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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第四章 深き大森林での再会
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第65話 エルート族の守護者

 シトスは、新たに合流した部隊を加えて魔獣の痕跡を辿っていた。


 当然、グルミュリアの部隊には負傷者が多く、簡易的に作った担架等を使い移動しているため、行軍の足は遅い。


 だが、現在の追跡速度で十分だと、シトスは考えている。


 大地が正常な状態に戻った今、エルートの軍本隊と連絡が取れており、シトス達が無理をする必要が無いと判断していた。


 それに、機能を取り戻した森の精霊達は、敵の動きをシトス達に大まかではあるが伝えてくれている。


 逃走した十匹の魔獣の群れに、魔人族の率いる魔獣部隊の二つが合流したと分かったのは、少しばかり前の事だった。


「まだ敵との距離はあるけど、そろそろ私達の部隊だけで先行した方がいいんじゃない?」


 高い木の上を移動して周辺警戒を行っているムリューから、地上を行くシトスへ声がかかる。その声は、警戒の為に抑えられた物であったが、エルート族同士であれば何ら支障なく会話ができた。


 ムリューの言葉からは、負傷者の事を気遣って、これ以上戦闘に巻き込まないようにとの配慮が感じられる。


 森の精霊達から伝えられる敵との距離は、まだ接敵するほどではない。しかし、その動きに変化があったので、ムリューは警戒心を強めたのだろう。


 十匹の魔獣は、先の戦場から逃れるように真っ直ぐ北へ移動していた。


 それが、他の部隊と合流を果たしてから、まるでシトス達を待ち伏せるかのようにその場で留まっているのだ。


「いえ、現在の敵の位置ならば、我々が追いつく前に本隊との戦闘が始まるでしょう。我々は、その背後を突く形で挟撃を試みましょう」


 シトスは一呼吸おいてから、自分の考えを話す。


「戦闘に入る際に、負傷者を下がらせればいい。魔獣の攻撃程度なら、十分以上に大地の精霊で対応できるのも分かったしな」


 バジェンが行軍の最後尾から会話に入ってきた。


 魔獣との戦いにおいて、大地の精霊が目覚めてから、バジェンの精霊魔法の護りを抜けられる魔獣は一匹も居なかったのだ。


「そうですね。その際の護りはバジェンを中心にお願いしましょう。大地が正常ではなかったとはいえ、我々に気付かせずに潜伏できるほどの者達です。敵が、追っている我々に気付いて待ち伏せているなら、部隊を分けて先行する方がリスクが大きいかもしれません」


 シトスの言葉に、ムリューが歯の隙間から息を短く吐いて、了解の合図を送った。


「ところで、大地の異常についてもだが、精霊力が正常に戻った理由について、本隊からは何か言ってきてないのか?」


 バジェンが、ずっと引っかかっていた疑問を口にした。


「情報部に確認をとっているのですが、詳細について精査中だと返事があっただけで、その後の連絡がありませんね」


 シトスはゲージを手に取り、連絡がいまだ無いのを確認する。


 戦闘が終わり、負傷者の処置がひと段落ついたころ、シトスからも事の子細について軍部へ連絡を入れていた。


 大地の異常がまた起きれば、戦闘に多大な影響をおよぼすので、重要度の高い確認事項として軍の情報部に伝えたのだ。


 シトスは、ゲージが再び使えなくなる事も想定し、軍本隊と密に連絡を取り、異常が再び起こっても混乱しない為に互いの動きを共有するようにしていた。


 その時、シトスのゲージに反応があり、受け取った情報がゲージ上に表示される。


「ちょうど今、情報部から連絡が入りました。大地の異常は、強力な情報遮断の魔法が、森全体を覆うほどの規模で掛けられていた為、精霊が深い眠りに落ち入った状態となっていたそうです」


「森全体を!?・・・ちっ、思わず声を大きくしちまった」


 シトスの言葉に、ベテランであるバジェンが珍しく大きな声を上げる。他の者達からも、驚きと不安の声が上がっている。


「確かに驚かされますね。五百年前の戦いでも、それほど広範囲の魔法など聞いたことがありません」


 シトス自身も、冷静な声で読み上げてはいたのだが、自分の目を疑っていた。


 町や都市に対し、巨大な軍事魔法が使われたというのは数例あるのだが、国土と呼べる規模に対して発動されるような大きな物は、エルート族の記憶にも記録にも無い。


 シトスは、その先に書かれていた森を分断するほどの炎の壁についても皆に説明する。そこには、魔導砂についても言及されていた。


「私が見た煙は、そんなに遠くの物だったの?森を分断するほどの炎の壁だなんて・・・」


 ムリューがシトスの横に静かに降り立つと、自分の体を抱くように腕を組んで言った。皆が足を止めた為、木の上から戻ったのだ。


 ムリューは、森を焼き払う炎の壁を想像して、首をぶるっと震わせる。


「そんなやばい炎の壁やら魔法に、いったい誰が対応したんだろうな。族長クラスが動いたのか?ハイエルートが対応したとしても、相当の人数が必要だったんじゃないか?」


 マートが、ゲージに来ている文章の先を促すようにシトスへ言う。マートの後ろでは、リシーセが腕を組みながら静かに話の続きを待っていた。


「どうやら人族の精霊使いと魔導師に、グランルートの方々が助力を願い出てくれたそうです。その方々は……」


 シトスが片方の眉を寄せて、首をかしげながら先を読む。グレータエルートの面々は、目をキョトンと見開いてしまった。


 人族の中に、エルート族を上回るほどの精霊使いが居るとも聞いていないし、ましてや、グランルート族が人族の魔導師に対し、助力を願うなどと考えもつかなかった為に、思考が追いつかなかったのだ。


 エルート族が何らかの対処をしたと思っていた面々は、人族というキーワードに驚きを隠せない。


「ふふふっ!ああ、そうでしたか。まったく、あの方々はエルートの守護者なのでしょうか?」


 突然シトスが笑いだしたので、更に仲間達が複雑な表情をする。


 敵に追いつこうとしているこの場面で、戦況を左右する情報を受け取っているはずのシトスが、笑い声を上げるとは思っても居なかった。


「ちょっとシトス、貴方が突然笑い出すなんて、何が書いてあったの」


 ムリューは心配そうにシトスへ話しかける。長年組んでいる間柄であったが、こんな様子のシトスは初めてだった。


「すみません、ムリューも聞いたら喜ぶと思いますよ。我々を助けた人族というのは、シャポーさんにトゥームさん、そしてサブローさんだそうです」


「え、ちょっと。やだ私ったら、以前のお礼も、まだ直接言えてないのに」


 笑顔で言うシトスの言葉に、ムリューが口元を押さえて消え入りそうな声で返す。


「その人族って、あれか?お前達の命を救ってくれたって言う、例の教会の?」


「ええ、彼等がそうですね。そういえば、グランルートから、サブローさんが始原精霊に名を与えたという連絡をもらっていたのを、色々とあって失念していましたよ」


 バジェンの問いに、シトスがさらっと重要な情報を乗せて返事を返す。


「ちょっとまて『与名の盟友』の存在なんて聞いていないぞ。しかも、人族だと?」


 バジェンの驚きに同調して、他の者達も疑問の声を口にしている。


「ええ、グランルートから連絡があった後、実際に長老達が確認してから公表しようと言う事になっていましたので、近々には――」


「ふ~ん、そのシャポーとトゥームとサブローって人族が、私の炎を消したのねぇ。人族に消されたなんて、何だか情けない気持ちになるわぁ」


 シトスの言葉に被るように、甘ったるい響きを持った女性の声が森に響く。


 だが、その言葉には、エルート族の耳では聞き分ける事ができる『憎悪』の感情がありありと混ざっていた。


「な!?魔人族!」


 シトスの言葉を受けて、エルート族全員が、咄嗟に臨戦態勢へと移る。


「あらぁ、本当に気付いていなかったのぉ?あのパリィって子みたいに、近寄るのを待ってるのかと思っちゃったわぁ」


 背筋が凍りそうなほどの声色を響かせて、セネイアが魔獣の背に乗って姿を現した。


 その背後から、無数の赤黒く光る眼がエルート達を見据えていた。

次回投稿は12月2日(日曜日)の夜に予定しています。

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