陰陽コミュニケーション 終
「ずいぶん沢山呼びましたね……それでも負ける訳には行かないのです。」
「【一級は格的に呼べなかったがそれでも九千以上のマジルガが此処に居る、いくら格上でも流石に勝負にはなるだろ?】」
辺り一面にひしめくマジルガ、何処を見ても化物ばかりの魑魅魍魎、空にまで飛び交うほどの包囲網。
「最初は他のマジルガに頼らないと言っていたのに、ズルい人です。」
ヒカリとエイナは渦中で手を繋いで身を寄せ合う、震えは無く、ただ敵を見据える。
「【なんとでも言え、事情なんざいくらでも変わる、人でなしに説教なんざ通じんよ。】」
ただ吐き捨てては言伝のマジルガの群の中に身を紛れる、二人を取り残し言葉だけが残されていく、ポツンと隔絶した世界に置いて行く。
「そんなに私達が怖いですか?」
「【怖いだろ、計画にない事ばかりだ、今頃はとっくのとうに死んでる予定だったぞ?お前達の〝鍵〟のデータを取れば用済みだったんだ、そもそも暗殺する気だったしな。】」
ヒカリの疑問に一方的に言葉が投げかけられて二人は渋い顔をする、命を何とも思わない身勝手な態度に虫唾が走る。
「何処まで人を馬鹿にする気ですか!」
「【これだから話す気はなかったんだがな、計画について話すメリットなんて一つも無いのに話してしまうのは、マジルガの性というやつだな。】」
飄々と、怒りにもどこ吹く風とただ言葉を紡ぐ言伝のマジルガは自身の欲望に何よりも正直だ、それこそがマジルガである。
「何も思わなかったんですか?人間であったのに。」
「【思うが思わないがどうでもいいさ、己の欲望以外は全部どうでも良くなる、人も、マジルガも、どうでもいい、実はこの計画も他のマジルガのものだ、ソイツが動けないからかわりに〝星堕〟を動かしているんだからな。】」
変わらず言葉を吐き出してゆく、大事であろうがなかろうが関係なく彼にとって話す事は何でも良かった、言って伝える、それだけだ。
「聞き捨てならない事を言いますね……!」
「【残念ながらこれ以上は誰にも言うなと言われているのでな、というか今言った事も聞かれたら殺される。】」
ぬけぬけと言っては切り捨てる。
「確かにあなただけでは出来ない規模の計画でしたがそれはあんまりにもじゃないですか?」
「【死人に口無しと言うだろ?今殺せばいいだけさ。】」
「何も良くないです。」
「【なんだっていい、お前達は死ぬからだ、そうだろうマジルガ共。】」
マジルガが今まで続いていた会話を待っていたのは言伝のマジルガの言葉を待っていたからだ、己の欲望さえ越えて同族を助けに来たモノたちは彼の言伝を待ち望んでいた。
「【さあやろうか。】」
簡潔に、熱烈に最後の闘争は開始した。
「防御陣形に!」
マジルガ達が一斉に襲いかかる、数の暴力と言う圧倒的な利点を活かしての全方位攻撃、臆さず全てのマジルガが死兵、顧みず捨て身の特攻だ。
「分かってます、まずここを切り抜けなければ!」
ただ来ることは誰でも分かる、ヒカリとエイナは背を合わせて互いの身を守るように立つ、全幅の信頼を持って危機を乗り越えんとする。
「【そうするしかないよな?耐えられないだろが。】」
あらゆる属性が、概念が、千種万様な願いがただ二人に襲いかかって来る、怒りが、悲しみが、感情的に、凶器が、鈍器が暴力的に、熱気が、冷気が、極地的に襲いかかる。
「光さん!」
「なんですか!」
「十秒下さい!」
「分かりました!」
ただエイナも無策ではない、自覚していないが反覚醒状態になりつつある強化状態での無意識の理解が対応策を浮かべる、ヒカリもそれに答え即決でこの暴威の中命懸けで時間を稼ぐ。
「【正気か?自殺と変わらんぞ?】」
「最初から正気ですよ!」
今二人は共鳴的に互いの事を理解していた、心から繋がる形でシンクロする。
エイナは影を覆うようにしていたのを強く、繭のように全体を包み込み、ヒカリはそれを守るように動きだした。
「誰も通しません!」
一秒、襲いかかって来た最前線のマジルガに衝突、かつてない出力を持って全体にフラッシュバーストする。
二秒、魔法的な光を持って周囲のマジルガを焼き尽くす、僅かばかりの足止めをする。
「【マジか。】」
三秒、言伝のマジルガは僅かに感嘆するも、直ぐ様マジルガは絶えず一人に殺到する。
四秒、一瞬の拮抗を上回り、マジルガはヒカリの元へ届き始める、マジルガの撃退速度を上回った。
「ぐっ」
五秒、押され始めて柔らかい肉に手が脚が頭が触手が殺到してゆく、全てを圧殺せんと誰が為に。
六秒、肉体が悲鳴を上げ始める、想像を絶する圧力に耐えかねて壊れ始める。
「っあああああああああああああああ!」
七秒、それでも、それでもやると叫び出す、肉が裂け、骨が折れ、血を断とうともやらねばならんと魂が吠える。
八秒、全てを照らす光がより輝きを増して天を貫く、命さえ燃やすように強く、一瞬の残光。
九秒、マジルガを一切合切殲滅ために焼き尽くさんとしたものがやみ、ただ光が消えた。
十秒、光だったものが潰え、黒い影ごと圧縮するほどマジルガで埋め尽くされる。
「【流石にか……】」
一瞬でも耐えられた事が驚きだがたった十秒、だが生き抜くにはあまりに長い十秒間が終わり、外から眺める半球状に重なるマジルガを見てつぶやく。
「【何がしたかったのか気になるよ、と言っても聞こえないだろうが。】」
そう言って言伝のマジルガは踵を返す、本来予定していない訪問から純粋な魔法の回収に向かい歩き出す。
「【始めて人を殺してもこんなもんか、つくづくマジルガらしいな。】」
下らない感想を漏らし歩いている言伝のマジルガ。
「【?】」
ふと気付く、何かがおかしい、風景は正常だ、普通の街、天を彩る魔法、何も可笑しくはない。
しかし、しかしだが影はこんなに濃かっただろうか?
「【影■の■】」
「【嘘だろ!?】」
元凶は分かる、アレだ、アイツだ、そう思って振り返った、振り返ってしまった。
マジルガは消えていた、全て、あれだけ山のように居たはずのマジルガが影も形も無くなくなった。
「もう終わりです。」
それでも無事であるはずがない、言伝のマジルガがそう思った通り満身創痍だ、二人とも顔も体も傷が無いところは無かった。
しかし、それでも影の魔法少女は一回り大きな光の魔法少女を抱きかかえて立っていた。
「【もう良い、ほっといたら死ぬ怪我だ、逃げさせて貰う!】」
直に逃げ出す言伝のマジルガは焦燥を感じていた、なぜ、どうして、そんな疑問を振り切って走り出す。
「逃しません。」
だがそれも許してはくれない、僅かな街灯に照らされていた薄い影は何より黒く固定されていた。
「【ああクソ!ここまでか。】」
言伝のマジルガは全てを悟る、詰みだ、出来ることは無くもう死を待つだけの哀れな存在だと。
酷く呆気ない結末に苛立ち、どうしようもなく悪態を着いた。
「一つ良いですか?」
「【なんだ?命乞いはせんぞ。】」
別に分かっている、許されることなど無いと、分かり合える事などないと三十年前から言伝のマジルガは知っている。
「いいえ、最後に気になった事があったので。」
「【言ってみろ、答えてやる。】」
「人間だった時何を伝えたかったのです?」
それは微かな疑問、半ば覚醒して思考の余裕からふと出た謎、人間であったならなんの望みを持って言伝のマジルガになったのだろうか、言伝と言うならば伝えたい言葉があった筈だ、喋るだけで欲求が満たされるなら今頃とっくに望みを果たして消えている筈だ。
「【ふっ、ふははは!】」
面を食らった顔をして少しして笑い出す、予想だにしない質問におかしくて笑ってしまう。
「何故笑うんです。」
エイナは少しムッとして聞き返す。
「【分からない、俺も知らん、何故だか分からないがなんでだろうな?マジルガのことなんて誰も分からんさ。】」
続けて自嘲気味に笑う。
「【人間であった頃の記憶を忘れた、というか誰も憶えてられない、三十年前は抗ってたも気がするがそれも曖昧だ。今はれっきとしたマジルガだからな。】」
「それは……」
あまりに残酷ではないか、と言う言葉を呑み込んだ。
「【と言う訳で答えは忘れているだ、さっさと殺すと良い、怪我が保たんぞ。】」
「分かってます、だからここでさよならです。」
何とも言えない感情を抱えて魔法を行使する。
「【影怨の咎】」
言伝のマジルガが影に沈んでゆく、世界から消し去るように、忘れ去られるように。
「【これからも狙われると思うが気をつけるんだな。】」
不敵に笑う言伝のマジルガ一つ忠告する。
「【ああ、この期に及んで言いたい事が山程あるな、何が言いたいんだ俺は。】」
指を折り数えながら腰の辺りまで沈んでなお言葉を選んでいる。少しだけの時間思考して。
「【ごめんな。】」
沈みきる直前に一言だけ、誰かに向けた謝罪だけ遺して言伝のマジルガは影に呑まれた。
「……いいですよ。」
今までマジで短くてすいません
書きたいところの筆の乗り方違い過ぎる
あと三話で今章終わりまする
いい感じに毎日更新したいですね
大体明日更新




