理事の影、演出家の影ー[7]
同時刻。通信魔具で、フィーネ班からの報告が入った。
「お師匠様! ハイリゲン、完了しましたーっ!」
「……早いな」
「リゼットさんが市の役所に潜入して、末端の人——税務官のクラウス・マイヤーって人——の弱みを見つけて、わたしが嘘を見抜いて追い詰めて、セレスティーヌさんが市民の声を集めて——」
「フィーネ。端的に。結果は」
「言質、取れました! ベッカーの名前、出ました! 誰も死んでません!」
「……よくやった」
「えへへ! ——あ、次のシュタインバッハに向かいます! お土産も買いましたからね!」
「…………ソーセージか」
「はい! ハイリゲン産の特製ソーセージです!」
通信魔具の向こうで、リゼットの溜息が聞こえた。「班長、ソーセージの報告は要らないから」。
……フィーネ班は、順調らしい。班長の威厳はさておき。
「ニーカ。フィーネ班の報告、聞いたか」
「はい。ハイリゲン完了。シュタインバッハに移動中。——こちらもフレーデン完了。次はグリューネです」
「二つ目の末端が崩れた。これで三人分の証言が揃う。残り二つ——フィーネ班のシュタインバッハと、俺たちのグリューネ。四つ揃えば——ベッカーを追い詰められる」
「レヴィアン様。順調すぎるのが——少し、気になります」
「……何がだ」
「ベッカーは五十年間、この構造を維持してきた男です。末端が崩れ始めたことに——気づいていないはずがない。ブラウトの件だけなら偶然で済ませたかもしれませんが、二つ目が崩れた時点で——」
「パターンだと気づく、か」
「はい。三つ目、四つ目と崩れていけば——ベッカーは何らかの手を打つはずです」
「……ああ。分かっている」
分かっている。だからこそ——急ぐ。四つの証言を固める前に、ベッカーが動いたら——全てが水の泡だ。
「グリューネに向かうぞ。今夜中に」
「承知しました」
「フィーネ班にも伝えてくれ。シュタインバッハを——急いでくれ、と。ただし——無理はするな。この二つは矛盾しているが——両方守れ」
「……はい。伝えます」
馬車が夜道を走る。ニーカが隣に座っている。エリザベッタが向かいの席で、次の脚本の構想をメモしている。
俺は手帳を開いた。
『ベッカーへの包囲網。ブラウト(ヴァイスハイム)、ディートリヒ(フレーデン)、クラウス(ハイリゲン)——三人の証言を確保。残りはグリューネとシュタインバッハ。全て揃えば——師匠の物語の最終幕が書ける。あと少しだ。あと少し——』
手帳の栞が——また微かに光った。
馬車の振動で揺れる手帳の中で、《幕引きの栞》が——温かい。
先生。もう少しだけ、待っていてください。
あなたの物語を——必ず、完成させます。




