被告席の芸術家ー[1]
舞台は整った。
皮肉なことに——舞台を整えたのは俺ではない。ベッカーだ。
査問という名目で俺を理事会に引きずり出そうとしたのはベッカーの策略だが、その理事会こそが——ベッカーの罪を暴く最高の舞台になる。
敵が用意した舞台で、敵を追い詰める。
こういうのを何と呼ぶんだろう。逆転劇? 皮肉劇? ——いや。
芸術だ。
「レヴィアン様。準備はよろしいですか」
ニーカが隣に立っている。王都エテルナの朝。《終幕庁》本部の前。重厚な石造りの建物が、朝日で白く光っている。
「ああ。……お前こそ大丈夫か」
「何がですか」
「《終幕庁》の理事会だぞ。この組織の最高意思決定機関だ。お前を〝使い捨ての兵器〟として作った組織の——心臓部だ」
「……」
「辛ければ、外で待っていていい」
「辛くありません。……いえ、嘘です。辛いです。でも——レヴィアン様の隣にいる方が、辛くないです」
「……そうか」
これは芸術的感動——でいいんだろうか。
もう分からない。分からないが、心臓がドキドキしたのは事実だ。
「全員の配置を確認する」
俺は通信魔具を起動した。
「フィーネ」
「はいっ! 本部の正面広場にいます! 照明チェック——理事会に出入りする人全員の表情を監視します!」
「いい。不審な動きがあれば即座に報告しろ。特にベッカー陣営の人間がこの場で何かを企んでいないか——」
「任せてください! 照明係の目は誤魔化せません!」
「分かった。――次に、リゼット」
「本部の裏口にいます。万が一ベッカーが逃亡を図った場合に備えて——裏口から出られないように、通路を封鎖しました」
「封鎖? どうやった」
「《終幕庁》の施設管理員に変装して、〝配管工事のため通行止め〟の看板を立てました」
「……衣装の応用範囲が広すぎないか」
「衣装係ですから」
「次は、セレスティーヌ」
「本部の二階回廊にいます。理事会室は一階ですから、上から全体を見渡せます。……もし会場が混乱した時は、わたしの歌で——」
「ああ。保険を頼む。ただし——よほどのことがない限り歌うな。今回は言葉で決着をつける」
「分かりました」
「エリザベッタ!」
「本部のロビーにいます。……レヴィアン。お父様の名前が出ることになると思いますが——」
「ああ。出る。避けられない」
「覚悟はできています。……わたしの父は罪を犯した人間です。でも——その罪を明るみに出すことが、償いの始まりだと。お父様自身がそう言っていました」
「……いい脚本家だ。お前は」
「えっ……今のは脚本じゃなくて、本心ですけど」
「本心が脚本と同じ強度を持っている。——それが、いい脚本家の条件だ」
エリザベッタが少しだけ照れた。
「ルカ」
「理事会室の中に、監察官として着席済みです。証拠資料は全て——頭の中に入っています。紙は持ち込みません。ガルシアに没収される恐れがありますから」
「頭の中に? 五人分の証言を全て暗記したのか」
「ええ。監察官ですから。——記憶力には自信があります」
「……頼もしいな」
「ありがとうございます。では——お芝居の時間です」
ルカの言い方が少しだけ、俺に似ていた。




