四幕目の前に、幕が降りるー[3]
シュタインバッハ作戦は——翌日の午後に決行された。
俺はグリューネ市で待機しながら、通信魔具越しに聞いていた。
フィーネの声が、いつもより落ち着いている。班長の自覚が芽生えたのかもしれない。
「リゼットさん。子供図書館の構造、把握できましたか」
「ええ。入口は一つ、裏口が一つ。二階建て。閲覧室は一階の奥。ハンス・リートは毎週水曜の放課後に読み聞かせをしに来る。——今日が水曜日」
「セレスティーヌさん。子供たちの様子は」
「みんな、ハンス先生のことが大好きです。〝先生がいるから図書館に来る〟って。……この人も、善い人なんですね」
「うん。善い人だから——ちゃんと、やらないと」
「図書館には、わたしが入ります。リゼットさんは裏口で待機。セレスティーヌさんは外で保険。——読み聞かせが終わった後に、わたしがハンス・リートに話しかけます」
「フィーネ。大丈夫? 緊張してない?」
「してます。めっちゃしてます。でも——エリザベッタさんの脚本があるから。お師匠様が任せてくれたから。失敗できません」
「……あなたなら大丈夫。わたしが保証する」
リゼットがフィーネを励ましていた。劇団として共に活動して、しばらくたつ。今はもう信頼のおける仲間といった感じだ。
ふっ……いい劇団になりつつあるな。
◇◇◇
読み聞かせが終わり、子供たちが帰っていく。
フィーネがハンス・リートに近づいた。
通信魔具越しに——フィーネの声が聞こえる。
エリザベッタの脚本では、ここでフィーネが「《終幕庁》の者です」と名乗り、リートの横領の証拠を示す——となっていた。
だがフィーネは——脚本と違うことを言った。
「ハンス・リートさん。少しだけ——お話を聞いてもらえますか」
「……君は?」
「わたしは——照明係です」
「……照明係?」
「はい。人の〝本当の顔〟に、光を当てる仕事をしています」
……おい。脚本と違うぞフィーネ。
でもまあ、止めなかった。「現場の空気はお前が読め」と言ったのは俺だ。フィーネが脚本から外れたなら、それは照明係の判断だ。
「リートさん。わたし、子供たちの顔を——さっきの読み聞かせの間、ずっと見ていました」
「……」
「みんな、あなたのことが大好きです。目が、キラキラしてました。あなたが読んでくれる物語を——本当に楽しみにしてる。この図書館が——あの子たちにとっての居場所なんです」
「……」
「でも——あなたの目は、キラキラしてませんでした。あなただけ——暗かった。子供たちに物語を読みながら、あなたの顔には——影がありました」
照明の目だ。フィーネにしか見えない〝影〟。
「わたしも——暗い場所にいたことがあります。孤児院にいました。小さい頃、誰も助けてくれなかった。でも——ある人が来て、光を当ててくれたんです」
……それは俺のことか。「観客席に案内する」と意味不明なことを言って連れ出した、あの時の。
「その人は変な人でした。暗殺者なのに〝芸術家だ〟って言い張るし、手帳に変なメモばっかり書くし——」
おい。師匠の紹介として酷すぎないか。
「でも——その人が教えてくれたんです。暗い場所にいる人に光を当てるのが——わたしの仕事だって」
「……」
「リートさん。あなたは——この図書館の子供たちに光を当てた人です。暗い場所にいた子供たちに、本と居場所を与えた。……でも、その光を灯すために——あなた自身が暗い場所に入ってしまった」
通信魔具越しに——すすり泣きが聞こえた。ハンス・リートの声だ。
「リートさん。もう——暗い場所から出てきてください。この図書館は消えません。子供たちの居場所は守ります。わたしたちが——保証します」
ハンス・リートが——全てを告白した。ベッカーの名前。送金のルート。八年間の全て。
五人目。




