閑話3
「おい、あれは……SSSランクの冒険者パーティーの『紫水晶の瞳』じゃね!?」
「あの目つきの悪い犬獣人……隻眼の狼獣人。間違いねえ」
「ああ、もっとも大三賢者に近い実力を持つと言われているあの……!!」
三聖武道祭に出場するためにステラ王国の首都の冒険者ギルドに足を踏み入れると、そんな声が聞こえてくる。
数年前、ソリテールと俺が出会った後、パープの話で意気投合しパーティーを組むこととなった。そして組んでから気づいたんだが……こいつ、とんでもなく強え。
せいぜい俺と同程度か若干上くらいだと思っていた。だが違った。ソルはSSSランクだった。
そして……これも後で気づいたことなんだが、ソルは狼獣人ではなかった。銀狼王という伝説の魔物だったのだ。今は【人化】スキルで人に化けた姿なんだとよ。
いや、まあ俺も魔境の森に一般人が居る訳ないってすぐに気付くべきだったな。うん。
だがなあ、そんな大事なことはパーティーを組む前に言うべきだとは思わないか?
ソルなんか「言ってなかったっけ?」とあっけらかんとしていた。ガッテム。
まあ、ソルが強いことは俺にとって喜ばしいことだった。俺はちょうど強さに行き詰まっていたところだったもんで、ソルに稽古をつけてもらうことになった。
ソルは手加減なんかしてくれなかった。いや、出来ないという表現の方が正しい。
当たれば死ぬであろう攻撃を平気でバンバン繰り出してくる。
お陰様で、俺は壁をぶち破りSSSランクになることが出来た。
それから俺たちは旅をした。パープを見つけるために。その旅路でクエストを受けたり、人助けを行うことで俺たちはより強くなっていった。
エトワール大武道大会では、ソルは優勝、俺は準優勝を果たし、三聖武道祭に出場することになった。
ステラ王国……俺を、いや、俺とパープを殺そうとした奴らがいる故郷に帰ってきた。
怒りはある。だが、復讐したいとかそういう気にはならなかった。ただここから早く離れたいとだけ思った。
「ラファ、大丈夫か?」
俺の事情を知っているソルは珍しく心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。
「ああ」
もちろん大丈夫だ。
不快な気持ちよりも、もっと喜ばしいことがある。ここに各国のエトワール大武道大会で勝ち上がった者が集まる。ということは、パープもここに来て三聖武道祭に参加するかもしれねぇってことだ!!
そんな期待を胸に冒険者ギルドに寄った矢先のこと、ある“二つ名“が耳に入った。
「今回の三聖武道祭には、あの“金色の悪魔“も出場するらしいぜ」
「あの!? かー、まじかー!! 見目が良い兎獣人らしいし楽しみだわ!!」
「おいお前知らないのか? 金色の悪魔ってのは血も涙もない残虐な殺人鬼なんだぞ!?」
「金色の悪魔……?」
初めて耳にした二つ名だ。どんな戦果をあげたらこんな異名をつけられるんだか……。
だがどこか引っかかる。
ソルも俺と同様に、その金色の悪魔が気になるようだ。
そんな中迎えた三聖武道祭。その初戦で見た光景に戦慄した。
パープだ……。俺が最後に見たあいつは3歳だったが、確かにあいつはパープだ。
背丈は伸び、もう幼女ではなく少女と呼んでいい容貌となっていた。
そして、こいつの二つ名が金色の悪魔であることを知った。パープ……お前、一体何をしたんだ?
♢♢♢
三聖武道祭の戦績はソルは2回戦敗退、俺は1回戦敗退だった。
大三賢者になるのは冒険者を続ける上で面倒だから適当なところで負けようとしていた……だが、まさか本当に実力で初戦負けするとは思わなかった。ソルもそうだ。まさかあのソルが2回戦で負けるとは夢にも思ってなかった。
ソルが戦ったのはリバーとかいう少年だった。妙な仮面をつけていて、なんかドロドロとしたオーラを放ってたな。
ソルは野生の勘で危険だと悟り、棄権をした。その判断はおそらく正しい。現に、あいつと戦った奴の半数は再起不能と判断されるほどの重傷を負った。いくらソルが強いと言えども、アレには勝てないと俺でさえ分かるほどの戦力差があった。
そして俺が戦ったのは精霊の国のお姫様、シーという少女だった。頭に変なメンダコを乗せていることを除けば、完璧に洗練された美少女であることは一目瞭然。
そして一目見たとき、こいつの強さが測れなかった。強いのか弱いのか、それすらも。ただただ、不気味だった。
まあ物は試しと攻撃してみれど、全て避けられてしまう。そして気づけば俺は水の中で溺れていた。あ、これ戦っちゃダメなやつだと気づいたのはその時だった。もう全てが手遅れ。
まあ俺ら2人共負けたわけだから、気楽に観戦してたんだが、まさかパープが大三賢者になるとはな!!
あんなにちっちゃかったのに、今じゃこんなに強くなって……。これが親の気持ちってやつかあ? なんだか誇らしいぜ。
そしてパープに声をかける暇もなく三聖武道祭は終わってしまった。
慌ててパープを探すがどこにも居ねえ。
あ、あり? せっかく涙の再会が出来ると思ったんだが……。いやいや、俺らは諦めねえ!! この街に居るって分かってんなら絶対に見つけてみせる!!
それにソルは鼻がいいからな、パープの場所くらい簡単に見つけてくれるはずだぜ!!
「ソル!!」
「分かっておる。我の鼻は魔境の森一番だからな!!」
ソルは鼻を軽く揉み、目を閉じる。そして鼻がひくひくと小さく動き始める。
すると突然……
――パリン!
どこからか小瓶がとんできてソルの鼻に激突し砕けた。瞬時に敵襲かと臨戦態勢になるが、それと同時に強烈な香りが漂う。
毒……ではない。この甘ったるい匂いは香水か!?
「うがあああっ!! 我のは、鼻がっっ!!?」
案の定、鼻が効くソルにはどんな毒より効果てきめんだったようで、床で転がり周り悶絶している。
「ごっめんなさぁ〜い。うっかり手を滑らせてしまいましたわぁ〜〜」
「――っ!!」
「――げぇっ!?」
ケバケバの分厚い化粧をして化物と化した貴婦人が、高いハイヒールを履いた足をモタモタと引きずりながら、身の毛がよだつ猫なで声を出して近付いてくる。
近付いてくるにつれて、段々と香水よりも甘い……いや、何かと何かが混ざってできた凄まじい激臭が強まっていく。
ソルはどんな魔物にも腰を抜かしたことが無かったのに、今や貴婦人を前に腰を抜かし、冷や汗と涙をダラダラと流している。
「あらやだ、貴方達とってもかっこいいわね!! わたくし専属の執事にならなぁい?」
「あ、いえ……俺たちは冒険者でして……」
宝石がジャラジャラとついたドレスを見る限り、この貴婦人はそれなりに地位の高い貴族なのだろう。
失礼な態度をとるわけにはいかず、やんわりと断ろうとする。
「冒険者なんか関係ないわ!! 今すぐやめて、執事になるといいわぁ♡ わたくし、平民にも優しいと有名なのですよ」
「いえ、しかし……」
「そうですわっ!! 愛人でも構いませんわっ!! 特に貴方、とってもセクシーでわたくし、気に入りましたわ♡」
「ひっ」
貴婦人は扇をソルに勢いよく向ける。
……ソル、お前ヤバい奴に目ぇつけられたな……。
パープ、すまん。再会は出来ねえかもしれねえ。
……哀れ




