四幕目の前に、幕が降りるー[5]
その夜。全員で作戦の最終確認をしている最中——通信魔具が鳴った。
ルカからだ。
「レヴィアン殿。——緊急です」
「何だ」
「明日の理事会ですが——議題が変更されました」
「変更?」
「ガルシア副長官の提案で、臨時理事会の議題が差し替えられました。新しい議題は——〝《破滅の芸術家》レヴィアン・グラースの活動に関する査問〟」
「――査問?」
「はい。レヴィアン殿の暗殺手法——標的を殺さずに解決する手法が、暗殺制度の根幹を揺るがしているとして、《一番手》《・》の資格剥奪が議題に上がっています」
「資格、剥奪……」
「そしてこの議題を提案したのは——グスタフ・ベッカー理事です」
…………。
先手を打たれた。
ベッカーは——こちらの動きに気づいていた。五つの末端が同時期に崩れたことで——俺が自分を追っていると察知した。
そして——俺を追い詰める前に、俺の方を組織的に排除しようとしている。
「ルカ。査問の場で、俺が証拠を突きつけることは可能か」
「可能です。ですが——査問は被告の立場です。あなたは〝告発する側〟ではなく、〝裁かれる側〟として理事会に立つことになる。発言の機会は限られます」
「限られたとしても——一言あれば足りる」
「……」
「ルカ。五人分の証言を——理事会の全員に配れるか」
「わたくしが監察部の権限で、理事会に資料を提出できます。ですが——ガルシアが握り潰す可能性があります」
「なら——握り潰せない形で出せ」
「……どういう意味ですか」
「理事会の場で——全員の前で読み上げろ。紙で出したら握り潰される。だが——声に出せば消せない」
「理事会の場で——証拠を口頭で発表する……」
「ああ。査問で裁かれる側の俺が発言する前に——監察官のお前が〝調査報告〟として証拠を読み上げる。俺が〝被告〟なら、お前が〝検察〟だ」
「……レヴィアン殿。それは——理事会をひっくり返すということですよ」
「ああ。ひっくり返す。査問を——告発の舞台に変える」
全員が、俺を見ていた。
「お師匠様……」
「レヴィアンさま……」
「レヴィアン様……」
「レヴィアン……」
「……」
七人の視線。七人の不安と、七人の信頼。
「明日——理事会に行く。査問を受ける。——そして、ベッカーの五十年間の罪を暴く。師匠の物語の最終幕を——あの理事会の場で書く」
手帳を開いた。最後のページ。
書いた。
『最終作。舞台:《終幕庁》理事会。対象:グスタフ・ベッカー。ジャンル:——裁判劇。演出方針:被告席から、世界をひっくり返す。……先生。明日——あなたの物語を、完成させます。十年間書けなかった結末を、今度こそ。脚本通り率は——分からない。分からないが、この作品だけは——計算外でもいい。何が起きても、受け入れる。芸術家として——最後まで立っている』
コートのポケットの《幕引きの栞》が——強く光った。
今までで、一番強く。
手帳を閉じた。
「さて」
全員を見渡した。
「——まだ、最高傑作は生まれていない。だが明日——生まれるかもしれない」
いつもの台詞を——少しだけ、変えた。
「「「「「「——はいっ!」」」」」」
六つの声と。
「——はい」
七つ目の、俺の声。
明日。
師匠の物語の——最終幕が始まる。




