被告席の芸術家ー[3]
理事会室に、長い沈黙が落ちた。
やがて——長官が、五十年間で初めてかもしれない声を上げた。
「……レヴィアン・グラース《一番手》への査問は——棄却とする。異議のある者は」
誰も手を挙げなかった。
「では——本理事会は閉会とする」
閉会。
終わった。
……終わった、のか。
俺は——椅子に座ったまま、しばらく動けなかった。
手が震えている。脚も震えている。全身が震えている。
怖かった。本当に怖かった。ベッカーの前で師匠の名前を出す瞬間。あの黒い糸が自分に向かって伸びてくるのではないかという恐怖。
だが——やった。
「レヴィアン様」
ニーカが後ろから、肩に手を置いた。
「終わりましたね」
「……ああ」
「震えていますよ」
「……分かっている」
「わたしも——震えています」
振り向くとニーカの目が赤かった。泣いていた。声は震えていないのに、目だけが泣いていた。
「ニーカ……」
「レヴィアン様。あなたの師匠の物語は——完成しましたか」
「……」
完成したか。
師匠を殺した男を追い詰め、公の場で罪を認めさせた。証拠を揃え、身柄を拘束した。
師匠の死に——物語を与えた。
〝物語のない死〟だった師匠の最期に、十年越しで——結末を書いた。
「……ああ。完成した」
手帳を開いた。最後のページ。
震える手で——書いた。
『マルコ・アルテシアーノ。俺の師匠。小さな劇場の演出家。暗殺者ではない。スキルも持たない。ただ——物語を愛した人。〝死には物語が必要だ〟と最初に教えてくれた人。十年前、秩序のために殺された。物語のない死に方だった。——だが今日、俺はその死に物語を与えた。あなたを殺した男を、あなたが愛した〝物語の力〟で追い詰めた。言葉で。証言で。人の心を照らす光で。——先生。あなたの最終幕は——芸術でした。俺が保証します。弟子として。——芸術家として』
書き終えて、ペンを置いた。
栞が温かかった。いつもより。今までで一番。
「……先生。ありがとうございました」
小さく呟いた。誰にも聞こえないように。
——だがニーカには聞こえていたかもしれない。隣にいたから。
それでもよかった。




