遭遇
二人の暴漢を制圧したセリは、フィリアの元へと駆け寄る。
「大丈夫、怪我してない?」
「私は平気なのですが、その……」
フィリアの視線の先には、悶え苦しむ二人の男達の姿があった。
冷静になって見れば、少しやり過ぎてしまっていた。
そもそも悪いのはあっちなのだが。
「少しやり過ぎた?」
「いえ、悪いのは向こうなので……」
確かにそうなのだが、それにしても派手に目立ってしまったようで、酒場中の視線がセリ達に集中している様だ。
「なんだ、随分騒がしいなぁ」
その時だった。
酒場の扉を開く音が、静寂の中に響き渡った。
扉を潜り入ってきた男は、30代後半程度の平凡な――何処にでもいそうな顔つきの男だ。
腰には、剣を携えており彼もまた冒険者、あるいはそれに準ずるものなのだろう。
男を見たフィリアの顔色が一瞬で怯えたものに変わる。
「で、デスタさんっ!」
「呻き声が聞こえてくると思って、様子見にきたら、随分と面白そうな事になってんじゃん」
デスタと呼ばれたその人物は、二人の男を知っているようだった。
デスタは腰に掛けていた剣を手に取って、セリ達の方へと近づいてくる。
「デスタさん、助かっ……!」
男はデスタに助けを求めようとした。
だが、デスタは、倒れていた男の脳天に剣を振り下ろした。
「ひ、ひひぃぃ……」
そのままの勢いで、もう一人の男の首を斬り落とす。
「いやさ、無様晒すような雑魚はうちにいらないんだよ、死んで当然」
デスタは表情を何一つ変えずそう言い放った。
「それで、君がやったの?」
デスタは、セリに問いかける。
フィリアはセリの背後に身体を隠す。
セリの服を掴んでいる手が、震えているのが伝わってくる。
「そうだけど、それがどうしたの?」
「いやぁ、曲がりなりにも五級冒険者倒すなんて凄いなって」
デスタは相変わらず表情を変えないまま、拍手する。
乾いた手を叩く音が、静寂の中に響く。
「でも、うちに喧嘩売ったんだ。その分の代償は払って貰わないとな」
デスタは剣の切先をセリに向ける。
その時だった、彼はある事に気づく。
「おぉ、背後にいるのフィリアか。どうやって戻ってきたんだ?」
デスタよく見てみれば、そこにいたのは実の娘だった。
フィリアは怯えた表情で、セリの背後に隠れるばかりで、質問に答えようとはしない。
「フィリアの知ってる人?」
「父です……この人が、一応の……父親です」
フィリアを奴隷商に売り飛ばした、冒険者の父親と言うのが、このデスタと言う男らしい。
「お前を売った金で、結構儲けさせて貰ったよ。ナリアみたいに優秀な精霊術師になると思ったのに、なんの才能も無くて困ったやつだけど……最後はお父さんの役に立ってくれて、良かった。そうだ、もう一回奴隷商に売りつければ、稼ぎは2倍になるな、いい考えだ」
デスタは、フィリアに手を伸ばそうとする。
相手は特級冒険者――手加減できる相手ではない。
セリが影を伸ばそうとした時だった。
「そこまでだ」
その時だった。
デスタの肩を何者か掴んだ。
「あぁ、誰だ?」
背後にいたのは、淡麗な顔立ちの少女だった。小柄な少女は、背中に大剣を背負っており、異様な雰囲気を解き放っている。
だが、彼女の表情は硬く、目の輝きもない。
近くで見れば、まるで精巧に模された人形のような質感の肌。
と言うよりかは、魂を吹き込まれた人形なのだが。
「私は、スヴェラ・レイメールに仕える自動人形だ」
「スヴェラ……あぁ、あれか」
デスタはスヴェラという人物を頭の中で誰だったかを思い出そうとする。
暫くの間を置いて、スヴェラという人物について思い出した。
神人の中でも、詳細が全く分からない怪人物だ。
「んで、神人様の作った玩具がなんのよう? てか、なんでこんなところに居るんだよ」
「理由はなんでも良いだろう。この街の治安維持を急きょ任される事になったのだ。正直誰がどうなろうが、興味はないのだが……任された仕事は真っ当する」
そういった自動人形の少女は、大剣を構える。
「私が気にかけるのは、スヴェラ様だけなのだが……立場上お前の横暴は見過ごせない」
デスタと自動人形は睨み合う。
だが、この状況で一番困惑していたのはセリだった。
突然目の前に、殺すべき相手に仕える自動人形が姿を現したのだ。