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一難



冒険者登録を済ませたセリは、フィリアと共に宿の一階の酒場で食事を取っていた。



それなりに繁盛している様で、大体のテーブルは埋まっていた。



客層も冒険者ギルドの酒場を比べれば、大分良さそうである。




幾つかの注文した料理が、二人の座る席に並べられていた。



肉と野菜の串焼きに、豆を煮込んだスープ、少しゴワゴワしたパン、瓶に詰められた果実のジャム、そして薄味の葡萄酒。



特別豪勢という訳でもないが、決して質素でもない料理が並んでいる。



だが、セリにしてみれば、数年ぶりのちゃんとした食事だ。盗賊達から略奪した非常食まがいの料理より、随分と美味しそうだ。





セリは串焼きを口に含む。



肉の旨みが、口の中いっぱい広がる。干し肉などとは比べ物にならない程に美味しい。



串焼きの野菜も苦味があるが、野菜特有の味わいが幸福感を与えてくれる。





次は、葡萄酒を口にする。




高級なものと比べれば、素っ気ない味わいだがセリに酒の良し悪しなんてわからない。



ただ、なめからな味わいと甘みの中に微かに感じる辛みが癖になる。






「セリさんは食べてる時、幸せそうな顔しますよね」



 

食事に没頭しているセリにフィリアが話しかけてきた。




「ずっと、まともな物食べてなかったからかな。なんでも美味しく感じちゃってさ」




セリはそう言いながらも、パンに目をつける。


見るからにゴワゴワした品質の良くないパンだ。ジャムで味を誤魔化して食べるのが前提なのだろう。




しかし、セリはある問題に気づく。



片腕ではジャムの瓶が開けられないことに。





片腕が無いだけで、こんな簡単なこともできないのだ。



今までその辺りを気にする余裕もなかったが、寝返りが打てないせいで、身体中が痛いし、服を着るのも一苦労だった。



そういった事を考え込んでしまい、少し陰鬱な気分になる。




「ジャムの蓋ですね。私が開けます」




それを、察したのか、フィリアはジャムの蓋を開ける。



「片手だとジャム塗りにくいですよね……私が塗りますね」



フィリアは、スプーンでジャムをパンに塗っていく。



「その、ありがと……」



「そんな、良いんですよ。セリさんは恩人ですから、私が出来ることは何でもします」




こんな簡単な事もできない悔しさと、フィリアの優しさが身に染みる。




「それじゃあ、セリさん。口を開けてください」




フィリアは、セリの口元にジャムを塗ったパンを持っていく。



「流石に自分で食べれる……かな」



「そ、そうですよね、その方が楽かと思ってしまい――申し訳ないです」



食べさせてもらうのは、周りの目もあるので、流石に恥ずかしい気持ちがある。





しかし――。




「あの、その、やっぱり、食べさせて、欲しい……な」


「い、良いんですか?」


「う、うん……お願い」




どうせ、こんな見てくれだ――どのみち恥は晒し続けている。


今更、食べさせて貰ってるからなんなのだ。



それ以上に、セリは誰かに甘えたい気分になってしまった。 



何故だろうか――義母カルディナに風邪で寝込んだ時に、お粥を食べさせて貰った時と重ねてしまったのかもしれない。



心の中でレヴィンが『あらあら〜』などと口走っていたが、気にかけない。




「それじゃあ、セリさん、口開いてください」

 


「わ、わかった」




フィリアは再びパンをセリの口元まで運ぶ。



セリは、それにかぶりついた。



「美味しいですか?」



「う、うん、美味しい……」



甘いジャムが、ゴワゴワのパンに絡まり、口いっぱいに甘さが広がる。


甘味など、いつぶりだろうか。






その時だった。





「おい、身欠け女」




何者かが、リアの頭の上に手を置いてくる。




背後を振り向けば、二人の柄の悪い男達がいた。




腰には剣を携帯している――冒険者だろうか。




「昼間、ギルドで見かけたぜ。受付の女(リッタ)と久しぶりの再会かなんか知らんけど、随分と感動させて貰ったよ」




男は薄ら笑みを浮かべながら、語りかける。




「なんのよう?」



「あのさ、俺ら博打で金擦っちまってさ、わかってるよな?」



「……お金が欲しいの?」



「そうそう、物分かりいいじゃーん」



男はセリの黒衣の中に手を入れて、金目のものがないか弄ってくる。



「不愉快だから触らないで」



セリは男の腕を払いのける。



こんな奴らに、金を渡すつもりは微塵もない。




「くそっ、"足りない癖"に生意気なガキだな」




腕を払われた事に苛立ちを覚えた男は、テーブルの上に置かれていた葡萄酒入ったコップを、セリの頭の上で逆さまにする。



葡萄酒の赤い液体が、頭から足へとセリをずぶ濡れにする。




「さっさと、金出せよ。痛い目を見ないとわからないのか?」



男はずぶ濡れになったセリの胸元を掴んでくる。




「セリさんに何するんですか!?」




あまりものことに困惑していたフィリアが、やっとのこと声をあげる。



だが、それと同時にもう片方の男が、フィリアの肩と手首を掴んだ。




「こっちの姉ちゃんは、随分と良い顔してるな。俺の相手しろよ!」



「や、やめてくださいっ……!」



片方の男は、フィリアの腕を強引に引っ張って無理やり連れ去ろうとしている。





それを見たセリは何かが、プツンっと吹っ切れた。





「う、うおっ!?」



セリは男の手を掴んで、地面に投げつける。



男はズドンと言う音を立てて、床に背中から打ち付けられる。



「て、てめぇ……うぐっ!?」



フィリアを連れ去ろうとしていた男の片目に、咄嗟に串を突き刺す。



様々な戦士の経験を《捕食者》で吸収し、洗練された動きは、三流冒険者風情が到底察知できるわけがない。



気づけば、男の片目に串が中程までに刺さっていたのだ。



「痛い、め、めがああぁ!?」



男は激痛のあまり、フィリアを突き離す。



セリは、追い討ちで剣を鞘にしまった状態で、喉あたり目掛けて薙ぎ払う。



「うぶっ!!!?」



鞘にしまってるとはいえ、喉仏に命中した剣は相当な威力だ。


男はその場に倒れ込み、過呼吸になりながらも悶え苦しんでいる。



「な、何すんだ、き、貴様あぁぁぁ」



セリが地面に倒していた男は起き上がり、持っていた剣で、背後からセリを刺そうとする。



だが横に身体をそらし、それを回避する。



セリは横から、鞘付きの剣を男の両腕あたりに振り下す。



男の両腕は、本来曲がらない方までV字に湾曲する。



両腕は間違いなく、骨が砕けちっているだろう。




「ああぁぁう、腕がぁぁ!?」



男の持っていた剣が地面にカツンと落ちる音と共に絶叫が酒場中に響き渡った。




その光景を唖然とした様子で、酒場中の全員がただただ静観していた。

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