日更新します




