表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナミンにはわかるん  作者: 七海
声の届く場所
PR
11/11

10_第十話_組合の扉

◆ 第十話 ── 組合の扉 ◆


 薬師組合に二度目の訪問をしたのは、ヴァルカに来て十日目のことだった。


 今度は「見習い登録」ではなく、別の目的で入った。


 推薦状が必要なら、組合に顔が利く人物と繋がるしかない。そのためには組合の中の人間を知る必要がある。前世でいうと、転職先のキーパーソンを把握するやつだ。


 ────


 受付は同じ男性だった。こちらを見て「また来たか」という目をしたが、何も言わなかった。


 (覚えていてくれた。それでいい)


 組合の掲示板を眺めていると、奥から声が聞こえた。


「これ、なんて書いてあるか読める者はいないか。カルタ語とも違う、古い書き方だ」


 六十手前の男性が、古びた紙を持って出てきた。


 なんとなく目に入った。目で追う。意味がすっと入ってくる。


「少し見せていただいてもいいですか」


 男性がこちらを見た。「ガキか」


「十五です」


 少し間があってから、紙を差し出した。


 古い薬方の一部だった。調合の手順と配合量が書いてある。


「えーと……『三つ目の工程は熱を加えてから混ぜること。加えすぎると薬効が飛ぶ。火の強さは炎の色で判断せよ』と書いてあります」


 男性は黙っていた。


「……正確か?」


「たぶん」


 (確信を持って言える理由が、うまく説明できない)


「ヴェルナーというんだが」と男性は言った。「薬師組合の古参だ。お前、読み書きができるんだな」


「はい」


「古い文体も?」


「……なんとなく」


 ヴェルナーは紙を受け取って、少し考えた。


「お前の名前は」


「ナナミンです」


「変な名前だな」


「よく言われます」


 ヴェルナーは小さく笑った。初めて見る顔だった。


「一つ聞く。組合に入りたいか」


「はい」


「正直だな。推薦状が必要なのはわかってるか」


「わかっています」


 ヴェルナーは鼻を鳴らした。それ以上は何も言わなかった。でも帰りぎわに、


「また来てもいい」


 とだけ言った。


 (……これは「また来てもいい」じゃない)


 声の底に、続きがある。組合員に言う言葉ではなく、見込みのある外部の人間に言う言葉だ。あの人は今日、私を試していた。そして及第点を出した。それだけわかった。


 ────


 宿への帰り道、夕空が橙色だった。


 (今日は何かが前進した。たぶん)


 確信はなかった。でも感じた。


 ヴェルナーのことを「試している」と思わせない計算が、あの人にはあった。あれは試していた。でも見せない。そういう大人だ。


 (ナナミン、好きなタイプの大人や)


────────────────────────

【ヴェルナーの関心】

────────────────────────


 ヴェルナーは夕方、組合の棚を閉めながら今日の娘のことを考えていた。


 古い文体を「なんとなく」読んだ。


 あれはなんとなくで読める文体ではない。ヴェルナー自身、三十年組合にいて習得するのに五年かかった。それを十五の娘が「たぶん」と言いながらやった。


 (どこで覚えた)


 リシェル村出身だと聞いた。農村だ。師がいたとは考えにくい。


 「ナナミン」という名も気になった。どこかで聞いたような気がする。でも思い出せない。


 (まあ、いい。また来る娘だ。急がなくてもわかる)


 棚に鍵をかけながら、あの娘が「また来てもいい」と言われた時の顔を思い出した。


 喜んでいた。でも表情に出さなかった。


 (大したものだ、十五にしては)


────────────────────────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ