第73話 ラズリ
「お待たせ、待った?」
「ううん、全然!! あ、今日は髪を編んでるんだ! いつものも似合ってるけど、編むと一段と可愛いね!!」
「ありがと……。アムールも可愛いよ」
「男にそれはないだろ〜」
シーちゃんが張り切りすぎたせいで、なんかすっごい気合い入ってる人みたいになっちゃった。
いつもはてきとうに髪を下ろしてるんだけど、今日はシーちゃんが編み込みをしてくれた。
それに服装もね……。いつも通りでいいのに、わざわざお店で高いワンピースを買ったんだよね〜。断ったんだけど、シーちゃんがプレゼントしてくれた。「デートを楽しんできてね♡」だってさ。
デートじゃないって……。アムールは友達だもん。それに……私がいくら着飾ったってアムールの可愛さに敵わないよ。これじゃあどっちが女か分かんないね。
「今日は僕がエスコートするね!!」
「よろしく!! まずはどこ行くの?」
「まずは……エトワール大図書館に行こう!!」
「えぇ!?」
な、なんで私が行きたがってること知ってるんだ……?
「実は父様におつかい任されててさ〜」
な、なんだ。知ってたわけじゃないのね。
「付き合ってくれる?」
「もちろん。でも、ここからかなり距離あるよね? どうやっていくの……?」
「まあ見ててよ」
アムールが手を差し出してくる。何をしようとしてるんだと疑いの目を向けつつ大人しく手を乗せる。
「じゃあ行くよ。――【空間転移】――」
「――っ!?」
て、【空間転移】!? まさかまさかの!?
景色が瞬きのうちに変わり、気づけばエトワール大図書館の前に立っていた。
「……」
「この魔法は神聖魔法の1種なんだ。魔法の練習をしているうちにいつの間にか使えるようになってたんだ」
「す、凄いね!!」
「でも一緒に転移出来るのは1人までなんだ。まだまだ練習が必要そう……」
どうして私の周りには異常な人しかいないんだ?
転移魔法は大昔に消えた技術。使い手がもう居ない。なのに……どーしてシーちゃんもアムールも使えるのよ!? 絶対おかしいって!!
「じゃあ、入ろうか」
「う、うん」
身分をなんとか証明して中に入ると……なんとまぁ圧巻圧巻。
この建物は巨大な木……世界樹を囲むようにして建っている。ほぼ全ての本棚は10メートルくらいあって高いけど、世界樹に沿うようにある中心の本棚は果てしなく上へと連なっていて、他と比べものにならないくらい高い。天井が見えないや……。
少し薄暗いけど、足元にあるキラキラした鉱物や宙を飛び回っている発光した謎の生物がいるから問題ない程度だ。逆に神秘さが増しててエモい。
「ね、ねえ。これ、どうやって本を探すの? いやいや、場所が分かっても本を取れなくない?」
あまりの本の多さに率直な疑問を聞いてしまう。
「司書の妖精さんに聞けば何でも教えてくれるよ。それに……本を取るなら飛べばいいんだよ……??」
アムールは「え、まさか飛べないの?」と言いたげな顔だ。えっと……はい、普通の人は空を飛べないよね?
そんな異常者と同じにしないでくれ。
まあ飛べないことはないけど、精度が良くないから、最悪本棚に突っ込んじゃうんだよな。
「何か読みたい本があるの? それなら僕が取ってこようか?」
「ううん、大丈夫だよ。アムールは用事を済ませてきなよ」
「そお? ……分かった」
私が探してる本、アムールにはあんまり知られたくないしね。
これは私の問題だから。
司書さんを探していると、手のひらサイズの妖精を見つけた。
小さなエプロンをかけて、本の整理をしている。多分この子が司書さんかな?
「すみませ〜ん。探してる本があるんですけど……」
「え? ああ、貴方は噂の金色の悪魔さんですね。僕は司書のラズリです。何をお探しですか?」
ご、金色の悪魔……。その二つ名を聞くたびになんだか悲しくなるよ……。
この屈託のない笑顔……悪気は微塵もないんだろうね。でも私は傷ついたよ??
まあ、その可愛さに免じて許してやろう。
「雪の精霊に関連する本を探してるの」
「はぁ〜、雪の精霊……懐かしい響きですね」
「……懐かしい?」
ラズリは眼鏡をかけ直しながら答える。
「ええ、雪の精霊は転生を繰り返す生物。僕は数千年生きているので何度かお会いしたことがあります」
「そうなの!? どんな姿をしてた!?」
「中心部の棚のA-Q-Z-4989の区画にある『精霊叙事録』の雪の精霊の章にて詳しく書かれておりますよ」
「えぇっと、A-Q-……?」
「あは! 案内しますよ、ついてきてください!!」
ラズリは勢いよく羽ばたき、中心部の方へ行ってしまった。
見失わないように足元に注意しながら慌てて追いかける。
「実はあの本は僕が書いてるんです」
「そうなの!?」
「あの本はこの世界が続く限り完成しない。だから数千年生き続ける僕にしか書けないんです」
「ずっと……1人で書き続けてきたの?」
前を向いて飛んでいるからラズリの表情が見えない。
一体、どれだけ1人で居たんだろう? きっと私なんかじゃ想像できないくらい寂しかったはずだ。
「……本当は双子の弟が居たんですけどね」
「弟?」
「名前はラピス。僕と同じ本の精霊」
えっ、ラズリって精霊だったの!? てっきり小さいから妖精なんだと思ってた。
「この体はあくまで分身だから小さいんです! 本体は君より背が高いんですからねっ!!」
そ、それは大変失礼いたしました。
「数百年前、突然ラピスは消えた。この世界にラピスの気配はない……だから多分、異世界に連れ去られたんだと思います」
「い、異世界!?」
「そう。もうずっと会えていない。……あの子は僕より力がない。泣き虫だし……どこかで泣いているかも……」
「……」
そんな……異世界で行方不明だなんて……。
「着きましたよ」
話しているうちにいつの間にか着いてしまったようだ。
「この本が『精霊叙事録』ですよ。雪の精霊の章は――」
「大丈夫だよ!!」
「――っ、びっくりした〜。急にどうしたんですか?」
はっ、思わずラズリの言葉を遮ってしまった。でも、これだけは伝えたかったんだ。
「私もね、大切な人と離れ離れになってたんだ」
「……」
「場所も分からない、生きているかさえも……。それでも、最後まで諦めなかった!! 探し続けた!! そしたらまた会えた!!」
「……でも僕はこの図書館から出られないんです。そういう呪いがかかってるから……」
「なら私が探すよ!!」
「どうして僕にそこまで……」
「友達になりたいから!」
友達ができるまで、私はずっと孤独だった。どれだけ辛くても、話せるような……痛みを分かち合える人は誰も居なかった。
でも、友達ができてからは違う。
本当に毎日が満たされて……何も無くったって幸せだと感じられるようになった。
ずっと孤独だったから、ずっと苦しかったから、だからこそ、君の辛さをほんの少しだけ理解出来ると思う。
だから……君の孤独も、友達になることで分かち合いたい。一緒に苦しみを分け合いたい。
「……ありがとう。なら、友達になりましょう」
「よろしくね、ラズリ!!」
「よろしくお願いします、パープさん」




