脚本家が来た日ー[1]
劇団が七人になった。
多い。明らかに多い。拠点の廃劇場が手狭になった。もともと俺一人で使っていた場所に、ニーカが加わり、フィーネが加わり、リゼットが加わり、セレスティーヌが加わり——ここまでは何とかなっていた。
だが七人目のエリザベッタが加入したことで、ついに物理的な限界が来た。
「レヴィアン様。寝室が足りません」
ニーカが朝食の席で報告した。
「俺の作業部屋を潰せば、一部屋作れる」
「あそこは壁一面に脚本ノートが貼ってあります。潰したら、レヴィアン様が精神的に死にます」
「うーん……否定できないな」
「お師匠様! わたし、フィーネと同室でもいいですよ!」
フィーネが手を挙げた。隣に座っているエリザベッタを指して。
「え……わたしと?」
「うん! エリザベッタさん、同い年くらいですよね? 一緒の部屋の方が楽しいですよ!」
「同い年ではない。わたしは二十七だ」
「えっ!? お姉さんだったんですか!?」
「……お姉さん」
エリザベッタが複雑な顔をしている。《黒幕連》の次期座長候補だった女が、十二歳の少女に「お姉さん」と呼ばわりとは。……微笑ましいが、本人には言わない方が賢明だろう。
「とりあえず、部屋の問題は後で考える。——今日は、エリザベッタの〝初日〟だ」
「初日?」
「試用期間の初日だ。脚本家として何ができるか、見せてもらう」
エリザベッタが姿勢を正した。……真面目な子だ。父親に似ている。
「あの……一つ聞いてもいいですか」
「何だ」
「わたしの仕事は〝脚本を書く〟ことですよね。でも——レヴィアンは今まで自分で脚本を書いていたんですよね? わたしが入ることで、何が変わるんですか」
いい質問だ。
「俺は演出家だ。脚本は書くが、脚本家ではない。——正直に言えば、俺の脚本通り率は歴代平均37%だ」
「37%……」
「低いだろうが、即興成功率は100%だ。つまり――俺の強みは脚本ではなく即興にある。脚本が得意な人間が加われば、俺は即興に集中できる。——役割分担だ」
「なるほど……」
「ただし、お前の脚本をそのまま使うとは限らない。俺が演出上の判断で書き換えることもある。——脚本家と演出家の関係だ。文句はあるか」
「ありません。……むしろ、そう言ってもらえた方が楽です。一人で全部書くのは——」
エリザベッタが言いかけて、口を噤んだ。
「一人で全部書くのは?」
「…………お父様と、同じになってしまう気がして」
一人で全てを書く。一人で全てを操る。——ヴィットリオがやっていたこと。
「お前は一人じゃない。ここには六人いる。——いや、お前を入れて七人だ」
「…………はい」
エリザベッタが、小さく——だが確かに、頷いた。
◇◇◇
エリザベッタの初仕事は、思いのほか早く来た。
朝食の後片付けをしている最中に、《終幕庁》から依頼書が届いた。
通常の赤い封蝋だ。黒い封蝋の特別指令ではない。《黒幕連》壊滅後初めての、普通の依頼。
「通常業務の再開、か。——ある意味、ほっとするな」
封蝋を切る。
標的:ヘルマン・ブラウト。
ヴァイスハイム市の財務官。罪状:公金横領、証拠隠滅のための証人殺害教唆。
危険度:C。本人に戦闘能力なし。ただし市の警備隊長と癒着しており、武力による妨害の可能性あり。
推奨遂行期限:十四日間。
「Cランク。……久しぶりの〝普通の依頼〟だな」
「お師匠様。Sランクの後にCランクって、ちょっと拍子抜けしません?」
「フィーネ。芸術に大小はない。小さな舞台でも、完璧な作品は作れる。——むしろ、小さな舞台でこそ演出の腕が問われる」
「さすがお師匠様! 深い!」
深くはない。本音を言えば、Sランクの連続で精神的に消耗していたので、Cランクは正直ありがたい。だが師匠の威厳のために、そうは言えない。
「エリザベッタ」
「はい」
「初仕事だ。——この依頼の〝脚本〟を書いてみろ」
「え……いきなりですか?」
「いきなりだ。お前の力を見たい。依頼書の情報だけで、どんな〝物語〟を構想するか。——脚本家としての初舞台だ」
エリザベッタが唾を飲んだ。だが——目に覚悟が宿った。
「……分かりました。夕方までに、第一稿をお出しします」
「待っている」




