沈黙の山に、照明を灯すー[5]
翌日、山を降りた俺たちを、リゼットが麓で待っていた。
「お帰りなさい。——長老から、伝言があります」
「伝言?」
「『山の幽霊が消えた。ありがとう』と」
「……ふむ」
「それと、もう一つ」
リゼットが少し困った顔をした。
「長老が、村人たちに話したそうです。〝《破滅の芸術家》という暗殺者が、山の悪霊を祓ってくれた〟と。……もう、英雄扱いです」
「は? ……悪霊、祓い?」
「はい。それだけじゃなくて、リゼットの修道女姿を見た村人たちが〝修道会が《破滅の芸術家》を遣わした〟と解釈して……あなた、山岳地帯で聖者扱いされてますよ」
「…………はっ?」
暗殺者が……聖者扱い。何かがおかしい。……いや、盛大におかしい。
「レヴィアン様! 聖者だなんて……流石です!」
「流石じゃない! 俺は暗殺者だ! 芸術家だ! 聖者ではない!」
「でもお師匠様、人助けしましたよ? 村の人たちを、怖い人から守ったんですよ?」
「あれは、演出上の都合であって……!」
「レヴィアン様。あなた、毎回それ言ってますけど——」
セレスティーヌが、にこにこしながら言った。
「そろそろ認めたらどうですか。あなた、けっこういい人ですよ」
「い、いい人じゃない! 俺は! 芸術家だ!」
「はいはい」
全員に「はいはい」された。
なんだろう……暗殺者としての威厳が、日に日に薄れている気がする。
「レヴィアン様」
ニーカが——微笑んでいた。二度目の笑顔だ。
「ルナを助けてくれて、ありがとうございます」
「…………物語を打ち切りにさせなかっただけだ」
「はい。それが——あなたの芸術ですよね」
「……ああ。そうだ。俺の、芸術だ」
格好つけたいところだが、今回ばかりは素直に受け取ることにした。
不敵な微笑みは——今日はやめておこう。
◇◇◇
《終幕庁》からの評価書。
『レヴィアン・グラース。対象:《黙劇》。遂行完了。対象は無力化の上、保護対象として確保。特筆すべきは、対象の固有スキルの弱点を突く独自の戦術——味方の固有スキルを照明装置として転用し、対象の能力を無効化した点。戦術的創造性において類例のない評価。付随成果——東部山岳地帯における《黒幕連》の支配構造を解体。ヴォルフスベルク山の暗殺拠点を壊滅。山村住民の安全を回復。残存〝演目〟:四名』
「〝味方の固有スキルを照明装置として転用〟って書いてありますけど……」
フィーネが評価書を覗き込んだ。
「わたし、本当に照明だったんですね……。比喩じゃなくて」
「フィーネ、お前は最初から照明係だ。比喩だったことは一度もない」
「え……ほ、本当ですか……?」
「たぶん、いや――ほっ、ほほほっ、本当だ」
嘘だ。最初は比喩だった。でもまあ……なんか、いい感じになったので乗っておく。
「お師匠様……! わたし、本物の照明係になれたんですね……!」
「ああ。俺の劇団の、最高の照明係だ」
フィーネが、満面の笑みで敬礼した。目に涙が浮かんでいたが、それはきっと——嬉しいやつだ。
残り四つの演目。悲劇。喜劇。叙事詩。終幕劇。
俺は、手帳に書いた。
『第六作「沈黙破り」。結末:《黙劇》の無力化と保護。脚本通り率:体感55%。過去最高を更新。……ただし「脚本通り」の中に「弟子の成長に感動する」は含まれていなかった。想定外だ。嬉しい想定外だ。——芸術家は、結末を選べない。選べるのは過程だけだ。だが今回は、結末も過程も、悪くなかった』
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