22話
四章 お別れ
「私思うんだけどさ、物語って作家が描いてから生まれるものなのかな? それとも、作家が頭の中で物語を想像した時点で生まれるものなのかな?」
そんな卵が先か鶏が先か、みたいな話をされても困るわ。
翌日。新幹線に乗車して、俺は赤根と向かいあって席に座っていた。彼女がする他愛のない話を聞きながら。
今日の赤根は、普段と比べてもより上機嫌に見受けられる。おかげでいつもより饒舌だ。
「どうしたんだよ、急に意味のわからない話をし出して」
俺が駅弁の鰻丼を口に運びながら赤根を見つめた。久々に食べた鰻はおいしくてあごが落ちそうだ。
「いやー、私たちもとうとう作家デビューするわけじゃない? だから今のうちに作家としてさ、作品に対する考え方とかモットーを持っておこうかと思ってね!」
それがなんでさっきの話に繋がるのかがよくわからない。
出版社からメールがきたことがよほど嬉しいのか、赤根は顔を綻ばせながら駅弁を頬張る。
「んーっ、おいしい!」とほっぺを押さえながら、ご満悦な表情を浮かべていた。
「……にしても小玉君、昨日からやけに元気がないわね。なんかあった?」
鰻を食べた口に手を抑えながら、赤根が俺に訊ねてきた。
「えっ、そう? いや……全然元気だけど」
「そう? まあ、ならいいけどさ!」
そう言って食事を再開する赤根。幼稚園児かと言いたくなるほどにガツガツと弁当を頬張っている。
……にしてもそんなことを訊かれるなんて、顔に出ていたのだろうか。
正直、元気というのは嘘だ。昨日のメールを見た時からずっと、引っかかっているものがある。
『あなたの作品の画力には光るものを感じました』
そのメールの一文が、ずっと頭にこびりついてとれない。
俺たちは二人で一人の漫画家だ。当然賞に応募する際にも、備考欄にそう入力はしておいた。けれどメールでは、〝あなた〟と記されていた。
……これはつまり、俺たち二人を指しているんじゃなくて、赤根だけを指名しているんじゃないか……?
いやだとしたら、今日俺って来てよかったのかな……。
昨日メールに返信する際にそこらへんのことを聞いておけばよかったなと、今さらながらに悔やまれる。
けれど、怖かったのだ。もし本当に赤根だけが認められていて、俺だけ除け者扱いされるのが。俺だけ認められないのが、怖かった……。
そんな情けない気持ちがあって、メールで訊くに訊けなかった。なんとも情けない話だけれど……。
「でねでね! やっぱり出版社の人と話す時はしゃんとするべきだと思うわけよ。なんてったってこれから私たちの漫画家人生……いや、私たちの未来に直結するかもしれない大事な機会になるわけだもん。今のうちにちょっと練習しようよ!」
赤根は今後の未来を疑いもしていないような真っ直ぐな目で、無邪気な子供のように話している。
この様子を見るに、赤根は何も気づいていないっぽい。おそらく自分だけではなく、俺も含めて評価されているのだと思っているのだろう。
まるで俺たち二人で駆けていくのが当然と言わんばかりに……。
この人はいつもそうだ。どこまでいっても、俺と二人で駆け上がることを前提に話してくれる。
俺と二人で必ず漫画家になる未来。まるでそんな未来しか見えていないというように、どこまでも俺を前へと連れていってくれる。
けれど今は、それが嬉しくもあり心苦しくもあった。
これからの、俺たちの未来…………。
唐突に俺たちの……いや、自分の未来が不安に思えてきた。
〝二人で漫画家になる。〟とっくにそう決めていたはずなのに、その思い描いている未来は本当に俺たちの正解なのだろうか。
俺は……本当に赤根の隣にふさわしいのだろうかと……。




