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装備の最終確認を済ませ、ショッピングセンターに飛んだ。
僕たちの向かったショッピングセンターは地下を含めて4フロアに別れている。地下は食料品店、フードコート、1階は衣料品店やファッション系の雑貨、家具、本格的なロードバイクがある高級感のある自転車屋など、2階は書店や薬局、某有名携帯電話会社の支店や百均など、3階はホームセンターと電気屋だ。
ショッピングセンターは少しばかり高台に建っている。周りだけを四角く切り取ると、4辺の内の2辺、南側と南東側が周りの道路と同じ高さになっているため、そこから無駄に広大な駐車場へと入ることができる。駐車場は南側にはだだっ広い、砂利の敷いてある土地を利用している。
それは地方によくあるタイプの複合型ショッピングセンターであり、ここに来ればだいたいなんでも揃うので、地元民の中では困ったらここに来るのが鉄板となっている。
僕たちが飛んだ駐車場にはチラホラとゾンビの姿が見える。車の影から襲われたら厄介そうだ。
「……………」
あらかじめ決めておいた役割をそれぞれ果たしながら、僕たちはショッピングセンターの入口に近づいていく。
警戒は3人でする。壮太は近づかれた時の対処、僕は周りの比較的距離のあるところからこちらに気づいて近づいてくるゾンビの対処、美紅はのルート選択、先導だ。
入口のシャッターは降りていなかった。全長2、5mくらいのガラスの自動ドアの感知範囲外に立ち、中を見る。
純白のワンピースを赤く染め上げた一人の少女と、手を引かれている一回り小さな少年。死してもその手は固く握られている。生前はさぞ仲のいい姉弟だったのだろう。しかし今となってはその目に光はない。
「……ミツル」
「…………うん」
躊躇わない。
躊躇っては生きていけない。
座標を首元に合わせ、飛ばす。結果を見届けた。同じ調子で周りのゾンビを仕留める。あらかた仕留め終えたところで自動ドアの内側に飛んだ。
景色が変わり僕達の視界には異様な光景が飛び込んできた。
倒れたマネキン、割れたショーウィンドウ、所々降りたシャッター、散らばる死体。
今まで見たモノとは規模が違う。否応なく生理的な嫌悪を感じさせる光景に、吐き気を催した。
「ぅっ……!」
「充……」
音もなく移動したというのに、既に入口近くの数匹のゾンビに捕捉されている。壮太が前方を睨み、危険を知らせた。
怖がっている暇はない。
僕は壮太と美紅の服の裾を掴み、空いてるスペースを見つけて飛んだ。先程まで僕たちを狙っていたゾンビ達が獲物を見失い、周りをキョロキョロしている。
僕たちが狙うのはこのショッピングセンターの電気系統を一手に司り、シャッター上げ下げなども自由自在な三階奥にあるコントロールルームだ。生き残りが居れば――いや生き残りは必ずどこかにいるだろう――助け、協力しながらこのショッピングセンターからゾンビを消し、その後の運営にも携わってもらうつもりだ。
戦闘は最小限、戦果は最高を目指す。
1階フロアを東側と西側に分けるとすれば、その両方の真ん中あたりにエスカレータが3階と、反対は地下まで伸びている。
「エスカレーターを使うか、奥の階段をを使うか……」
「エスカレーターを使うべきだわ。まだ電気が止まってないおかげで、動きっぱなしよ。階段は遠いわ」
「了解」
エスカレーターは未だに動き続け、大きな機械音を出し続けているが、ゾンビは獲物が捕捉できないため興味がないらしい。僕らはがら空きの上りエスカレーターの前に飛び、壮太、僕、美紅の順に足をかけた。
少しづつ上階に近づく。上階が見えてきたところで、一緒にエスカレーター口にゆらりと立つ肌の変色した一人の中年男生―――
「っ! 壮太っ」
「おう」
壮太は野球のバッターのようにマチェットを構え、2階に上がると同時に――殴り飛ばした。横っ腹を峰で思いっきり殴られたゾンビは、その勢いのまま吹っ飛んだ。
「いくぞ!」
呆気にとられる僕と美紅を尻目に、壮太はすぐに3階行きのエスカレーターに飛び乗る。
「はは……」
僕は苦笑い気味に壮太にに続く。幸いなことに3階にはエレベーター口で待ち構えているゾンビはいなかった。しかし全体的にゾンビの強さが変わっている。チラホラと草刈鎌や鈍器を片手で掴んでいる奴らがいる。おそらくホームセンターで武装して、やられたのだろう。
ここからは奥までテレポートと脚を駆使し、なんとかたどり着くしかない。
空いているスペースを細心の注意を払って選び、飛ぶ。すぐ2、3m先にはゾンビがウロウロしている場所を進んでいく。緊迫感が張り詰め、汗が滲む。
もう一度飛ぶ。景色が変わった瞬間、僕の視界の隅の自動販売機の影に何かが写りこんだ。
血走った目が見開かれ、獲物を刈る獣のモノへと変わった。
「っっ!」
僕は咄嗟に右手を上げ、高くから振り下ろされた腕を防ぐ。腕に鈍い痛みが広がり痺れるが、すぐに視界の隅からもう一発。左腕で受ける――支えきれないっ! ゾンビの重い攻撃を支えきれず、床に押し倒された。
「カハっ!」
肺の空気が一気に抜け。ゾンビの顔が目の前に迫り――
「充っ!」
ゴキっ、と鈍い音が聞こえゾンビが僕に倒れ込んできた。死者との思わぬ密着状態に、心臓が止まりそうになるが、幸いなことにその体は糸が切れたように力がない。
僕はすぐにゾンビの下から抜け出す。上から見ると、首があらぬ方向に折れている。どうやら壮太が咄嗟に蹴り飛ばしてくれたらしい。
背後から肉の潰れる音が体を貫いた。壮太がもう一人潰したらしい。美紅もボウガンで応戦している。
「ごめん二人共っ、走るよ!」
「おう!」
「ええ!」
目指すは奥のコントロールルームだ。
横から阿弥陀如来のように伸びてくる血で汚れた腕を避けながら、思いっきり地面を蹴る。這いずるものは踏みつけ、立ち塞がるものは壮太がよろけさせ、僕がナイフで押しのける。前を見ると、肩に噛み付かれた傷がある大柄の中年の男が立ちふさがっている。
あれをどかすのは無理だ!
「美紅!」
「りょーかいよっ」
頭上スレスレに風切り音が響き、中年ゾンビに突き刺さった。よろけたすきに通り抜ける。
安心するも束の間、横からゾンビが割り込み、倒れるように襲いかかってきた。
「ぉ、ぅおおおおおっ!」
咄嗟に腕をしならせ、思い切り振り抜く。
遠心力に乗せられナイフがゾンビの側頭部に当たり、倒れさせる。
「もうちょっとだ! 走れ!」
「わかってる!」
ようやく、STAFF ONLYと大きく書かれている、鋼鉄製の扉の前に辿りついた。素早くメモ帳から紙を取り外し、扉と壁の接合部のデッドボルトをテレポートで切り裂く。
「空いたよ!」
後ろでゾンビの攻撃を抑えていた壮太達を開けた扉に押し入れるとすぐに、衝撃音を響かせ扉を閉めた。手前左にちょうどいい大きさのロッカーがある。
「壮太っ!」
「了解だ!」
アイコンタクトで意思は伝わり、僕たちは素早くそのロッカーを扉の前に設置した。これでひとまず安全は確保した。
内開きのこの鋼鉄扉を前にあるロッカーを押しのけ、外から開けることは、さすがの怪力持ちであるゾンビも不可能だろう。
そもそも錠前のラッチボルトは壊してはいないため、ゾンビがドアノブを回すことができなければ、ロッカーなどなくとも開かないだろうが。
「ふぅぅぅうう~~」
「疲れたわ」
「ああ、死ぬかと思ったぜ」
気が抜けたことで二人でため息をついた。
しかし安心している暇はなかった。ため息と同時に僕の視界の隅に、床にうずくまる何かが映った。




