悲劇を知る者だけが、悲劇を終わらせるー[4]
《終幕庁》からの評価書。
『レヴィアン・グラース。対象:《悲劇》。遂行完了。対象を保護対象として確保。スキルの弱体化を確認。ラメント市における《悲嘆の舞台》の影響は消滅。付随成果——ラメント市の異常自殺率の正常化。残存〝演目〟:三名。なお《黒幕連》の組織内に動揺が広がっているとの情報あり。残存幹部は《叙事詩》、《終幕劇》、および身元未確認の一名(〝悲劇〟の後任として浮上した可能性あり)』
そして——またしても、予想外の事態が起きていた。
「お師匠様! 大変です!」
フィーネが駆け込んできた。
「ラメント市の住民が、お師匠様のこと〝嘆きの塔の英雄〟って呼んでます!」
「おい……この流れ。もしかしてだけど――また、か?」
「はい! 〝あの塔に棲みついていた悲しみの悪霊を、たった一晩で祓った伝説の祓い師〟って!」
「祓い師!? 前回は聖者で今回は祓い師か!? 俺は暗殺者だ! 《終幕庁》所属の《執行者》だ!」
「でもお師匠様、実際に〝悲しみの悪霊〟を祓ったようなものですし……」
「祓ってない! 劇作家と話をしただけだ!」
「あの……それと、もう一つ」
リゼットが気まずそうに言った。
「ラメント市の劇場が、レヴィアンに〝名誉劇場長〟の称号を贈りたいと」
「…………はっ?」
「エレナ・ラクリモーサがかつて活躍した劇場です。十年間閉鎖されていたのですが、エレナの復帰を祝って再開するそうで……その記念に、〝エレナを救った芸術家〟に称号を、と」
「いや——俺は暗殺者であって、名誉劇場長では——」
「レヴィアン様」
ニーカが真顔で言った。
「受けた方がいいかと。劇場長という立場は、今後の活動で〝表の顔〟として使えます」
「使えるって、いったい何に——」
「安全管理の一環として」
「安全管理で、名誉劇場長を使う場面が想像できないんだが……」
「いつもレヴィアン様の想像を超えてくるのが、安全管理です」
もはや安全管理は哲学の域に達している。
「……まあいい。もう否定する元気がない。好きに呼ばせておけ」
「はいはい。じゃあ名誉劇場長殿、次の作品の構想はいかがですか?」
リゼットにからかわれた。
「劇場長と呼ぶな。俺は芸術家だ」
「暗殺者じゃなかったんですか?」
「芸術家で暗殺者で——いやいや、それでも俺は、名誉劇場長ではないぞ」
「もう何が何だか分かりませんね」
フィーネがけらけら笑っている。セレスティーヌが「肩書き、増えすぎですよね……」と困った顔をしている。
……暗殺者としての威厳が、また一段階下がった気がする。
だが——まあ、いい。俺の劇団がいつも通りなら、それでいい。
格好悪いが、それでいい。
「さてはて……奴らの幹部は、残り三名……」
手帳に書いた。
『第八作「夜明けの灯台」。結末:エレナ・ラクリモーサの保護と、《悲嘆の舞台》の消滅。死者ゼロ。脚本通り率——今回は計算しない。数字じゃなく、結果で語る。誰も死ななかった。それが全てだ。——マルチェロ。お前の分まで、ちゃんとやったぞ。……たぶん。まだ三つ残っているが』
ペンを置いた。
顔を上げると、四人がいた。
フィーネは笑っていた。リゼットは腕を組んでいたが、口元が緩んでいた。セレスティーヌは竪琴を抱えて微笑んでいた。ニーカは——俺の隣にいた。二歩後ろではなく、隣に。
「次の作品に取り掛かるぞ」
いつもの台詞。だが——今回は、前回と声の調子が違った。
掠れてもいない。震えてもいない。
普通の声だ。いつもの、俺の声だ。
「——まだ、最高傑作は生まれていない」
「「「「はいっ!」」」」
四つの声と。
「——はい」
五つ目の、俺の声。
今度は——ちゃんと、出せた。
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