互換検証おにぎりサンド
迷宮都市の郊外。
ちょっとした森が広がる辺りにて。
「ほう、なかなか美味ではないか」
「でしょ? ご飯のお供のイメージがあるけど、意外とパンにも合うんですよ」
「特にマヨネーズで和えてあるのがよい。前に食べたメンタイコはおれの舌には辛すぎたが、これなら辛みが和らいで食べられる」
リサとシモン王子が地面に敷いたレジャーシートの上でお弁当を食べていました。
先程まで二人で武術の稽古をしていたのですが、いくら鍛えても休息や栄養補給を疎かにしては片手落ち。指導者としては未だ半人前のリサですが、余所様の大事なお子さんを預かる責任感からネットや図書館などでスポーツ関連の知識を学んでみたり、これでも一応は色々と考えているのです。
こうしてお手製のお弁当を用意してきたのも指導の一環。
たんぱく質やビタミン、ミネラル等々のバランスを考え、なおかつ飽きずに美味しく食べられるようメニューの内容や味付けが偏らないよう工夫して、と。そうして頭を悩ませながら試行錯誤をするのは、リサ自身の料理人としての修行にもなっているのでしょう。
「こちらは鮭をバターで焼いた物にレモンの汁を少し垂らしてあるのだな。こちらも美味いぞ。さっきのメンタイコといい、いつもならおにぎりの具にする物をサンドイッチに仕立ててあるのが今日の趣向と見たが?」
「うふふ、お見それしました。パンに合うように味付けを変えてたりはしますけど、いつもはお米の中に入ってる物をパンに挟んだだけでも結構印象が違って面白いかなって」
本日のリサのテーマは、まさにシモンが看破した通り。
なんでもかんでも入れ替えれば良いというものではないですが、ご飯もパンも穀物由来の主食という共通点ゆえか、それぞれの定番お供を入れ替えたら意外なところから相性の良い組み合わせが見つかったりするようで。
「うむ、おれも面白いと思うぞ。この黒いのは……たしか、ノリのツクダニだったか? 意外とバターの風味とも合うのだな」
「他のに臭いが移っちゃうから今日は作ってきてないですけど、納豆トーストとかも美味しいですよ。アリスは話題を振っただけで嫌そうな顔してたけど」
それ以外にも、牛肉のしぐれ煮をたっぷりのバターと一緒に。
刻んだ野沢菜漬けはクリームチーズで和えてあるようです。
しらす干しはスライスチーズとホットサンドにしてありました。
おにぎりの具をそのままパンに挟んでもイマイチ馴染まない場合もありますが、そういう場合でもバターやチーズやマヨネーズ、要は脂っ気の強い材料を緩衝材として噛ませてあげると何故だか違和感が消えてくれることが多いようです。
「うむ、実に美味であった」
「はい、お粗末様でした」
「時にリサよ。食い終わったばかりで次の食事の注文というのは意地汚いかもしれぬが、次は今回の逆をやるというのはどうだろう?」
「なるほど、サンドイッチの定番をおにぎりにってことですね。工夫のし甲斐がありそうでワクワクしますねぇ」
最後に水筒に入れて持ってきた麦茶を飲み干し、本日の昼休憩は終了。今日はリサもシモンもスケジュールに余裕があるため、このまま午後もしばらく稽古の続きをする予定です。
「ええと、またさっきまでと同じで五倍くらいでいいかな?」
「いや、美味い食事で力が湧いてきたからな。八倍、いや十倍でも大丈夫だぞ」
「うん、それじゃあまずは八倍で様子を見て、それで余裕がありそうなら十倍にしましょうか。じゃ、いきますよ」
「よし、来い! ぐっ、だ、大丈夫だ……っ」
現役で勇者をやっている時は普通に斬ったほうが早いので滅多に使いどころがありませんでしたが、実はリサは聖剣の便利機能によって多種多様な魔法を自在に使いこなせたりするのです。
その特技を活かして二人のいる周辺一帯だけが、ぴったり8Gの重力に押し潰されました。この高重力下で腕立て伏せやスクワットをやったり、体力の限界ギリギリまで試合を繰り返したりというのが、本日のトレーニングメニューとなっています。大人の騎士でも泣いて逃げ出しそうな荒行ですが、非常に苦労しつつもこの内容に喰らい付いていけるシモン少年は紛れもなく天才の部類なのでしょう。
あとはリサが高重力修行の参考にした元ネタのアニメ作品を、予習の一環として事前に観せていた影響もあるかもしれません。今はまだ未熟な王子様も、いずれは元ネタ同様に超音速で空中を飛び回ったり一撃で惑星を破壊できるくらい立派にスクスク育ってくれることでしょう。





