第67話 三聖武道祭①
「それでは始まりました〜三聖武道祭!! 栄えある第一回戦で戦うのは〜〜〜!? 現大三賢者の『万叉の調律者』、シャルマン!!」
「「「きゃーーーーー!! シャルマン様ぁぁぁ〜〜〜!!」」」
黄色い歓声と盛大な拍手でイケオジが闘技場へと上がっていく。
「対するは12歳初出場の新星、『金色の悪魔』の異名を持つパープ!!」
「「「……」」」
さっきまでの騒がしさが嘘かのように静まりかえる。
もう慣れっこだ。唇を噛み締めながら歩き出した瞬間――
「パープちゃ〜ん!! 頑張って〜〜!!」
大好きな人の声と、拍手の音が2つ。たった2人から発せられる音だから凄く小さいけど、ちゃんと聞こえてくる。
1人はシーちゃん、もう1人はアムールだね。大丈夫、私は1人じゃない!
「準備はいいですね?」
ここで全てが決まる。自由を得るか否か。
「それでは――」
絶対に負けられない戦い。
「試合開始ですっっっ!!」
私なら……出来るっ!!
「――っ!?」
何かに驚いたのか、それとも何かを感じ取ったのか、シャルマンの鞭を振るう手が止まる。
「何ですか……その目はっ!?」
この目が熱い感覚、全能感、懐かしい……。今ならきっと、私は何でも出来る!!
♢♢♢
「――っ!?」
な、なんだこの異様な気配は……!? 私の勘が全力で危険だと言っている。
おかしい、この少女はあの海の精霊のおこぼれでS級になったと認識していた……戦闘力も私には及ばない程度だったはず……。それなのに……っ!
「何ですか……その目はっ!?」
光り輝くその瞳に圧倒される。この威圧感、殺気、美しい瞳……私は知っている。これは……強者だけが到達できる真理の境地に踏み入った証だ!!
これに似た瞳を持つ大三賢者、序列2位の奴が言っていた。
『この瞳は……私のような特殊な血族か、真理の境地に至ったものだけが手に出来るものだ』
私はその瞳に魅入り、憧れ、そして手に入れたくなった。
私は必死に強くなろうと……その瞳を手に入れようと努力した。だが手にすることが出来なかった。私の心に、野心と保身の感情が残っているからだろうか……。
序列2位は無理だと一蹴した。そして私は諦めた。
肉体の全盛期はとうに過ぎ、修行をしたところで到達する場はたかが知れている。これ以上叶えられぬ夢を追い求めたところで何になる? この私の努力、血と涙と汗……叶えられなければ全て、無と等しくなるそれに……どうして全てを賭けられる?
その、夢にまで見た瞳を――どうしてこの少女が持っているのだ⁉
「――、くっ!」
接近されまいと鞭を全力で振るう。
「そう来るのね……なら私もっ‼」
少女の腕に巻き付くようにしていた蔦が鞭のように動き出し、私の鞭を弾く。
「――なっ」
鞭を増やし続けても少女の蔦も増え続け、全て弾かれてしまう。
本当にこの蔦はなんだ……? この特徴的な葉は……アイビー?
「――はぁっ、はぁっ、く……‼」
これ以上鞭を増やすには私の魔力では……! こうなったら最後の手段だ。無数に増えた鞭を一つに戻す。そしてその鞭一つに、全魔力を込める。
私が何かを仕掛けてくることに警戒してか、少女もまた蔦を元に戻す。
「はぁっ!」
全魔力を込めた鞭は目にも止まらぬ速さで少女へと真っすぐ向かっていく。それを少女は軽々と避ける。そして少女は私に止めを刺そうと駆け出す。
ふっ、それでいい。少女が避けた鞭……この鞭の攻撃はまだ終わっていない。私の鞭は思うがままに動く、そう、急に方向を変えることも可能だ。
最後の最後で貴方はミスをした‼ この鞭には全魔力が込もっている! 即ち、この鞭の威力は絶大、山をも砕くことが出来る‼
貴方が私に攻撃を仕掛けた瞬間、その一瞬の隙を突いて背後から私の鞭で止めを刺す‼
その瞳……私ですら持つことが許されなかったその瞳を……貴方が持っているのだけはっ、耐えられないっ‼ 神をが許したとしても……私が、それを許さないっ‼
鞭を少女の胴体に突き刺す。
「――!」
「よしっ」
これで……これで私の勝ちだ! 卑怯だと言われても仕方がない、騎士の風上にも置けない。だが、卑怯者と罵られるよりも、その瞳を持つ少女に負けることの方が耐え難い。
………………おかしい。鞭の威力から考えれば、胴体を貫通するはず……。だが、貫通してない。何かがおかしい。
「……あはは。イケオジさん、私にはコレ、効かないみたいですよ~」
少女は笑いだす。
「私もよく分からないけど、この蔦は私の全身に巻き付いているんです。それなりの硬度もあるみたいだから、こう見えて全身鎧を纏っているのと同義なんです」
全身鎧だと⁉ いや、そんな言葉で片付けてくれるな‼ 全身鎧程度なら、私の鞭で難無く貫通出来る。
少女には少しのダメージも及んでいる様には見えない……つまり、あの蔦は金属よりもはるかに硬い‼
「これで終わりです、負けを認めてください」
私を見下ろす瞳は冷たく、力強く光り輝いていた。
そして、今やっと気づいた。兎獣人であり、煌めく金髪とこの特殊な紫色の瞳を持っている……そうか、つまりこの少女はステラ王国の王族……‼
はっ、勝てるわけがなかったんだ。
「負けを認める。参った」
幼い少女に勝手に恨んで、卑怯な攻撃をして……私は最低な男だな。これだから、神にあの瞳を持つことを許されなかったのだ。
出直そう、今度こそ道を誤らないように。
おかげさまで、中間考査は過去一の成績になりそうです‼




