襲撃者-2
男達が部屋を後にしようとした時だった。
背後から生者の気配を感じる。
「なんだ!?」
一人の男が背後に視線を向けると、そこにはさっき殺した筈のセリが立っていた。
額と胸部から鮮血が流れた痕跡があるが、怪我は何一つ無く綺麗に消えていた。
手には、日本のクロスボウの矢が握られている。
見間違いなのではない。絶対に殺した筈だ。
「な、何故っ……生きてる!? こ、殺した筈っ」
次の瞬間、影がその冒険者を飲み込んだ。
断末魔も抵抗もする暇の一瞬も無く、影の内側へと引きずり込まれていく。
「ひ、ひぃ……ば、化け物っ!?」
もう一人の生き残りが、悲鳴を上げる。
腰から、剣を抜いて抵抗する動きを見せるが、それよりも先に粘液の様な影が絡みつき、食い尽くす。
『あのハーフエルフの子、結構まずいのではないですか?』
「言われなくても、分かってる」
恐らく彼らの発言的にも、主目的はフィリアだろう。
早く合流するべきだ。
セリは部屋を飛び出し、服が干してあるだろうベランダの方へと走る。
だが、そこには人の姿は無かった。
セリの黒衣が床に落ちており、物干し竿をバランスを崩して、辺りに転がり散っていた。
少なくとも争った形跡らしきものは見て取れる。
フィリアが連れ去れてしまった後の様だ。完全に一歩遅かった。
「フィリアは、ど、何処にいるの?」
セリはベランダから辺りを見渡す。
そこに広がるのは、ギルドの裏路地の光景。
らしいものは、何もない。
「せ、セリちゃん!」
その時だった。
背後から声をかけられる。
そこに居たのは、昨日決闘をした元冒険者の受付嬢――リアだ。
彼女はかなり焦っている様子で、ここまで走ってきたのか息も絶え絶えだ。
「リッタ、リッタがっ……!」
「ど、どうしたの?」
彼女はかなり動揺しているのが、伺えた。
リッタの身に何があったのか、嫌な予感が走る。
「リッタが刺された、デスタの手下の奴に……!!」
セリは、リアのその発言に青ざめる。
「ねぇ、無事なの!?」
「……わ、分からない。全力は尽くしてる、尽くしているけど……せめて、回復魔法を使える奴がいればっ」
回復魔法が使える冒険者はこのギルドに4名加盟している。
しかし、彼らは運悪くこのギルドから出払っている。
「私が回復魔法使えるっ」
「ま……ほ、本当に!?」
セリはリアの問いかけに答える間もなく、ギルドの一階に駆け降りて行った。
ギルドの一階――酒場では、カウンター辺りに人溜まりができていた。
セリは、その人溜まりの中に入り込み、掻き分けて中心部へと割り込んでいく。
そこには、腹部から大量の血を流し倒れているリッタ――それを取り囲み応急処置をする何名かの受付嬢の姿が見えた。
近くには犯行に使われただろう、血で濡れた剣が落ちている。
その付近には、縄で縛られ、拘束された男が地面に転がっていた。
恐らくあれが、リッタを刺した犯人だ。
「どいて!」
セリは、応急処置をしていた受付嬢達を跳ね除けて、リッタの傷口に手を合わせる。
「回復」
セリがそう唱えると、リッタの傷口はじわじわと塞がっていく。
傷跡は残るが、怪我自体は完治する。流れた血液は戻らない為、油断は出来ないが。
「リッタ……」
「うっ」
セリが話しかけると、リッタは微かに反応する。
どうやら、息はある様だ。
セリは胸を撫で下ろす。張り詰めていた緊張感が一気に解けた。
それと同時に、怒りに近しい感情が込み上げてくる。
先にやってきたのは、向こうからだ。デスタを殺したとて、文句は誰にも言わせない。
セリは、縛られ床に倒れ伏せている男に近づく。
「デスタはどこにいるの?」
「し、知らないっ、お、俺は借金チャラにするって言われてやっただけだ!!」
そう男は喚き散らかす。
「セリちゃん、多分そいつ本当に何も知らないと思う、下っ端も下っ端の底辺冒険者みたいだし」
リア曰く、リッタの腹部を急にこの男が突き刺したそうだ。
それを近くで見ていたリアが咄嗟に制圧したらしい。
最底辺の冒険者が元とは言え、2級冒険者に勝てるわけもなくこのザマというわけだ。
「デスタの居場所は定かじゃないけど、あいつの冒険者パーティ――ていうか盗賊団は、町外れの館にいると思うけど……いくつもり?」
「案内して、フィリアが拐われた。絶対に取り返す」
自分たちを害してきたのは、向こうが先だ。
セリは、デスタとその取り巻きを殲滅することを心の中で決めた。