本音
それから、フィリアはセリにしがみついたままだった。
それからどれほど時間が経っただろうか。
「セリさんは、一体何者なんですか?」
フィリアは口を開いた。
本当は言うつもりなんて無かった。
しかし、ここまで長い付き合いになってしまったのだ。
この際本当のことを教えてしまおう。
「私はお母さまを殺されたって言ってたよね」
「は、はい……」
「うんとね、私のお母さまって神人だったんだ。まぁ、義理の母なんだけどさ」
フィリアの脳内に浮かんだのは、カルディナという神人の名前だった。
暴虐と裏切りの罪で、他の神人達に抑留され、処刑されたと小耳に挟んでいた。
「身寄りのなかった私を拾ってくれた、いい人だった、そんな悪いことをする様な人じゃなかった。悪い人なんかじゃ無かったんだ! 全部全部、裏切られたんだっ!!」
セリの言葉に少しずつ、感情が乗っていく。
「だからね、他の神人を皆殺しにしようって決めた……上手く説明できないけど、神様みたいな人と契約して私も神人になった」
セリはそう言うと、デスタの死体に手をかざす。
そうすると、デスタの周りに影が出現し、死体をゆっくりと飲み込んで行く。
「こ、これは……!?」
「これは私の加護の力。この加護で取り込んだ相手の能力を奪える」
「そうだったんですね……道理でセリさんが強い訳です」
それから、暫くの間静寂が続いた。
その静寂の中、声を出したのはセリからだった。
「こんなキミの悪い能力持っている私の事怖くないの?」
「セリさんだから怖くないです」
「そう、なんだ……そう言ってくれると嬉しい。これ以上怖がられたらどうしようかと思ってた」
セリは微笑を浮かべる。
フィリアは、面と向かってセリが微笑んでいる顔を初めてみた。
きっと、自分より辛い目にあってきたのだろう。
その身体の傷、その虚ろな表情は、きっと地獄を見てきた人間のそれなのだ。
この人の側に居て、何か役に立ちたい。
そう思ってしまった。
思い切って言ってしまおう。
今言わなければ、言い出せないままになってしまう気がした。
「セリさん、お願いがあります。私も一緒に連れて行ってください」
「連れていくって……」
「わかっています、わかっているんです! 私がいたところで対して何も役に立たないことなんて……でも、でも! 貴方と一緒に居たいんです……!」
「んなっ……そんなこと、面と向かって言われると……」
フィリアは自分の進む道に連れてきてはいけない。きっと不幸にしてしまう。
でも、側に居てくれたら、居てくれるのなら――と、そう思ってしまう自分もいる。
言葉が詰まる。
どう返答すれば、いいのか。
どうすればいいのか、わからなくなってしまう。
それから暫くの間を置いて、セリは口を開いた。
「死ぬかも知れない、その責任なんてとれない。それでもいいなら、いいのなら――居てくれたら、嬉、しいな……」
言ってしまった。
本当なら、きっぱり断らなくてはいけないのに。
きっと、フィリアを不幸にしてしまう選択なのに。
「いいんです、命をセリさんにあげる覚悟くらいあります。それに、私に帰る場所なんてありませんから……セリさんの隣がいいです」
「あ、ありがとう……ね」
セリは、フィリアに手を伸ばす。
「……帰ろう」
「はいっ」
フィリアは伸ばされた傷だらけ腕を掴む。
セリとフィリアは屋敷を後にして、帰路についていた。
まがりにもこの都市の最高位冒険者を殺したのだ。
何かしらお咎めはあるかもしれないし、無いかもしれない。
もしかしたら、極刑すらあり得る。
その時はその時だ。
フィリアを守りながら、全力で応戦してやろう。