理事の影、演出家の影ー[3]
宿に戻り、全員を集めた。
ルカから得た情報——ベッカーの横領ネットワーク、ガルシア副長官との繋がり、そしてベッカーが俺の存在を認識していること——を、全て共有した。
「つまり……お師匠様の味方の中に、お師匠様を殺そうとするかもしれない人がいるってことですか……?」
フィーネが不安そうな顔をした。
「可能性としてはある。だが——すぐに動くとは限らない。ベッカーは慎重な男だ。確信を得るまでは手を出さない」
「じゃあ……確信を得る前に、こっちが先に動けばいいんですよね?」
フィーネの目が——照明係の目になった。獲物を見つけた時の、鋭い目。この子は怒ると怖い。
「その通りだ。ベッカーが俺を〝マルコの弟子〟だと確信する前に——ベッカーの罪を暴く証拠を固めて、一気に追い詰める」
「レヴィアン。具体的にはどうするんですか」
リゼットが腕を組んだ。
「ベッカーの横領ネットワークは五つの地方都市に広がっている。ヴァイスハイムのブラウトは一つ目だ。残り四つの〝末端〟を——全て崩す」
「全て……」
「末端が一人なら、偶然で済まされる。二人なら疑惑。三人なら状況証拠。四人なら——動かぬ証拠になる。五人の末端全員が同じ名前——グスタフ・ベッカーを証言すれば、理事であろうと逃げられない」
「それって——かなりの時間がかかるんじゃ」
「かかる。だが急いではいけない。ベッカーに気づかれないように、一つずつ、静かに崩していく。——暗殺者の仕事だ」
「あ。今、暗殺者って言いましたよ。芸術家じゃなくて」
セレスティーヌが指摘した。
「…………言い間違いだ」
「ふふ。レヴィアン、たまに素が出ますよね」
「出ていない。俺は常に芸術家だ。——ともかく。ルカの情報では、残り四つの都市はフレーデン、グリューネ、ハイリゲン、シュタインバッハだ。それぞれに〝ブラウト〟のような末端がいる」
「四つの都市を順番に回る、ということですか?」
「いや。時間がない。——二手に分かれる」
全員がざわついた。
「レヴィアン様。劇団を分割するのですか」
ニーカの声が硬い。
「一時的にだ。俺とニーカとエリザベッタでフレーデンとグリューネ。リゼット、フィーネ、セレスティーヌでハイリゲンとシュタインバッハ。——二班に分かれて同時に動く」
「お師匠様と離れるのは……」
フィーネが不安そうだ。
「フィーネ。お前は照明班の班長だ」
「班長!?」
「リゼットが衣装と潜入を担当し、セレスティーヌが情報収集と保険を担当する。そしてお前が——全体を照らす。三人の班を率いろ」
「わ、わたしが班長……!? お師匠様、わたし、まだ——」
「できる。お前は十分な訓練を積んだ。《黙劇》を照らしたのも、《叙事詩》の糸を可視化したのも——お前だ。照明の力を、俺は信じている」
フィーネの目に——涙と決意が同時に浮かんだ。
「……はい。やります。班長、やります」
「リゼット。現場判断はお前に任せる。フィーネは観察と照明の専門家だが、潜入と交渉はお前の領域だ。——衣装係の腕を見せてくれ」
「了解。……ただし、レヴィアンの方も無茶しないでくださいよ。こっちはこっちでちゃんとやりますから」
「セレスティーヌ。お前の歌は——最後の切り札だ。普段は使うな。本当にどうしようもなくなった時だけ」
「分かりました。……温存、しておきます」
「エリザベッタ。俺の班では——お前が脚本を書く。各都市の調査結果を元に、末端の〝物語〟を読み解き、告白に導く脚本を」
「はい。……わたしにできることなら」
「できる。ヴァイスハイムで証明しただろう」
エリザベッタが小さく頷いた。
「ニーカ」
「はい」
「安全管理を——二班分頼む」
「……二班分。つまり、わたしが両方の班を見る、と」
「お前にしかできない。フィーネの班に問題が起きた場合、通信魔具で即座に指示を出してくれ。お前が
直接行けない分は——言葉で守れ」
「……承知しました。安全管理の範囲を——大陸規模に拡張します」
安全管理の範囲が大陸規模になった。もう地球規模になる日も近い。……地球って何だ。分からないが、とにかくスケールが増している。




