暑い日の雪
ある日の迷宮都市でのこと。
暦の上ではまだ本格的に夏を迎える前ですが、今日の太陽は何をそんなに張り切っているのか真夏同然のカンカン照り。いつもは日差しの下で元気に走り回っている子供達も、とりあえず公園に集まってはみたものの木陰に隠れたまま出てきません。
「暑いなぁ……」
「暑いねぇ……」
熱中症対策としては正解でしょうが、これでは何のために公園まで来たのやら。各々、勉強や家の手伝いで忙しい日々の合間を縫って捻出した貴重な時間を、特に遊ぶこともせずこのまま浪費するのはどうにも面白くないものがありました。
が、ご安心を。
そんな子供達に救いの手を差し伸べるべく、公園に救世主が降り立ったのです。
「なんで、あそばない?」
他の子供達より遅れてこの場に現れたライムは、どうして皆がいつもみたいに遊んでいないのか分からず不思議そうな顔をしています。彼女も真夏並みの暑さは感じているのでしょうが、この根性がありすぎる幼女にとっては十分に耐えきれる範囲でしかないのでしょう。
強烈な直射日光を浴びながらも眉ひとつ動かさず仁王立ちの構えを取る様は、まるで何百年も風雪に晒され続けた巨岩の如き安定感がありました。危険なので良い子は真似をしてはいけません。
「ライムちゃん、こんな暑い中で遊んでたら倒れちゃうよぉ……」
「そう?」
友人達の一人がライムに対して現状の説明をしましたが、この独特な感性を持つエルフにどこまで通じているのやら。とはいえ、この野武士のような感性を持つ女児は決して話が分からないわけではありません。皆がそう言うならそうなのだろうと素直に納得してくれました。
「すずしくする」
そして、その上でイカれた解決策を打ち出してきました。
師匠であるアリスに教わったばかりの魔法を、ありったけの魔力を……使い切ったら倒れてしまうので、ちょっとだけ余力を残すくらいの出力で発動。
すると、なんということでしょう。
「ええ、うっそ!?」
「雪降ってきた!」
彼女達のいる公園の一部だけではありますが、どこからともなく雪が降り積もり、ものの数分もしないうちに真っ白な銀世界へと変わってしまったではありませんか。
「ライムちゃん、お話に出てくる魔法使いさんみたいだねぇ」
「ふふふ、ぶい」
根本的な天気そのものは変わっていないので長くとも数時間もすれば元通りでしょうが、それだけ保てば遊ぶのには十分すぎるほどでしょう。雪の量は一番深いところで子供達のヒザが埋まるほどもあるので、季節外れの雪遊びも楽しめそうです。
雪合戦に雪だるま。
かまくらを作るのも面白そうです。
そうしてニ十分か三十分ほど遊んだ頃でしょうか。
「ん?」
子供達が季節外れの雪で遊んでいる物珍しい光景に興味を引かれてか、あるいは単純に涼を求めてか、気付けば近くには結構な人だかりができていました。まあ元々は誰でも自由に利用できる公園です。遊びの邪魔をしないのであれば特に気にする必要はないだろうと、ライムもすぐに興味を失いかけていたのですけれど、
「やあ、エルフのお嬢さん。他の子に聞いたけど、この雪はキミが魔法で出したんだって? エルフは魔法の技に長けると聞いていたけど、実物を見ると想像以上で驚いたよ」
「それほどでも」
「それで、物は相談なんだけどね。この雪を少しだけ分けてもらえないかな? もちろん、タダとは言わないよ」
近くで涼んでいた大人の一人が、ライムに話しかけてきました。
師匠や姉からは知らない人について行かないよう言われていますが、この場から動かなければ問題ないだろうと判断して会話を続行。
最初に比べたら溶けてしまった分もありますが雪はまだ大量にありますし、欲しいというならあげてしまっても不都合はありません。その代価として差し出された品に関しても、ライムにとってはお金より嬉しいくらいでしょう。
「私はすぐそこの通りの屋台でビン入りのお酒やジュースを売ってるんだけどね、この暑さでヌルくなっちゃって売れやしない。そこで品物を冷やすのに使わせてもらいたいんだ。商売物で悪いけど、そのジュースを幾らか分けるのを代金の代わりってことにしてもらえないかな?」
「ん。りょうかい」
この炎天下では飲み物が傷むのも早くなりそうですし、交渉を持ち掛けた商人氏は少しくらい商品を譲ってでも他で取り返せると踏んだのでしょう。
魔王の店以外の飲食店には滅多に行かないライムにはいまいちピンと来ませんが、氷を作れるような魔法の道具は本来なら希少な高級品。この日の暑さを加味すれば、キンキンに冷やしたお酒は飛ぶように売れるに違いありません。
「ありがとうよ! じゃ、こいつは約束のお礼だ。お友達と飲んどくれ」
「うん。ありがと」
商人氏は一度屋台まで引き返してから、大きなバケツいっぱいの雪を確保。約束通りに瓶入りジュースを十本ばかりライムに譲ってくれました。
ライムはもらった報酬をそのまま雪の深いあたりに差し込んで遊びを再開。
たっぷり一時間ほども遊んで、程よく喉が渇いたところで凍り付きそうなくらいに冷えているジュースを取り出しました。ジュースの種類はオレンジ、リンゴ、ブドウと色々ありましたが、今回ライムはオレンジを選択。一緒に遊んでいた皆にも他の種類を渡して行き渡ったのを見届けてから、
「ぷはっ、このいっぱいのためにいきてる」
ほとんど一息で飲み干して、独特の感想を呟きました。





