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本日2話目
立ち止まって説明している時間はなかった。しかし成人男性1人の力をみすみす手放すのは惜しい。だから僕は宇治林さんに火村さんを助けることを条件に、僕の知りうる限りの全ての情報を開示することを約束した。幸い宇治林さんはその条件を飲んでくれた。
大体の説明を終えた僕と宇治林さんは、未だ続いている日村さんの足跡を追っている。戦力は増えたが、その分発する音も増えた。つまりゾンビが寄ってきやすくなったということでもある。警戒は怠れない。
「おい比嘉」
「なんですか?」
説明の中で、僕はなるべく話をしないように釘をさしておいた。それなのにすぐ話しかけてくる宇治林さんに自分でも声が硬くなることを感じる。
「余計なお世話かもしれねえが、比嘉は気をはりすぎだ」
「しかし警戒をしないわけには」
「警戒することと、気を張ることは違う。そこを履き違えると、息切れすんぞ」
正論だった。僕が言い返す言葉を失っていると
「心配すんな、俺もいる。何人か潰して、慣れてきた頃だ」
そう言っていたずらっぽく笑う。そのおっさん顔には不思議な愛嬌があった。あけすけに、潰した、などといっているが、今この林にいるゾンビはリゾートマンションの大工が大半だ。当然彼の知っている者も多数いたはずだ。このおっさんはどんな気持ちでこれまでゾンビを屠ってきたのだろうか。
それを考えると自分が急にすっと力が抜ける気がした。しかしそれは同情からではない。目の前の風采の上がらないおっさんへの、しっかりとした尊敬の念だった。
そうだ、忘れてはいけない。僕は恵まれている方だ。5体満足だし、友人も生きていて、そのうえ超能力まである。こんなに恵まれて、それなのに、今自分はどんな気持ちで火村さんを探していた? 自分に酔っていたのではないか? 悲劇の主人公を気取ってはいなかったか?
ふざけるな。調子に乗るんじゃない、一丁前に何が「警戒は怠れない」だ。何匹がゾンビを倒したことで自分が1人前になったかのように錯覚していたみたいだ。
「すいませんでした。ありがとうございます」
「おう」
宇治林さんはそう言うと、くるりと前を向いて何事もなかったかのように歩き出す。その背中がとても頼もしく思えた。
***
見えた。
前方に小さな体を大きく振りながら、ゾンビから逃げている姿が僕の目に映った。先行している宇治林さんの歩幅が広がった。
「宇治林さん!」
「ああ!」
目算おそそ30メートル、ゾンビは3体。1匹目、テレポート、左腰の投げナイフが一瞬閃き、その汚れた右足を割る。宇治林さんはテレポートには気がつかない。運良くゾンビが転んだと思い、戦意を上げている。2匹目、追いついた宇治林さんがシャベルを振り上げる。やや小太りのゾンビは、音を感じて足を止めたが、手遅れだ。肉の潰れる嫌な音と共に、地面に崩れ落ちた。
3匹目、既にこちらに気がついて、作業服から伸びる青白い手をこちらに伸ばしながら、向かってきている。動きは鈍く遅く、その顔は血まみれで、表情というものはない。ただあるのは本能、食欲のみ、ゾンビはそれに従い、ただ必死に手を伸ばす。
かわいそうだと思う。ただ自分が生きるために、これは殺さなければならない。だから
「ごめん」
伸ばされた手の下をくぐり、ゾンビ後ろに抜け、逆手に持ったナイフを首に突き込んだ。無理にナイフをぬこうとせず、手を離してすぐに離れる。後ろではすぐに止めをさせるようにと、宇治林さんが既にシャベルを振り上げている。10秒ほど待ったが、動く気配がない。
「大丈夫みたいです」
「ああ、そうだな、死んでる」
宇治林さんはそう言うとすぐに地面に倒れたゾンビから、視線を離した。そして前方に視線を移すと、1つ大きなため息をつき、かぶりを振ってこちらを見る。
「で、比嘉よ、せっかく女の子助けたってのに、なんであの娘はこっちにナイフ向けてんだ?」
そこには僕らが助けた火村さんが、この前よりも一回り大振りのナイフを構え、愛嬌のある顔を敵意で狂犬のように歪ませ、こちらを睨みつけていた。




