表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い暗殺者の演出無双 ~暗殺成功率100%。演出が納得いかないので、クライアントからの暗殺締切を延長させてもらいます~  作者: ぶらっくそーど
第二部「幕間劇——あるいは、演出家の物語」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/76

理事の影、演出家の影ー[2]


 翌日。王都中央広場。


 王都で最も人通りの多い広場だ。噴水を囲んでベンチが並び、市民が行き交い、露店が出ている。こんな場所で暗殺者同士が密会するのは——ある意味、最も安全だ。衆人環視の中では、派手なことはできない。


 ……《終幕劇(フィナーレ・テアトロ)》のヴィットリオと対面した時も同じことを考えたな。王都という〝光の中〟では闇の力を振るいにくい。


 噴水の前のベンチに座って待っていると、ルカ・ヴァレンティが現れた。


 三十代半ば。鋭い目。相変わらず薄い笑みを浮かべている。手には紙袋——中身は焼き栗だ。



「やあ、レヴィアン殿。焼き栗、どうぞ」


「…………」



 暗殺者に焼き栗を勧めてくる監察官。この男のペースに乗せられると、情報を引き出されるのはこっちだ。


 だが——焼き栗は受け取った。美味そうだったので。芸術家だって腹は減る。



「さて。何の用だ」


「単刀直入ですね。——いいでしょう。わたくしも単刀直入にいきます」


 ルカが笑みを消した。焼き栗を食べていた手を止めて、俺を真っ直ぐ見た。


「グスタフ・ベッカーを、()()()()()()()()()


「……〝一緒に〟?」


「ええ。わたくしは監察部の人間です。《終幕庁(フィナーレ)》の内部を調べる権限がある。ですが——権限だけでは動けない。ベッカーは五十年間この組織の中枢にいた男です。味方も多い。()()()()()()()()


「だから俺を巻き込む、と」


「巻き込む、ではなく——()()です。レヴィアン殿にもベッカーを追う理由がある。わたくしはそれを知っています」


「……何を知っている」


「マルコ・アルテシアーノ」


 顔には出さない。出してたまるか。


「……その名前を、どこで」


「わたくしの独自調査です。ベッカーの過去を洗っていたら——十年前の〝処理案件〟のリストに、その名前がありました。マルコ・アルテシアーノ。ヴァリオン市の演出家。《終幕庁(フィナーレ)》の暗部を知りすぎた民間人として——()()()()、と」


「…………」


「そしてマルコ・アルテシアーノに弟子がいたことも——調べました。名前は——レヴィアン・グラース」


 ルカが、俺を見ている。薄い笑みは完全に消え、真剣な目だ。


「レヴィアン殿。あなたがベッカーを追う理由は——師匠の仇、ですね」


「…………」


 否定する意味はない。この男は知っている。


「仇、じゃない」


「え?」


()()()()()()。師匠の物語の最終幕を書くんだ。——芸術として」


 ルカが——一瞬、きょとんとした顔をした。それから小さく笑った。


「……噂通りの方だ。いや——噂以上かもしれない」


「噂?」


「《終幕庁(フィナーレ)》内部で、あなたの噂は尽きません。〝暗殺を芸術と呼ぶ男〟〝標的を殺さずに解決する異端者〟〝肩書きが九つある変人〟——」


「最後のは余計だ」


「失礼。ですが——あなたのような方だからこそ、ベッカーを追える。わたくし一人では〝調査〟しかできない。あなたには——()()()()()()()()()がある」


「終わらせる力じゃない。()()()()()()だ」


「……ええ。そうですね。失礼しました」


 ルカが焼き栗の紙袋から一粒取り出して、口に放り込んだ。噛みながら、真剣な話を続けている。


「わたくしがベッカーについて掴んでいる情報を、共有します」


「聞こう」


「まず——ベッカーは《終幕庁(フィナーレ)》の理事であると同時に、()()()()()()()に横領ネットワークを持っています。ヴァイスハイム市のブラウトは、その一つに過ぎない」


「五つ……」


「各都市に〝末端〟を配置し、公金を吸い上げ、それを《終幕庁(フィナーレ)》の運営資金に混ぜて——()()()()()()()()()。五十年間、ずっと。組織の金と私的な金の区別がつかないように——巧妙に」


「五十年間……」


「次に——ベッカーは副長官ガルシア・モンターニュと()()()()()()()


「……やはりか」


「ガルシアはベッカーの〝弟子〟のような存在です。二十年前に入庁した時、ベッカーに見出され、引き立てられた。副長官の地位に就いたのも、ベッカーの推薦です」


「内部調査を指揮しているガルシアが、ベッカーの息がかかった人間。——泥棒に泥棒を捕まえさせている構図は、本物だったわけか」


「はい。ガルシアの内部調査は——()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ヴィットリオの供述からベッカーの名前が出なかったのは幸いでしたが——仮に出ていたとしても、ガルシアが握り潰した可能性が高い」


「ニーカの読みは正しかったな。ガルシアはベッカー側の人間だ」


「そして最後に。これが最も重要です」


 ルカが声を落とした。


「ベッカーは——()()()()()()()()()()


「…………やはり」


「《幕引きの栞(カーテンブックマーク)》の使用記録が、あなたの活動報告書に含まれている。ベッカーは理事として全ての報告書に目を通しています。栞の存在を——()()()()()()()()()


「だが——まだ動いていない」


「ええ。あなたが〝マルコの弟子〟だと()()しているかどうかは不明です。ですが——疑ってはいるでしょう。ベッカーは慎重な男です。確信を得るまでは動かない。そして確信を得た時には——」


「師匠と同じことをする、か」


「はい。口封じです」



 焼き栗を一つ、口に入れた。甘い。だが……口の中が、ちょっと乾く。恐怖を感じている。認めよう。


 だが——恐怖を感じている時こそ、格好つけろ。それが芸術家だ。



「ルカ。お前の情報には感謝する。だが一つ聞かせろ。お前は——()()()()()()()()()()()()。監察官としての職務を超えて、独自に動いている。……個人的な理由があるんだろう」


 ルカが焼き栗の袋を見つめた。しばらく黙ってから、静かに言った。


「……わたくしの父は、《終幕庁(フィナーレ)》の《執行者(エクセキューター)》でした。二十年前に——()()()()()()、と記録されています」


「……任務中の死亡」


「ですが——本当は違います。父は、ベッカーの横領ネットワークに()()()()()()()。上に報告しようとした。そして——()()()()。任務中の事故に偽装されて」


「…………」


「わたくしが監察部に入ったのは——父の死の真相を暴くためです。ベッカーを追うのは——()()()()()()()()



 俺と——同じだ。


 師匠を殺された男と、父を殺された男。


「……ルカ。お前も〝復讐〟か」


「いいえ。——父の物語の、最終幕を書きたいのです。……あなたと同じように」


 ルカが初めて、真っ直ぐに俺を見た。


「……共闘を受ける」


「ありがとうございます」


「ただし、条件がある」


「何でしょう」


「俺の劇団のメンバーには、全ての情報を共有する。お前だけと組んで、劇団に秘密を持つのは——演出家として正しくない」


「……分かりました。あなたの劇団を——信頼します」


「それと、もう一つ」


「何でしょう」


「ニーカが()()()()()。〝一人で来い〟と言ったが、来ていない。——怒るか」


 ルカが振り向いた。噴水の向こう側のベンチに——ニーカが座っていた。完全に気配を消して。


「…………()()()()()()()()()()


「最初からです」


 ニーカが涼しい顔で答えた。


「安全管理の一環です」


 ルカが苦笑した。初めて見る、自然な笑い。


「……いい劇団ですね。羨ましい」


「お前も入るか」


「遠慮します。わたくしは監察畑ですので」


「そうか。——なら、()()()()()見ていてくれ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ