終幕を拒む者たちー[2]
《終幕劇》の所在は——意外な場所だった。
「レヴィアン様。《終幕劇》は——王都にいます」
「王都?」
「はい。《終幕庁》の本部がある、この大陸の首都です」
「……敵のボスが、味方の本部がある街にいるのか?」
「はい。しかも——表の顔は、王都で最も有名な劇場の元支配人です」
「元支配人……」
「引退して十年になりますが、演劇界では伝説的な人物です。今も王都の文化人たちから敬愛されています。名前は——ヴィットリオ・フィナーレ」
「ヴィットリオ・フィナーレ……。〝フィナーレ〟?」
「はい。……《終幕庁》と同じ名です」
「…………待て。まさか」
「レヴィアン様。調べました。《終幕庁》の創設に——この人物が関わっている可能性があります」
「……《黒幕連》の座長が、《終幕庁》の創設にも関わっている?」
「はい。五十年前——《終幕庁》が国家公認の暗殺者ギルドとして設立された時、制度設計の顧問として〝演劇界の重鎮〟が参加した記録があります。名前は伏せられていますが、時期と経歴が——ヴィットリオ・フィナーレと一致します」
つまり——この男は、《黒幕連》と《終幕庁》の両方を作った人間かもしれない。
暗殺を〝公的制度〟にする組織と、暗殺を〝裏社会の事業〟にする組織。光と影。その両方の生みの親。
「……こいつは、暗殺の世界そのものを〝演出〟してきたのか」
「そう解釈できます。《終幕庁》が〝表の舞台〟で、《黒幕連》が〝裏の舞台〟。両方を操ることで——この大陸の暗殺の全てを、一人の人間が支配してきた」
「…………」
スケールが、今までの敵とは比較にならない。
《叙事詩》は国と国を操ったが、こいつは——世界の仕組みそのものを操っている。
「レヴィアン様。ですが——逆に言えば、こいつは〝動けない〟はずです」
「動けない?」
「王都の名士として暮らしている以上、表立った暴力行為はできません。こちらが王都に行って、公然と接触すれば——逃げられない」
「公然と……」
「はい。今までの敵は山中や辺境にいましたが、今回は——王都のど真ん中です。衆人環視の中で動く限り、《強制終幕》を大規模に発動するのは難しいはずです。目立ちすぎますから」
「なるほど。〝光の中〟にいるからこそ、闇の力を振るいにくい。——面白い」
俺は手帳を開いた——が、閉じた。
脚本は書かない。書いたら終わらされる。
代わりに、一行だけ書いた。
『王都に行く。会う。話す。——あとは即興だ』
史上最も短い〝演出ノート〟だ。芸術家として恥ずかしいが、仕方ない。
◇◇◇
王都エテルナ。
大陸最大の都市。壮麗な石造りの建物が立ち並び、大通りには馬車が行き交い、広場では噴水が水を吹き上げている。人口百万を超える巨大都市。
ここに、《終幕庁》の本部がある。そしてここに——《終幕劇》が暮らしている。
「お師匠様! 王都って初めてです! すごーい!」
フィーネがきょろきょろしている。
「落ち着け。修学旅行じゃないぞ」
「でもお師匠様だって、きょろきょろしてません?」
「してない。……演出家として、街の空気を読み取っているだけだ」
してた。少しだけ。王都は初めてなんだ。許してほしい。
「レヴィアン様。一つ報告があります」
ニーカの声が少し硬い。
「何だ」
「王都に入った時点で——おそらく、ヴィットリオには気づかれています」
「もうか?」
「《破滅の芸術家》の名は、もはや大陸中に知れ渡っています。特に《終幕庁》の本部がある王都では——あなたの活動報告が全て記録されています。聖者、嘆きの塔の英雄、名誉劇場長、カルチェラータ報告書の著者——」
「肩書きを列挙するのはやめてくれ」
「失礼しました。つまり——わたしたちが王都に入ったことは、すでにヴィットリオの耳に入っているはずです」
「なら、ちょうどいい。向こうも〝来る〟と分かっている。こっちも〝いる〟と分かっている。——対等な舞台だ」
「対等……でしょうか。相手のホームグラウンドですよ」
リゼットが指摘した。
「ホームだからこそ、派手なことはできない。自分の名声を傷つけるような行動は取れない。——こっちが堂々と動く限り、向こうも堂々と応じるしかない」
「レヴィアン。つまり、どうするんですか。具体的に」
「会いに行く。ヴィットリオ・フィナーレの自宅に。正面から。名刺を出して。——〝《破滅の芸術家》が、お話をしたい〟と」
「名刺持ってないでしょう」
「……作る。リゼット、今から俺の『名刺の衣装』の準備を——」
「だから、何でも衣装にしないでください」




