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後宮妃は木犀の下で眠りたい  作者: 佐倉海斗
第四話 賢妃は諦めない
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01-3.徳妃と賢妃の争いの火種は消えない

「覚悟をしておりましたので」


 雲婷は堂々としていた。


(覚悟?)


 気分転換になればと散歩に誘ったのは雲婷だ。途中で誰かと遭遇するのは想定内だったのだろう。それが万姫だっただけのことだ。


「下女が朱雀宮の者と繋がっております。それを見逃す代わりに情報を得ておりました」


 雲婷は語る。


 その言葉に香月は耳を傾ける。


「賢妃様の気分を損ねたことを深くお詫び申し上げます」


「かまわない。私も、――いつまでも泣いているわけにはいかないからな」


 香月は一瞬言葉を詰まらせた。


 しかし、すぐに言葉を口にした。


「犯人は自白した。調査ができないのが惜しいところだな」


「四夫人の宮は無法地帯ですから」


「知っている。厄介な決まりを作ったものだよ」


 香月は歩き始めた。


(父上に手紙を送らなければ)


 キョンシーの件を手紙に書かなければいけない。


(朱家の件、父上に任せてもいいのだろうか)


 後宮で度々起こる事件についても報告をする義務があった。香月はそれらの一部だけを報告していた。



* * *



 三日後、万姫から抗議文付きの壺が贈られてきた。


 壺の中身は蟲毒の失敗作である生きた虫たちが入っており、嫌がらせの一環として贈ってきたのだろう。


「徳妃は蟲毒が好きなのか?」


 香月は壺の中身を見ながら、思わず、言葉にした。


(それとも、呪詛返しを恐れているのか)


 万姫のお気に入りの中級妃であった林杏は蟲毒を返されたことにより、行方知らずとなっている。杏に蟲毒のやり方を教えたのは万姫だろう。それならば、わざと失敗したものを届けさせたのだろうか。


「虫を好まれる方は少ないでしょう」


 雲婷は眉間にしわを寄せながら言った。


 視線の先には香月がいる。香月は真剣な眼差しで手紙と壺を交互に見ていた。


「朱家の援助が一部切られたようだ」


「それはめでたいことですね」


「言動を諫める内容だったと書かれている」


 香月は万姫の手紙を机の上に置く。


(どこまで本当なのか)


 仲直りをしてもいいと万姫は言っていた。


 しかし、万姫の行動により雲嵐を殺された香月は万姫を許すことができなかった。王一族の怒りは凄まじいものであり、玄家の当主である父に苦情の訴えがあったと報告を受けている。


 朱万姫を玄家は許さない。


 それは朱家と対立を辞さない覚悟だった。


「徳妃を辞してもらわなければならない」


 香月は万姫に対し、色々と思うことがあった。


 万姫は強い者に媚びを売る。そうすれば、なにもかも上手くいくと信じて疑わない。自分より立場の低い者はすべて自分の意のままに動くと信じている。その姿が異常に思えてしかたがなかった。


 香月は椅子に座る。


 それから、雲婷を見た。


「雲婷」


「はい、賢妃様」


「必ず、雲嵐の仇は討つ」


 香月の言葉に対し、雲婷は悲しそうな顔をしながら首を横に振った。


 それを望んでいないようだった。


 息子の死を受け入れてないわけではない。


「いいえ」


 雲婷は否定した。


「それは必要ありません」


 雲婷の言葉の意図を香月は理解をする。


 しかし、受け入れられるものではなかった。


「賢妃様には皇帝の御子を産んでいただなければなりません。死んだ者に囚われているのは、もう、おやめください」


 雲婷は笑った。


 息子の死を受け入れたのだ。二度と会えないのだと観念した。


(一番苦しいのは雲婷だ)


 女官頭を務める雲婷は故郷に帰る選択肢は与えられなかった。玄武宮の女官、下女や宦官を束ねる者として、香月の傍を離れるわけにはいかない。


「……雲婷は強いな」


 香月は雲嵐のことを忘れられない。


 目の前で殺されたのだ。その衝撃を忘れることなどできない。


「私にはまだ時間が必要だ」


「かしこまりました。賢妃様。どうか、復讐に走らないでください」


「それは無理だな。既に玄家と朱家の争いの火種になっている」


 香月は浩然から送られてきた手紙を手にする。


(意外だった)


 公の場では穏やかな父親を演じているものの、実際は血の通っていないのではないかと思うほどに冷酷な父親だった。


(これほどまでに怒るとは)


 手紙では早々に朱家に抗議をすると書かれていた。手紙の節々から浩然の怒りを感じ取れる。


「父上はお怒りだ」


 香月の言葉に雲婷は目を見開いた。


「ご当主様がですか」


 雲婷も浩然が家族に対して愛情を抱いていないと知っていた。


 道具のように優れた者だけを寵愛する傾向があり、香月のことだけはかわいがっていた。それは自身の武器になると思っていたからだろう。


「四大世家の関係に亀裂が入ることを辞さないそうだ」


 香月はそれを望んでいたわけではない。


 しかし、起きてしまった出来事を報告しなければならなかった。


 それが香月に与えられた役割だからだ。


(父上)


 心が揺れ動く。


「賢妃様が狙われたのが許せなかったのですね」


 雲婷の言葉に対し、香月は頷いた。


 浩然は香月が狙われたことが許せなかった。


(なぜ、なのか)


 香月には理解ができなかった。


 手紙には娘の安否を心配する内容が書かれている。それは雲嵐の死を悼んでいるわけではなく、香月が狙われたことに対しての怒りと心配の声だった。


(羅宰相と繋がっているのに)


 嘉瑞から報告があった。


 それは玄家と羅家を行き来している羅宰相の姿を見たというものだった。それも一度だけではない。何度も行き来させている。


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