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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語

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出し得トッピング


 ある日の魔王のレストランにて。

 本日はアリスがリサと遊びに行っている関係でコスモスが助っ人に入っているのですが、それで置いていかれた父親と娘が客席のテーブルを挟んで妙なことを話していました。つまりはいつもと同じです。



「いいですか、魔王さま。このテーブルの上に牛丼があるものとします。なるべくリアルなエア牛丼を想像してください」


「エア牛丼」


「サイズは並。ツユの量もデフォルト。まだ提供されたばかりで熱々の美味しそうなエア牛丼です。お醤油やお肉の香りが漂ってくるところまで、ちゃんとイメージできましたか?」


「うん、多分できたと思うけど……?」



 この店のメニューにも丼モノはありますし、なんならちょっと厨房に行ってエアではない本物牛丼を作ってきたほうが早そうですが、別にコスモスは遠回しに食事を要求しているわけではないのでしょう。



「このエア牛丼はまだトッピングが何も載っていない一番シンプルなやつですが、ここに何を足せばより美味しくなるでしょう?」


「要は牛丼のトッピングなんだよね? それなら紅生姜とか生卵とか、ああ、でも卵は生じゃなくて温玉でもいいかもね。あとは、たまに気分で七味を振ることもあるかな?」


「ふむ、まあそんなところでしょう。ではエア牛丼は一旦このまま放置して、次は隣にエアカレーをご用意ください。ああ、カレーといっても色々ありますが、ここは比較的マイルドで万人受けしやすいお家カレーでお願いします」


「エアカレー」


「はい、その次は気分を変えてパスタにでもしましょうか。オーソドックスなミートソーススパゲティを、例によってエアでお願いします」


「ステーキの焼き加減をレアで頼まれるのは時々あるけど、エアの注文は初めてだねぇ。名前を出した流れでエアのステーキも並べようか?」


「これはどうも。ですがトッピングとの相性的には、ステーキよりもハンバーグのほうが良さそうですな。エアのハンバーグを一丁お願いいたします」



 何も存在しない虚空にイメージ上の料理ばかりがどんどん増えていきます。

 なんだかんだと娘に甘い魔王は素直にリクエストに応え、なるべくリアルにそれぞれの料理を思い浮かべました。実はシモン王子やライムよりも低いコスモスの実年齢を考えて、幼い娘のおままごとに付き合っているような気分になってきたのかもしれません。



「はい、ご協力ありがとうございます。では最初の牛丼と同じく他のエア料理にもトッピングを施していきましょうか。最初はまず無難なところで、牛丼の温玉を使いまわしてカレーやパスタやハンバーグに。どうでしょう?」


「さっきの料理全部に温玉を足せばいいの? うん、どれも合わないってことはないだろうし、順当に美味しくなるんじゃないかな」



 未だにコスモスの言いたいことを図りかねている魔王ですが、想像上の料理にチョイ足しする程度なら特に難しくもありません。それぞれのエア料理にエアの温泉卵をトッピングしたら、まあ特に変な部分もなく順当に美味しそうな完成図が脳裏に描き出されました。



「やはり温玉さまは偉大ですな。汎用性という点では図抜けたものがあるようです。では次は……そうですね、七味を牛丼以外に振ってみたらどうでしょう?」


「それは……どうなんだろう? カレーは元からスパイス系だから合わないことはないにしても、全部がカレー風味になって七味の風味が消えちゃわないかな? パスタやハンバーグなら、もしかしたらピリ辛になって結構美味しいかもね。辛味を足したいだけならタバスコやカレー粉のほうが食感のザラつきが少なくて良い気もするけど」


「ええ、私も概ね同意見です。では次のトッピングに参りますがチーズはどうでしょう? 塊ではなく、料理にチョイ足ししやすいシュレッドチーズや粉チーズで想像してみてくださいな」



 この後もコスモスは様々なエアのトッピングをエアの料理に追加するよう言ってきました。チーズ、バター、バジル、パセリ、刻み海苔、かつお節、青のり、パクチー、煎り胡麻、マヨネーズ、揚げ玉、背脂、刻みネギ、おろしニンニク等々。普通の料理ならこんなにトッピングばかり足したら濃くなりすぎて元の料理の味が分からなくなりそうですが、そこはエアである利点を生かして引き算をすれば問題ありません。


 そもそもエアの料理を前に試行錯誤を強要させられている現状が問題かもしれませんが、あくまで想像上のイメージだけなので実害はないはずです。



「ふむ、このあたりで一通り試し終わりましたか。何にでも合う汎用性を問うならば、やはり玉子系は殿堂入りとして、乾燥パセリや胡麻あたりは大体どこのデッキに入れても手軽にアドが取れそうです。出し得ですな。逆に脂っ気や香りが強いものは環境テーマを考えて使い時を見計らわねば」


「デッキ……はよく分からないけど、ええと、つまり?」


「ほら、料理のトッピングにも色々ありますが、相性が極端に悪いものでなければ大抵その価値が僅かなりとも上がるものでしょう? そういう汎用性の高いトッピングをリストアップしていって、なんでもかんでも片っ端から入れてみればお手軽に顧客満足度を上げられるのではないかと」



 その検討をするためのエア試食に魔王を付き合わせる必要があったのかは不明ですが、一応はコスモスなりに店のことを考えた結果だった模様。既存のメニューと相性の良さそうなトッピングを片っ端から追加して、商品全般のクオリティ向上を狙ったということのようです。


 ただし、問題があるとすれば。



「うーん、たしかに元の料理より美味しくなりそうな組み合わせもあったけど……なんでもかんでもトッピング前提にしちゃうと、どれを食べても同じような印象になって飽きちゃわないかな?」


「あとは単純な金銭コストや手間の増大もですな。こちらから言い出しておいてなんですが」



 これを足しておけば無難に美味しくなる。

 もしくは、少なくとも味わいの邪魔にはならない。

 そんな、いわゆる「出し得」の汎用性が高いトッピングをモリモリ足せば簡単にクオリティアップが狙える。そんな発想そのものが完全に誤りとまでは言えませんが、それで品質が上がるのは恐らく一定のラインまで。それ以上は魔王の言ったような飽きの問題が立ち上がってきそうです。



「だから、今のところは現状維持でいいかなって。せっかく考えてくれたのにゴメンね?」


「いえいえ、お気になさらず。私としても最初から半ば見えていたオチではありますし。では話も一段落したことですし、そろそろエアお片付けやエア皿洗いと参りましょうか」


「そこまで律儀にエアでやらなくてもいいんじゃないかな?」



 というわけで、この店のメニュー内容は当面このまま変化なし。存在しない料理を前に改良案を検討するエア試食会は、なんとも面白みのない結果に終わりました。


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