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本日2話目
「どうしてこうなったんだろう?」
僕は完全装備で2人が着替え終わるのをリビングで待っている。
完全装備と言ってもこれまでのものとはかなり変わっているけれども。昨日の服装は思いっていたよりもずっと暑く、重く、そして動きを阻害するものだったからだ。
よって試行錯誤と話し合いの結果、僕の格好はこうなった。
先ず下は変わらず動きやすいカーゴパンツに、フットカバーを装着。上は普通のシャツの上に防刃パーカーを羽織り、パーカーで隠れている腕の部分には、防刃スリーブを装着。防刃スリーブとは特殊ポリエチレンとステンレスワイヤーで編みこまれた、肘から手首までをガードするゴムのようなスリーブだ。
実践を経験してみて身にしみたが、対ゾンビ戦においては、胴体を守ることよりも腕を守ることのほうが大切だ。
ゾンビには基本的に力では勝てない。ならば速さを重視して戦うのが一般的な人間のスタイルだ。ゆえに、普段攻撃や防御に使用する腕周りの防御を厚くしたほうが効率的だ。
「壮太の装備もちょっと変わったね」
「ああ、やっぱり思うところがあってな」
壮太の装備は基本的にはほとんど変わっていない。しかし大きく異なるものが一箇所。あのギロチンのような斧が、無骨なマチェットに変わっているのだ。
「なんで変えたの? 大丈夫そうだったよ?」
「ああ、そう見えたかもしれないが、実は結構ヤバかったんだよ、アレ。自慢じゃないが俺は力がある方だったから、最初は斧持って振ってみて、大丈夫だなって思ったんだよ。だけどな1回振るのは楽勝でも、アレを何十回も振るのは思ったより辛かった。しかも走りながらだからな。取り回し的に、こっちの方が楽だって判断した」
「なるほど」
確かにそうかもしれない。武器を腕で振り回せば、腕には筋肉疲労により乳酸が貯まる。その武器が重くて、制御の難しいものであれば、それはより顕著に現れる。その上今は夏だ。この炎天下の中、走り続けながら斧を振り回すのは想像を絶する苦痛だっただろう。
「充も結構変わってるな」
「うん、やっぱり実際に戦ってみると全然違ってさ」
「だな」
「2人共着替え終わったみたいね」
お風呂場の方で着替えていた美紅が出てきた。その服装は前回と変わりない。
「美紅は変わってないんだね、服」
「ええ、今はこれが一番効率的だわ」
変える必要がなかったということは、初めから現状での最も効率の良い装備を整えていたということなので、やはり美紅は頭がいい。
「さてじゃあこれからの行動方針をも一度確認するわよ」
「ああ、とりあえず俺たちが向かうのは、県境にある他業種複合型ショッピングセンターだったよな」
「ええ、これから活動していくためには安全かつ広大で高機能な拠点が必要不可欠だわ。三村くん達の家や、この部屋みたいなところだとまず、人が生きていくための最低限度の衣食住を満たすことができないのよ。こういう一般的な家庭を拠点にすると、足りないものが多数出てくるわ。スペース、服、食料、おそらく近いうちに止まるであろう電気ガス水道の類も」
「そんでそれらを入手する為に人員と労力を使用せざるを得ないと」
「そいういうことよ。でもそうなると、目先の食料、水とかの物資を入手することだけにリソースを消費してしまって、いつまでもその状態から抜け出すことのできない悪循環が完成してしまうわ」
確かにそうだ。現に三村くんたちは目先の武器、食料、水を入手することに手一杯で、根本的な生活環境改善のために努力する余裕はないだろう。けれどその状態を続ければ結局は精神的、身体的にも疲弊してしまって、最後には……
だから根本的な生活環境を改善するための努力をする必要がある。しかしそのためには、それらを実行するための人員、食料などの余力が必要不可欠だ。
「だから電気ガス水道のライフラインが生きている内に、大きな拠点を作って、そこを中心にして活動を広げていくってのが今回の趣旨だと。そういうことだよな」
「そうよ、大型のショッピングセンターなら大体のものは揃ってるわ。スーパーの食料、衣料品店で入手できる下着、上着、ホームセンターの生活用品、ドラックストアの医療品。そういう物を十分に確保するのが目下の必要達成事項というわけ」
「りょーかい。じゃあ行動理由を再確認したところで、出発しようか」
「ちょっと待てよ、どうせだから験担ぎしてこうぜ」
「験担ぎってなにをするのよ?」
「……何するか」
どうせだから提案してみよう。
「うーん、乾杯とかでいいんじゃない? 僕ジンジャーエール大好きだし」
「ははっ、じゃあそれでいこうぜ」
「まぁ、いいわよ」
グラスを三人分出してきて、トクトクと黄金色に輝く液体を注ぐ。泡がグラスの内側に張り付き、浮かびあった泡の割れる音を響かせる。グラスを三人がそれぞれ持ち、向かい合った。
そしてふと思った。
これから何度三人一緒にこうして、乾杯ができるだろうかと。
わからなかった。
もしかしたら僕は今日噛まれて死ぬかも知れないし、明日家具の下敷きになって死ぬかも知れない。それは美紅も壮太も然り。
ならば僕たちはどうするべきだろうか。
「ショッピングセンターにジンジャーエールあるかな?」
「……まぁ、あるんじゃないかしら」
突然どうしたというふうに、美紅が答えた。
「じゃあ、この作戦が終わっても生きていられたら、乾杯しよう。また三人でさ」
それを聞いて二人は、少し目を見開き、そしてすぐに笑った。
「おう、望むところだ」
「ええ、当然よ。早く終わらせて、また乾杯するわよ」
二人を見て僕も一緒になって笑う。
よし、乾杯の音頭は僕から始めさせていただこう。
「よし、じゃあ……3人の幸運と!」
「未来と!」
「ジンジャーエールを祈って!」
ぶっ、と僕と美紅が吹き出す。1呼吸おいて、3人でタイミングを合わせ――
「「「 乾杯っ! 」」」
チンっ、という音が響いた。




