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32話


 あっという間に時は過ぎ去り、俺と赤根は高校を卒業した。


 赤根は近所の芸術大学に進学した。高校を卒業してから二年が経った今でも、漫画を描き続けているらしい。


 そして俺はというと、卒業後は近くの食品会社に就職した。


 一年ほど実家から職場に通勤し、さらに一年が経った今は一人暮らしをし始めた。


 仕事をしながら、小説を書き続ける日々を送っている。年に最低三作品は書いて、賞に応募し、ダメだったら小説投稿サイトに掲載しておくといった形で活動していた。


 幸い職場はホワイトなので、残業も少なく土日は休み。そのため、執筆に充てる時間は大いにあった。


 そんなこんなで時は過ぎ去り、それから四年の月日が経過した。


 歳も二十四歳。まだまだ若いけれど、二十代中盤になってくると、これまた少しずつ漠然と将来が不安になってくる。


 というのも、最近鏑木君と長塚君と近くの居酒屋へ飲みに行って、近況報告をしあったのだけれど……。


「俺、結婚するわ」


「……え、……えっ!?」


 鏑木君から衝撃すぎる報告があったのだ。


 突然頭が落雷に打たれたような衝撃が走った。


 話を聞くと、大学のゲームサークルで出会った人とらしい。


「か、鏑木氏が、結婚すか!?」


 衝撃を受けたのは長塚君も同様のようで、ビールの入ったグラスを極々と飲む鏑木君に迫った。


「まあな」


「おめでとう!」


「おめでとうっす!」


「ありがとな」


 聞いた時は驚いたが、めでたい話だ。


「まあだからさ、これからはちょっと会う機会減るかも。悪いな」


「まあ、それは仕方ないよ。寂しいけどね」


「まあ、そうっすね」


 ちなみに長塚君は大学を卒業した後に、有名なIT会社に就職したそうな。


 かなりの大手企業で、年収も良いみたい。最終的にはIT関連の会社立ち上げて起業したいと考えているらしい。


 せっかく大手に就職したのに、わざわざ起業なんてする必要があるのだろうかとも思った。けれど、それが彼の夢であるというのならそれはそれでありだと思った。


 周りがどんどん大人への道を進んでいっている。


 それに比べて俺はどうだろう。仕事をして、小説を書くのを繰り返す日々。夢に向かって努力しているつもりではあるが、本当に前進できているのかたまに疑問となる。


 結婚とかも、少しは考えた方がいいのだろうか。漠然と将来のことが不安に思えてきた。


 けれど今は、小説家になるという夢すらも叶えられていないのだ。まずは夢を実現させるのが先だろう。


 今俺は、自宅の作業机にてパソコンを立ち上げているところだった。1Kアパートの手狭な部屋だが、男一人で住むには十分なスペースだ。


「うーん…………」


 将来への不安を打ち消し、新しい小説のプロットを練る。しかし、相変わらずなかなか良いアイディアが浮かばない。


 代わりに頭に思い起こされるのは、懐かしくも青い高校時代の日々。鏑木君や長塚君と三人で『ギルゼノ』をやっていた日々。橋本部長や蔵前との文芸部の活動。そして——。


「……赤根」


 赤根と過ごした、一緒に漫画を作っていた日々。やっぱりなんだかんで、俺の学生時代の一番の思い出は、彼女と合作をしていた時間になるだろう。


 赤根と漫画を制作していた日々は、今でも色濃く記憶に残っている。


 俺の人生が、一番楽しかった日々だといっても過言ではないくらいに、素敵な思い出だ。


「……ははっ」


 赤根と過ごした時間は、今でも昨日のことのように覚えている。彼女と交わした会話を色々思い出すだけで、楽しい思い出が思い起こされた。自然と笑顔になれた。


「…………そうだ」


 俺の指が何かに導かれるかのように、キーボードの上を走り出した。


 カタカタと指でキーボードを叩く音が止まらない。次々と頭に赤根との時間が流れ込んできて、執筆が追いつかないくらいだ。


 そうだ、これを書こう。相棒と過ごした、あの大切な日々を。いつまでも色褪せない俺たちの物語を、小説で紡ごう!


 静かな空気を纏った暗い夜。まだ何者でもない俺は、この広い世界の片隅にある小さな部屋で、本当にあった一つの物語を綴っていった。


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