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本日3話目
「とりあえず、この家狭すぎるよね」
「そうですねこれからのことを考えると、この家じゃあ……」
「よし、じゃあ引っ越ししようか!」
「へ?」
そんな感じで約20人の大引越し計画が開始された。
まずはここにいる人たちに、ここらへんに大人数でも住めるような大きな家がないかを聞いて来てと3人に言うと、火村さんからこの家から1kmほどの距離の林に入ったところにちょうどいい物件があるという情報が手に入った。ラッキーだ。早速見に行ってみようと先遣隊が派遣されることになった。
「なんでわたしを連れて来たんですか」
先遣隊は僕、壮太、美紅、火村さん、の四人で構成されている。
「だってあの中で一番戦えそうだったし?」
「疑問形で言わないでください。心配しなくてもあの中で一番戦えるのは、間違いなくわたしです。でもだからってちょっと前に自分の首に刃物を押し当ててきた人を、連れていきますか?」
「信用してるから」
「わたしは先輩が何を信用しているのか全く分からないですよ」
「うんまあそこら辺は置いておいて、その口調やめない?」
「何でですか? わたしは一応先輩の奴隷らしいので、こんな口調にしてるんですけど」
「いやなんとなく」
「なんかおかしかったですか。ジムでいつも先輩たちに敬語使ってたんで、慣れてるはずなんですけど」
「ジムって?」
「わたしの家はボクシングのジムをしていたんですよ」
「ああ、それでそんなに型にはまってたの。まあいいからその口調なしで、これ命令」
「いやです。命令を拒否します」
「へ?」
「今更ですけど私は先輩に命を救ってもらった恩があります。命の恩人にタメ口をきくなんて火村家の人間として恥です」
「うーん、じゃあまあいいや」
「どうもです」
「それ、敬語なのかしら」
美紅が素朴な疑問を呈していたけど、火村さんは答えなかった。体育会系敬語になっているのはご愛嬌だろう。
道路にたまに出現するゾンビを避け、避けられないところは美紅のクロスボウで処理し、近づかれたときは壮太か火村さんが相手をしている。はっきり言って僕は役立たずだ。サクサク進むのはいいことだから、しょうがないけれど。
そんな感じで進んでいくと、コンクリートの道路が林の中をうねうねと続いているのが見えた。かなり広い道で車二台は余裕で通りそうだ。その道路を1kmほど歩いたところで急に道路がなくなったかと思うと、そこには4階建てのマンションのような物があった。
マンションの周りはわざと不揃いな石を積んだ和風な壁にかこまれていて、入り口にはリゾートマンション・アヴニールと書いてある。入り口をくぐった先にはクリーム色の一本道のスロープがあり建物の中までつながっているのが見える。
建物は茶色を基調としたこれも和風建築で、2階から上には1フロアづつに5個ほどの大きな窓がある。おそらくあの窓1つで部屋1つだろう。となると少なくとも15部屋はあることになるので20人でも十分に入りそうだ。
「すごいね」
「すげえ、でもリゾートマンションって何だ」
「バブル期に始まったマンション型の別荘みたいなものよ」
「ほ~、それって結構高級なんじゃねえか?」
「それは物件によるわね。1ルームだったら数百万で変えてしまうものもあるけれど、これは明らかに1部屋2000万はしそうね」
「たかっ!」
僕たちはすっかり見入ってしまって、マンションの前で立ち尽くしていた。
「おい、でもこれゾンビたくさんいるんじゃねえか?」
「それは大丈夫です、ここはまだ建築途中なので」
火村さんの声が後ろから聞こえた。
「へ~、建築途中か。なら大丈夫だな」
壮太も安心したみたいだ。よく見ればまだマンションの前の駐車場や植木などの出来上がっていないところが多々目についた。そこらへんに、コンクリートなどを入れて運ぶためのリニアカーや工事現場によくある荷台付きの車などが放置してある。
「(え、放置?)」
リニアカーの中に入っているコンクリートはすでに固まってしまっていて、荷台付きの車は扉が開けっぱなした。その風景は仕事を終えて帰ったというよりも、何か緊急事態で作業を中止せざるをえなかったような、そんな、気が、
僕は咄嗟に悪寒を感じて勢いよく体を翻し後ろを見て、そして絶句した。美紅も僕と同じように後ろを向いている。
「ねえ火村さん、何であなたは私たちよりもそんなに後ろにいるのかしら?」
僕の隣で同じく後ろを向いていた美紅の、底冷えするような声があたりに響いた。
***
「申し訳ありません先輩方、死んでください」
僕たちよりも20メートルほど離れた道路で、その活発的な明るい女の子、という風体からは想像できないほどに感情をそぎ落とした能面のような表情を顔に張り付けて、火村さんは言い放った。すでに周りではガサゴソと死の足音が聞こえる。
「ねえ、一つ質問していいかな?」
「どうぞ、先輩」
「何でこんなことを? さっき提示した条件は君たちにとっても利益があるものだったと思うんだけど」
その質問を聞いて火村さんは心底面倒くさそうに顔をゆがめた。
「はぁ~、そもそもわたしは生きたくなんてないんですよ」
「は?」
「だ、か、ら、わたしはトモカズと正吾と一緒に戦って、一緒に死ねればそれで満足だったんですよ。それなのに得意げな顔でスーパーの時も助けてくれちゃって、その上武器と食糧を支援するぅ? ふざけるな! そんなことしたら二人とも死ににくくなっちゃうだろうがッ!」
火村さんはその表情を、声音を急に一変させ、こちらに憎悪の瞳を向けて来た。その形相に、その叫び声に、僕たちは完全に気圧されてしまった。彼女の言っていることなど、僕にはかけらも理解できない。しかし美紅は意地か、好奇心か、あるいは両方からか火村さんの迫力に押されながらも立ち向かった。
「じゃ、じゃあなんで私たちの武器を取ろうとしたのよっ!?」
「わたしたちが死んだあと他の連中が生き残るためだよッ!」
「あなた言ってることが矛盾してるわ! 助けたいのか、死にたいのかどっちなのよ!」
「どっちもに決まってるだろ! 家にいる奴らを見殺しにするわけにもいかない! でもわたしとトモカズと正吾は小学校からずっと一緒にやってきたんだッ! それなのに、良助みたいに、弟みたいにッ、離れ離れで死ぬなんてもう御免なんだッ! どうせみんな死ぬ! だからだからぁっ、わたしは2人と一緒に死ぬッ! その為におまえらは邪魔だ!」
火村さんは必死な形相で叫びながらも、その表情はどこか悲しそうで泣き出しそうでさえあった。彼女がこんな風になっているのは、リョウスケという弟の死への悲しみからだろうか。そう思うと何か引っかかるものが僕の中で生まれた。
「そんなの間違ってるわ! 一緒に居たいならっ、一緒に戦って一緒に生き残りなさいよ!」
「そんなの無理、どうせみんな良助みたいに死ぬ! それなら一緒に死んだほうがいい!」
「無理じゃないわ! こんな世界でも生き残る手段はあるはずよ!」
「じゃあ、生き残ってみなよこの中からねッ!」
火村さんはそう吐き捨てると、勢いよく体を翻し、林の中へと消えていった。




