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警備員さんを適当に言いくるめて軍用耳栓をつけ、手で視界をおおってもらった。30秒経ったらやめてもらうように言っておいたので作戦に支障はない。
「美紅、壮太、飛ぶよ」
二人の袖を掴み、駐車場へと飛んだ。足元の砂利の感覚を確かめ、踏みしめる。僕はそこで近くの大きめの乗用車に近寄り、それを駐車場の入口付近に飛ばした。それを何度か繰り返し、入口を塞いでいく。6、7個飛ばしたところで入口は完全に塞がった。
「次」
僕はもう一度二人と共に、駐車場の真ん中あたりに目星を付け飛んだ。周りを見るとちょうどいいくらいの大きさの小型トラックが止まっている。
これにしよう。
「美紅、壮太これにする」
二人は無言で頷いた。それを見て二人を掴み、一旦家へと飛んだ。
見慣れた風景だ。しかし見慣れない赤いポリタンクが何個かある。壮太はそれを両手に二つ持った。僕はトランシーバーを取り出し、日暮さんに連絡を飛ばした。
『ザザザッ――こちら比嘉充、ショッピングセンターの出入り口全てロックと、シャッター下げてください、オーケー?』
『ザザッ――了解っす、アリの子一匹入れないっす!』
「あとは作戦通りでいいわね」
「うん、じゃあ行くよ」
また二人を掴み、先ほどの小型トラックの前に戻った。目の前に青いタンクトップを着た虚ろな目の持ち主が一人。壮太は手が塞がっている。
突き出された腕を下から潜り、後ろに抜ける。がら空きの首元にナイフを差し込んだ。肉を切り裂く感覚が手元に伝わるが、努めて意識せずにそのまま離れた。動かないことを確認し、ナイフを首元から抜く。早く作戦を進めなければ、囲まれる。
「壮太、頼むよ」
壮太は無言で頷き、赤いポリタンクの中身をトラックの周り、半径7メートルあたりに撒いていく。僕と美紅は車の上で警戒だ。近寄ってくるゾンビを、黙々と仕留めていく。
「完了だ」
壮太のその声とともに僕はトラックの上から降り、作戦通り壮太と美紅を家に飛ばした。ここからは一人の方がやりやすいからだ。
もう一度トラックの上に飛ぶ。
ゾンビは耳で獲物を探し、目で補足する。これは厄介で、どんなに逃げても視界に写っている間はいくらでも追いかけてくる。
ならばそれを逆手に取ればいい。要はゾンビたちは、どんなに遠くからでも目で獲物を見つけることができれば、必ず近寄って来てくれるということだ。
だから――――
「ふぅ~、はぁ~……」
深呼吸をする。ここからは度胸試しのようなものだ。
僕は覚悟を決めると、ポケットに入れてあった防犯ブザーを3個取り出した。そして一気に全部の紐を引き抜く――
次の瞬間けたたましい機械音が、僕の体を貫いた。この音量ならば駐車場の端から端までは届くだろう。予想通り3つの防犯ブザーは素晴らしいトリオを響かせ、ゾンビ達を釘付けにした。僕の鼓膜の耐久値さえ考えなければ、最高の結果だ。
無数の殺意が視線に乗って僕に突き刺さる。湧き出るのは根源的な恐怖だ。
しかし同時に湧き出すのは本能的な闘争心。否応なしに高ぶらせられるこの感覚。
「いいね、僕にもこんな感情があったんだ」
気分は悪くない。体はカタカタと震えても、顔には自然に獰猛な笑みが溢れた。
そんなこんなで待つこと10分。
トラックから半径5mくらいまで、厚い肉壁が形成されてる……すごく暑そうだ。ゾンビには温感がないらしい。
「よし、十分だね」
ド派手にいこうか。
僕は少し離れたところに止めてあった黒いバンの上に飛ぶと、持っていたマッチ3本に点火。壮太の撒いたガソリンに飛ばした。
爆発はしない。しかし素早く確実に火は小型トラックの周囲に広がり、ゾンビたちを炎の海の中に沈めた。どんどん燃えていく。人だったモノ達がただの燃料へと変わり、炎はそれを喜び勇んで、喰っていく。
これは矛盾だろうか。
わからない。
僕はある程度までそれを見届けると、家に戻った。
***
「上手くいったか?」
家に戻った。
僕はふぅ~~~~、とついそんな声を上げて床にへたり込んでしまった。
「うん、結構うまくいった」
「よかったわ」
「じゃあこれで作戦の第1段階クリアだな」
ずっと日差しにさらされ棒立ちしていたため、厚さが服の中にこもって蒸し殺されそうだ。僕は服を脱ぎ捨てると、下着を変えた。
「さて、あんまり休んでいる時間もないね。次の段階に進もう」
「ええ。あと……私もほら、目の前にいるのだけど……着替え……」
「恥ずべきところは何もありません」
何だかとんでもないことが続きすぎて、気分がハイになっている。
女子、しかも美人が目の前にいる。しかし、それが何か? むしろドンとこい。
――悪くない。
次の段階に進むに際して、また日暮さんに指示を出さねばならない。
『ザザザザッ――こちら比嘉充、次の指示を出します。オーケー?』
『ザザザザザザッ――むにゃ、はにゃ……へ? あ、はいはいはいっ、もちろんっすよ! バッチこいっす!』
なんか寝ぼけ声みたいなものが聞こえたんだが気のせいだろうか。
『ザザッ――……じゃあ次は1階を全ての階、外から隔離してください。具体的には地下と2階、外からのドアのロック、シャッターを下げてください』
『ザザザッ――1階を隔離っすね、りょーかいっす!』
『ザザザザザッ――あと、次に寝たらもう2度と食料持って行きませんので』
『ザッ――二度とやらないっすっ!!』
これでよし。さて次の作戦を始めよう。
まずはさっきの黒いバンの上に三人で飛んだ。目の前には内部から派手に破裂している小型トラックがあった。おそらく火が車を外部から徐々に燃やし、ついにエンジン部に空気が入り込んだのだろう。爆燃だ。周りのゾンビたちは消し炭と化している。
これで駐車場のゾンビはあらかた狩った。僕たちはもう一度ショッピングセンターの東側入口前に飛んだ。シャッターが下り、固く閉ざされている。
「二人共準備はいい?」
「バッチリだ」
「私もよ」
二人の答えを聞き、僕は腰のトランシーバーを手に取る。
『ザザザッ――次の指示を出します、オーケー?』
『ザザッ――ずっとスタンバってたっす!』
『ザザッ――ありがとうございます。では1階東側入口のシャッターを上げて、自動ドアのロックを解除してください』
『ザザザザッ――1階東口の開放っすね、了解っす!』
『ザザザッ――それでもう一度あとで合図するから、そうしたらすぐに東側入口を外から侵入できないようにして欲しい』
『ザザザザザッ――わかったっす。ずっとスタンバってるんで、いつでも!』
通話が終わると同時にシャッターが重苦しい機械音を上げて、昇り始めた。見えてきた自動ドアの奥にはゾンビが臨戦態勢で多数いた。やはりさっきの防犯ブザーはゾンビたちの注意を十分に惹きつけたようだ。
ゾンビは獲物を目で捕捉するが、耳で異音を捉えればそれの発生源を見るために、一度音のした場所へと向かう。
シャッターが完全に開き、自動ドアが顕になる。
そして自動ドアの上部に取り付けられたセンサーが緑色の光を宿し――
――轟音と共に、数多の死人が扉から解き放たれた。




