語られなかった一幕ー[1]
演出家には、聞きたくない真実がある。
いや、正確には「聞かなければならない真実から逃げている」だ。十年間ずっと。
師匠——マルコ・アルテシアーノの死の真相。誰が殺したのか。なぜ殺されたのか。俺はそれを突き止めないまま、十年間暗殺者をやってきた。
理由は簡単だ。調べる手段がなかった——というのは建前で、本音を言えば、怖かった。
真相を知ったら、俺の〝芸術〟が——「芸術」でいられなくなるかもしれないから。
復讐に変わってしまうかもしれないから。
……こういうことは手帳にだけ書く。口には絶対に出さない。
「レヴィアン様。ヴィットリオ・フィナーレへの面会許可が下りました」
ニーカが書類を持ってきた。
「早いな」
「《一番手》の権限で申請しました。上層部も——レヴィアン様がヴィットリオから追加情報を引き出すことを期待しているようです」
「追加情報……ね」
俺が聞きたいのは《終幕庁》にとっての〝追加情報〟ではなく、師匠のことだ。だが、そんな私的な理由で面会するとは言えない。組織の思惑に乗っかる形で——自分の目的を果たす。
……こういうのを世間では〝打算〟と呼ぶのだろう。芸術家としては美しくないが、背に腹は代えられない。
「全員で行くのか。それとも——」
「俺とニーカの二人で行く。面会は少人数の方がいい。ヴィットリオも、大勢に囲まれたら話しにくいだろう」
「レヴィアン様。エリザベッタは——」
「連れて行かない」
「…………なぜですか」
「父親の前で、あの子に辛い顔をさせたくない」
ニーカが少し目を見開いた。それから小さく頷いた。
「……お優しいですね」
「優しくない。演出上の判断だ。——面会の場がエリザベッタの感情で乱れたら、ヴィットリオから冷静な証言を引き出せない」
嘘だ。単純に、エリザベッタに父親の罪人姿を見せたくないだけだ。
だがそんな本音は——言わない。
◇◇◇
出発前に、残るメンバーに指示を出した。
「フィーネ。俺たちが王都に行っている間、ヴァイスハイム市の事後処理を監督してくれ。ブラウトの告発が正しく受理されているか、ゲオルグの身柄が確保されたままか——」
「お師匠様! わたし一人でですか!?」
「リゼットとセレスティーヌがいる。お前は照明係として、状況を観察する役だ。異変があれば通信魔具で報告しろ」
「は、はい! 照明の修行の成果を活かします!」
「リゼット。ゲオルグの取り調べに立ち会える立場を確保してくれ。市の判事の補佐官あたりに変装すれば——」
「もうやってます。昨日のうちに判事の補佐官に話を通して、〝臨時の書記官〟として配置されています」
「……仕事が早いな」
「衣装係ですから」
「セレスティーヌ。お前はこの街の空気を見ていてくれ。ブラウトの逮捕で市民の反応がどう変わるか。《黒幕連》の時のような〝英雄扱い〟が始まっていないかも含めて」
「分かりました。……あの、もし英雄扱いが始まってたら、止めた方がいいですか?」
「止められるなら止めてくれ。これ以上肩書きが増えると名刺に書ききれない」
「名刺、持ってないですよね」
「持ってないが、比喩だ」
「エリザベッタ」
「はい」
「お前は——次の脚本の準備をしていてくれ。ベッカーについて、手に入る範囲で情報を集めろ。公文書、新聞記事、噂話——何でもいい」
「……わたしも王都に行きたいです。お父様に——」
「エリザベッタ。お前の父親には、俺が会う。お前に伝えるべきことがあれば、必ず持ち帰る。——約束する」
エリザベッタが唇を噛んだ。だが——頷いた。
「……分かりました。レヴィアンを信じます」
「ああ」




