6話
その日の晩。俺は一度帰宅して自室のベッドで
頭を捻らせていた。
「うーん……」
……いったいどうしたものか。一人で作るのならまだしも、二人で合作となるとなかなかにリスクがある。二人でやれば可能性も広がるのだろうけれど、その分考えの衝突なんかであっけなく解散、なんてこともありえるし。
「というか、俺はどうしたいんだろ……」
正直、まずはそこなんだよな。そもそも俺はどうしたいんだろ。
今まで小説が好きで小説家を目指してきた。でも、俺って小説が好きなんだろうか? いや、小説はもちろん好きだ。けれどたぶん、それだけではないんだよなぁ……。
小説が好きというよりは、俺は物語が好きなんだと思う。実際、映画や漫画も好きだし。
「……じゃあ」
じゃあ、俺が本当にやりたいことって、物語を作ることなんじゃないか……?
そんなこんなで自分探しをするように頭を捻らせていると、突然ドアがガチャリと開かれた。
「お兄ちゃーん。おやすみー」
ドアが開かれた先には、妹の未来がいた。
「ああ、おやすみ」
すると、何やら未来が訝しげな目を向けてきた。
「……あれ? なんか悩んでる?」
唐突に図星をつかれ、俺はドキッとしてしまった。直接心臓を鷲掴みされたような衝撃だ。
「……え、なんでわかるの?」
「ふっふっふー。私、これでも洞察力に優れているんだよ」
してやったりな顔をして胸を張る未来。まあたしかに、未来は昔から人の嘘とかを見破るのが上手いけれど。
小学生の頃、俺が未来のアイスをこっそり食べてしまった時とか、すぐにバレたりしたっけ。
「まあ、未来には関係のないことだよ」
「ふーん……。もしかして、女の子関連?」
「うーん……。まあ相手は一応女の子だけど」
「やっぱりね、ビンゴ!」
まさかそんなことまで見破られるとは。我が妹ながら恐るべし。もう探偵とか目指しなさいよ。
「でも、別に恋愛関係じゃないよ。ちょっとした提案をされただけ」
「提案って?」
「うーん、それは内緒かな」
「なにそれ。ちょー怪しい」
未来が奇怪なものを見るような目でこちらを見つめる。
そんなあたりで、俺は少し思い立った。未来にちょっとだけ、相談に乗ってもらおうかな。
「……あのさ、ちょっといい?」
「ん? どうしたの」
「……これは友達の話なんだけど。もし、一度諦めた夢を今度は別の形で目指そうかなってなった時って、どうするのが正解なのかな。未来はどう思う?」
友達の話だなんて言ったが、まごうことなき俺の話だ。でもここは誤魔化しておきたい。だって恥ずかしいもの。
まあ、未来にはすぐバレるんだろうなと思いつつも。
「えぇ、なんかむずいね。うーん……」
未来はしばらく唸った。結構真面目に考えてくれているようだ。
「ものにもよるけど、私だったら別の形で目指すのもありかなって思う。どんな形であれ、自分がやりたいことなんだったらいいんじゃない? いろんなやり方で頑張るべきだよ」
「……なるほど」
その通りかもなぁ、なんて思った。まだ中学生ながらいいアドバイスをくれた。
兄でありながら妹に相談するのは情けなくも感じたが、未来に相談して良かった。
「ありがとう、友達にも伝えてみるよ」
「というか、本当に友達の話?」
ギクリとした。まあ、洞察力に長けた未来はすぐに見抜くだろうとは思っていたが。
「本当に友達の話だよ。とにかく、相談に乗ってくれてありがとう。もう遅いし、早く寝な。おやすみ」
「はいはい。おやすみ」
そう言って未来はつまらなそうに部屋のドアを閉めた。
さてと、寝る前にもう一度考えてみよう。
俺はどうするべきなんだろうか。
俺は物語が好きだ。いつか作る側に回ってみたいと思うほどに。どんな形であれ、物語を作りたいという気持ちがある。
そりゃあ、小説家になれたら一番いい。けれど俺には、もう小説家を目指す勇気なんてない。
だったら、今度は漫画家という別の道を目指すのもありなんじゃないか? 俺の作品を唯一、面白いと言ってくれた赤根さんと一緒に。
……とはいえもちろん、安易な気持ちで目指すつもりなんてさらさらない。やるからにはそれなりの覚悟が必要だ。
そうだ……。やっぱり俺は、物語を作りたい。
『どんな形であれ、自分がやりたいことなんだったらいいんじゃない? いろんなやり方で頑張るべきだよ』
未来の言葉が頭に響く。
小説家と同じで、漫画家で成功できるやつなんてほんの一握りだ。それくらいのことは俺も知っている。
けれど、やっぱり俺ももう少しだけ、自分の好きを追いかけ続けてみたい。




