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音と自分たちの体を最大限に活用してゾンビたちをおびき寄せる。それがこの作戦の趣旨だ。自分たちをゾンビの目の前に晒すので、多大リスクを伴う。だから僕のテレポートがあって初めて実行に移そうと思える計画だ。
ゾンビが大量に流れ出てくるのを見て、僕らはそれぞれ一つづつ持った防犯ブザーを一斉に引き鳴らした。またも防犯ブザーたちは盛大なトリオを奏で、お客をすばらしく盛り上げる。
「二人共走れ!」
僕の合図で3人で一斉に入口とは反対方向に走り始めた。後ろを振り返ると入口から1階にいたゾンビたちが、多数出てきている。
そうだ。その調子でどんどん出てきてくれ。
僕らはそう願いながら走り続けた。
駐車場中を逃げ回り、ついに僕らは波状に押し寄せてくるゾンビたちに押されて、壁際へと追い込まれてしまった。これはそう――絶体絶命というやつだ。
「まぁ、僕らが普通の人間ならだけどね」
僕は二人の袖を掴むと飛んだ――
――先ほどゾンビたちが雪崩出た東側入口へと。
僕たちは中を伺いながらも、急いで入口に駆け込んだ。入るとすぐにトランシーバーを取り出す。1階のゾンビたちはほぼ全てが外に出ている。近くにいたゾンビは直ぐに僕らを見つけて戻ってこようとしているが、もう遅い。
『ザザッ――今だっ、閉めて!』
そういうやいなや自動ドアの上部のセンサーから緑色の電子光が消え、シャッターが下り始めた。
僕らを追い外に出たゾンビたちを、このショッピングセンターから隔離する壁が降りていく。
『ザザザッ――大丈夫っすかっ』
『ザザザザッ――完璧だよ、ありがとう』
『ザザッ――どういたしましてっす!』
本当にずっといつでも合図が来てもいいように、待っていてくれたみたいだ。
シャッターの奥で獣の目を宿した人間が、恨めしそうにこちらに手を伸ばすのが見えた。
***
これでショッピングセンター1階のゾンビたちはだいたいいなくなった。今頃は駐車場でいなくなった獲物を虚ろな目で探しているだろう。僕たちはゾンビたちがほとんどいなくなった1階の中央の自動販売機の前に設置されたベンチに座り、ご飯を食べていた。
「あ~、おいしいなぁ。やっぱり夏にキンキンに冷えたジュースを飲むのは最高の贅沢だよね」
「そうね、おにぎりとカロリーメイト、それにお菓子もたくさんあるし、しばらく休みましょう」
「賛成だ」
「それで、これからどうすんだ? 作戦はこの段階までしか決まってないだろ」
「うん、でも多分なんとかなるよ」
「なんとかって――」
ドンドンドンッ、と1階の両側に並ぶシャッターの下りた店舗の1つから、シャッターを叩く音が聞こえてきた。
それを聞いて、僕は壮太の疑問に答える。
「――人数が一気に増えるからね」
「おい、誰かいるのか!」
「生きているなら、返事をしてくれ」
「助けて、もう食料がないのよ!」
「アイツ等は、あの化物はどうなったんだっ!」
下りたシャッターの奥から、生きている人々の声が聞こえてくる店舗が複数ある。1つの店舗が声を上げると、呼応するように皆口々に疑問を呈した。
どうやらシャッターを下ろし、難を凌いだ人々はそれなりにいたようだ。密閉空間ではゾンビが1人入り込むだけで危険が増大するので、運が良かったのだろう。
「充、おまえ始めからこのことわかって……」
「別にミツルも完璧にわかった上でやったわけじゃないわよ、多分ね」
「うん、ほとんど賭けだよ。でも入ったときシャッターの下りた店を見てさ、不思議に思ったんだよ。音がないんだ。ゾンビがいれば、転んだり、ぶつかったり、食べたり、色々な音が出るはずなんだけど、それがシャッターの下りた店舗のいくつかから、全然しなかった」
「だから意図的に音を隠してるんじゃないか、と思ったつうことか。流石だな」
「壮太がきっちり前衛をしてくれて、余裕があったからわかったんだよ」
そう言って壮太と僕はどちらからともなくハイタッチをした。
「みなさん、1階のゾンビはほぼ全て掃討しました。今ここは安全です」
まぁ、ポツリポツリと足に大きな傷があり、外に出れなかったゾンビたちが転がっているが、足の動かないゾンビなんて大した脅威ではない。
僕がそう言うと、両側に並ぶ店舗のいくつかのシャッターの奥から、所々小さく歓声が上がった。しかし皆1度地獄を体験しているだけあって、慎重だ。すぐにはシャッターを上げて出てこない。
しかし説得するのは面倒だ。ここが安全だ、といくら言葉を尽くして説明したところで頭では理解しても、そう簡単には出てこないだろう。すぐそこに死の危険があり、そのうえ食料と水も十分にない中で丸2日以上。相当な疑心暗鬼になっているはずだ。
だからこうする。
「えー、皆さんよく聞いてください。ここには確かに水と食料がありますが、5人分ほどしかありません。というわけで先着順となっております。遅れた方には差し上げようがないので、ご了承ください」
次の瞬間、1階には人々の歓声、悲鳴、その他もろもろが怒号のように響き渡った。次々とシャッターを開けて飛び出してくる人たち。先程まで出てくるのをためらっていたとは思えない。それだけいろいろなものに飢えていたのだろう。目が血走っている。
「食料をよこせぇ!」
「水を飲ませて!」
「お、おにぎりだぁ、くれ、早く!」
僕らは素直にそれを出てきた人に渡した。皆一心不乱にそれらを胃の中に流し込んでいる。中には涙を流している人もいる。5人分しかないというのは、もちろん嘘だ。
十分に食料が行き渡ると、しばらくの間無言になった。
「ありがとうございました。本当に助かった」
ふと顔を上げると、壮年の引き締まった体を持つ男性が、深々と頭を下げてきた。驚いて、あたふたとしたしまう。
「い、いえ、当然のことをしたまでですので」
その男性に続き、食料を与えられた人々が口々にお礼の言葉を述べてきた。やはりお礼を言われるのは嬉しいものだ。50代くらいのかっこいいおじさんに涙ながらにお礼を言われたときは、正直びびったが。
もう既にほとんどの人が食べ終わって、ぐったりとしている。そろそろいいだろうか。
「皆さんお疲れ様です。そしておめでとうございます、とりあえずのところ、あなたたちは助かりました」
怪訝そうな顔でこちらを見ている者もいれば、神か何かを見るような目をしている者もいる。その瞳に宿る思いは様々だ。
「このショッピングセンターの1階部分のゾンビたちは粗方掃討しました。ここにいる限り、安全はほぼ保証されます」
またも小さな歓声が上がる。
「しかしそれはあくまで1階にいる限りは、の話です」
皆が喜びの声を上げる中、僕がそう言うと大体が怪訝そうな顔でこちらを見た。何を言っているのか、と言い出しそうな顔だ。ついさっき自分で『安全だ』と行ったばかりではないかと。
僕はここに爆弾を投げ込む。
「――ここのすぐ上と下、2階と3階と地下にはまだ大勢のアイツ等、ゾンビたちがひしめているということです」
そう言うと助かった人たちの間に無音の帳が下りた。僕が何を言ったのか噛み砕けていない。食料につられて、無我夢中で飛び出してきたのだろう。だからアイツ等に対する恐怖を忘れていた。
――けれど思い出してしまった。
人々の叫びが、嗚咽が、怒声が広いフロアにこだました。それらは抑えようのない絶望の声だ。この中には家族や友人を亡くした人も多数いるだろう。今その光景が脳裏にフラッシュバックしているはずだ。
そして悲嘆の中に沈み瞠目する。
皆が思うことだろう。
『もうだめだ、助からない』と。
――ここだ、このタイミングがベストだ。
「けれど、助かる方法はあります!」
僕は力いっぱい叫んだ。僕の声を聞き、皆が嘆くのをやめ、目を見開きこちらを見た。
「僕たちはたった3人でこの1階のアイツ等を掃討しました」
無音の空間に僕の声が響く。
「ここには5倍以上の人数がいます。それだけいてアイツ等を倒せない道理はありません! 立ち上がりましょう。殺された友人や家族のためにも、生き残るんです! そのために皆さんの力を貸してくれませんか!?」
皆呆気にとられたようにこちらを見ている。その中の一人、先程涙ながらにお礼を言ってきたおじさんが立ち上がった。
「お、俺はやるぞ!」
そう言って周りを見渡す。つられるように次々に傷ついた人々が立ち上がる。
「わ、私も協力するっ」
「おれもだ、アイツ等ぶっ殺してやるっ!」
「僕もやりますっ」
こうなればもうこっちのものだ。あとは流れに身を任せればいい。
「やりましょう、みんなで。このショッピングセンターをアイツ等の手から取り戻しましょう!」
僕は一際大きな声を上げて、拳を振り上げる。
小さな地方都市の、小さなショッピングセンターの一角に、規模は小さくとも以後人類に多大な影響を及ぼすかもしれない、1つの大きな雄叫びが木霊した。




