四幕目の前に、幕が降りるー[2]
ハフナーへの接触は——翌日の早朝に行った。、改修された防波堤、配備された救助船——が、朝日に照らされている。
ハフナーは——毎朝ここで、出港する船を見送っているそうだ。港湾管理官として。そして——二度と沈まないようにと、祈りながら。
「オスカー・ハフナー」
「……誰だね」
五十代の男。日に焼けた顔。漁師のような手。——役人の手ではない。この男はかつて、自分も海に出ていたのかもしれない。
「レヴィアン・グラース。少し——話を聞いてもらえるか」
ハフナーの顔に——覚悟が浮かんだ。待っていた、というような顔だ。
「……来ると思ってた。いつか、こういう人が来ると」
「知っていたのか? 俺のことを」
「あんたのことは知らない。でも——いつか終わることは分かっていた。ずっと、分かっていた」
ハフナーが海を見た。朝日が水面を金色に染めている。
「……この灯台を見てくれ。八年前に俺が建てた。この防波堤も。救助船も。——全部、汚い金で作った。分かっている。でも——この設備のおかげで、この八年間、一人も死んでいない。一人もだ」
「ああ、知っている」
「俺が捕まったら——この設備はどうなる。予算が途絶えたら——また、船が沈む。また——誰かの家族が」
「沈まない」
「…………え?」
「安全設備の予算は、正規のルートで確保する手配を——もう済ませた」
ハフナーが目を見開いた。
「お前がいなくなっても、港は安全だ。灯台は消えない。防波堤は崩れない。救助船も撤去されない。——保証する」
「…………どうやって」
「俺の肩書きは——一応、そこそこ多い。使える権限は使った」
肩書きが役に立つ日が来るとは。聖者で名誉劇場長でカルチェラータ報告書の著者という肩書きは直接は関係ないが、《一番手》の権限と、ルカの監察部の権限を合わせれば——安全設備の特別予算くらいは通せる。
ハフナーの目に涙が浮かんだ。
「……本当か。本当に——灯台は、消えないのか」
「消えない。——お前が守ったものは、お前がいなくなっても残る。だから——話してくれ。お前を操っていた男の名前を」
ハフナーが——海に向かって、深く息を吐いた。
「……グスタフ・ベッカー。あの男に——八年間、飼われていた」
四人目。
◇◇◇
ハフナーの証言を確保し、身柄を地元の判事に引き渡した。ルカが手配した監察部の職員が立ち会い、証言の公式記録を作成する。
同時に——港湾安全設備の予算特別支給の手続きが進行中だ。ルカの仕事は速い。
さて。四人目が終わった。残りは一人——フィーネ班のシュタインバッハ。
通信魔具で呼びかけた。
「フィーネ。状況はどうだ」
「お師匠様ーっ! シュタインバッハに着きましたーっ! リゼットさんが早速潜入準備始めてますーっ!」
「……フィーネ。通信魔具は緊急連絡用だ。到着報告はいいから——」
「あ、あと、シュタインバッハの名物のチーズが美味しいですーっ! お師匠様にもお土産買いますねーっ!」
「……」
通信魔具越しに、リゼットの声が聞こえた。「フィーネ、通信魔具でお土産の話するな」。
……班長としての威厳はまだ育っていないらしいが、元気そうで何よりだ。
「フィーネ。シュタインバッハの末端——ハンス・リートについて、調査が進んだらエリザベッタに情報を送れ。脚本はエリザベッタが書く。お前は——現場を照らすことに集中しろ」
「はいっ! 照明係の本領発揮ですね!」
「ああ。リートの嘘と本音を見分けて、心の一番暗い場所に光を当てろ。それがお前にしかできない仕事だ」
「はいっ! ……あ、チーズも——」
「いや、いい。仕事にかかってくれ」
「分かりました、お師匠様!」
◇◇◇
フィーネ班の調査は順調に進んだ。
リゼットが市の教育委員会に潜入してリートの内部情報を入手し、フィーネが照明の目でリートの行動パターンと心理状態を読み取り、セレスティーヌが市民や子供たちの声を集めた。
全ての情報が通信魔具経由でエリザベッタに送られ——エリザベッタが脚本を書いた。
「フィーネ班に脚本を送りました。第三幕の舞台は、ハンス・リートが横領して建てた〝子供図書館〟です。フレーデンのディートリヒと同じ構造——守りたいもののために罪を犯した善人。図書館の子供たちの本物の声を、リートに届けます」
「フィーネには何を指示したんだ?」
「脚本では——最初にフィーネが身分を明かして証拠を示し、その上で子供たちの声を伝える段取りです。ただし、現場の空気次第でフィーネの判断に任せる、と注記してあります」
「いい判断だ。……フィーネの照明の目は、脚本より正確なこともある」
「はい。あの子の観察力は——わたしの脚本を補完してくれると思います」




