理事の影、演出家の影ー[1]
敵が味方の中にいる場合、最も困るのは何か。
戦えないことだ。
外の敵なら分かりやすい。舞台を整えて、演出を組んで、最終幕を書けばいい。だが内側の敵は——同じ組織の人間だ。俺が所属する《終幕庁》の、理事。上司中の上司。こいつを正面から告発すれば——俺が組織を敵に回す。
しかも証拠がない。ヴィットリオの証言はあるが、ヴィットリオ自身が犯罪者だ。犯罪者の証言だけでは、現職の理事を追い落とせない。
つまり——証拠を集めなければならない。ベッカーが師匠の口封じを命じた証拠。ベッカーが《終幕庁》の資金を私的に流用している証拠。ベッカーが各地の横領ネットワークを操っている証拠。
前回のヴァイスハイム市で、ブラウトが告白した〝上〟の名前——グスタフ・ベッカー。これは糸口ではあるが、ブラウト一人の証言では弱い。もっと——もっと多くの糸を手繰り寄せなければ。
「レヴィアン様。お手紙です」
ニーカが封書を差し出した。ヴァイスハイム市から王都に戻ってきた翌朝のことだ。
封蝋は見覚えのないもの。紋章もない。差出人の名前は——ルカ・ヴァレンティ。
「……監察官から、か」
封を切る。中身は短い手紙だった。
『レヴィアン殿。お会いしたい。明日の正午、王都中央広場の噴水前にて。——一人で来てほしい。ルカ・ヴァレンティ』
「一人で来い、ですって……?」
ニーカの声が冷たくなった。明らかに不快感を示している。
「ニーカ。落ち着け」
「落ち着いています。ただ——レヴィアン様を一人で呼び出す意図が、気に入りません」
「罠の可能性は?」
「排除できません。ルカ・ヴァレンティは監察部の人間です。ガルシア副長官の部下であると同時に、独自にベッカーを追っていると言った。——どちらの顔が本物なのか、まだ判断できません」
「だからこそ——会って確かめる」
「レヴィアン様」
「ニーカ。〝一人で来い〟と書いてあるが、お前が隣にいることまでは禁止していない」
「…………」
「見えない場所にいてくれ。いつもの安全管理だ」
「……承知しました。必ず射程圏内にいます」
射程圏内。物騒な言い方だが——頼もしい。




