27話
冷たい冬の風が窓を揺らしていた。
「うぅん…………」
俺はなんの意味もなく、ベッドの上で布団に包まっていた。
微かに揺れる窓の音が、そんなどうしようもない俺を責め立てているように思えた。なんだか息が苦しくて、恐ろしいほどに落ち着かない。
「…………」
冬休みが終わり、あっという間に始業式を迎えた。けれど俺は、始業式に出席していない。
それ以降も学校には行かず、今のようにずっと自室で閉じこもっていた。
そうし始めてから、かれこれ一ヶ月は経とうとしている。
「…………」
赤根と『ショーマン』を解散したあの日以来、俺の身体は思うように動かせないでいた。
まるで心が深海の底まで沈められているようで、地上に這い上がることを諦めてしまっている。
……とにかく、本当に何のやる気も湧いてこないのだ。
あと、単純に学校に行って赤根と会うのが怖い。あんなことがあった後なのだ。気まずいどころの話じゃない。何より、今さら合わす顔なんてない。
「…………」
赤根と別れた後、俺はすぐに彼女の連絡先を消去した。
赤根のことを嫌いになったわけではない。けれどあんな別れ方をした後じゃ、気まずくてこの先会う気が起きなかった。
全部自業自得だし、全部俺が悪いのだけれど、正直もう会いたくない。
「……ぐすっ、……くっ」
気づけば涙で枕を濡らしていた。俺がこうして惨めに蹲っている間にも、学校はいつも通り行われている。そう考えると、なんだか俺だけ別世界に取り残されているみたいに思えた。足が地についていないような、何とも言えない心許なさを感じた。
時の流れというのは残酷だ。俺が一人で部屋に蹲っていても、時間の流れは寄り添うことなく過ぎていく。まるで冷ややかな目で蔑み、見ないようにされているみたいに。
「……ぐすっ、……うううう!」
……自分がどうしようもなくダメなやつに思えてきて、だんだん目の奥が熱くなっていく。鼻水も止まらない。俺は一体何をやっているんだと、自分が心底滑稽に思えてくる。
「お兄ちゃん……。学校行ってくるね」
部屋のドアがゆっくりと開かれ、妹の未来が声をかけてきた。
「……うん」
泣いた顔を悟られないように、俺は布団で顔を隠した。そして、無気力な返事を返す。
未来はそんな俺を心配したのか、腫れ物に触るように一歩引いた口調で訊ねてきた。
「……あのさ、お兄ちゃん。学校で何かあったの?」
「…………別に何も」
「お母さんも……心配してるよ?」
「…………うん」
母さんと未来には、何があったのかを話していない。ただ、なんとなく体調がすぐれないのだと伝えている。
二人に嘘をついて、その上心配までかけて、本当に申し訳ないと思う。でも今はどうしようもないのだ。それゆえに、未来の心配する声に罪悪感と申し訳なさを駆り立てられ、胸が苦しくなる。
「……じゃあ、行ってきます」
未来はそう言い残し、ドアをそっと閉めていった。
俺は布団を耳に押し付け、耳を塞ぎ込んだ。
……もう、何も耳に入れたくない。もういっそのこと鼓膜をぶち破って、この世のありとあらゆる音を遮断したい。
もうこのまま死んでしまいたい。だってもう充分じゃないか。結局夢は叶わなかったけれど、やれるだけのことはやれたんだ。
赤根と……あんな可愛い子と漫画の合作ができたんだ。
漫画や小説、映画やアニメ、今まで生きてきてたくさんの物語とも出会えた。友達もいて、俺のことを心配してくれる家族もいる。
俺は幸せ者だ。どうせ夢を叶えられないのなら、もう潔く死のう。……そうするべきだろう。
「…………ん」
そんなことを考えていた矢先、近くに置いてあったスマホにメールの通知音が鳴った。
体を少し動かし、スマホに手を伸ばしてみる。
ここ一ヶ月ずっとベッドで寝たきりだったので、身体が訛りのように重い。
そうしてスマホを手に取り画面を見ると、そこには鏑木君からのメールが映し出されていた。
『体調まだ治んないのか? 長塚も早く三人で
『ギルゼノ』やりたい、って言ってるぞー』
とのことだ。
……二人にまで心配をかけてしまって、申し訳ない気持ちになる。
鏑木君と長塚君には、単なる体調不良だと伝えてある。けれど、さすがに一ヶ月も学校に来ないとなると、心配をかけさせてしまっているのかもしれない。
『ごめん、まだ体調治んなくて。またそのうち行くよ』
ひとまずはそう返した。そのうちといっても、それがいつになるのかはわからないが……。
するとしばらくして、また鏑木君からメッセージが届く。
『まじかー。まあ早く来てくれーい。三人揃わないと新クエストクリアできねぇよ』
何気ない呟きのメール。しかし、どこか暖かさを感じるメッセージだった。
その短いメールの言葉は、俺の冷めた心をほんの少しだけ溶かしてくれるようだった。やっぱり持つべきは友達だ。
また学校に行こうかな……。
たった一言二言友達とメールをしあっただけで、そんなふうに気持ちが揺れ動いた。
こんなことで暖かい気持ちになれるなんて、人間の心理というのは実に不思議なものである。
すると、そんなことを考えていた矢先。鏑木君から気になるメールが届けられた。
『そういえば、冬休み明けてから赤根さんも学校来てないんだよ』
「……え?」
その文を読んだ時、思わず声が出た。
『翔太郎って赤根さんと仲良かったよな? なんかお前が休んでんのと関係あんの?』
ギクリとした……。けれど、ここはひとまず誤魔化そう。
『ないよ。赤根さんがなんで休んでるのかは知らない』
『そっか。まあお前も早く学校来いよー』
そんな感じでやり取りは終わった。
「…………」
赤根も学校に行っていないのか……。一体どうしたんだろう。
今さら心配するなんて虫がよすぎるけれど、それでもやっぱり心配だ。
「んー……」
というか赤根が学校に来ていないんなら、そろそろ学校に行ってみてもいいかも。
赤根と会うのが気まずくてなんとなく学校に行きづらかったところがあるから。
まだ気持ちが晴れたわけではないが、鏑木君と長塚君に会いたいという気持ちもある。
明日にでも……いや、流石にそんなすぐには行けないから、明後日からまた学校へ行ってみようかな。




