第四節.始動する連携
「……公安が嗅ぎつけたな」
八咫烏第三拠点、地下広場。
ぽつんと置かれた椅子の上。あぐらをかいて座っている御門玲奈は、小さな声でつぶやいた。
部屋の中には一切の光はなく、暗闇だ。
「御門、こちらへの侵攻は約二ヶ月後だそうだ。明日くらいからある程度の設備の移動を開始するつもりだ」
「おっけー、了解!」
「で、もうアイツらは実用化できるのか」
「抜かりはないよ、耀くん。執行官たちは腰を抜かすだろうねー」
温度感の違う二人の問答は続く。
「そうだ、東雲……楓くんはアッチでどうなってるの?」
「あー、霞坂のヤツか。知らんし興味もない、どうせ取るに足らないだろう」
「かわいそー」
◇
「東雲、前に出過ぎだ!もう少し、後ろから俯瞰しろ!」
「はいっ!」
「結城は班のテンポを落とさないことに集中しろ!」
「わ、わかりました!」
公安本部、地下十階の訓練場。
俺たちは、軽い打ち合わせの後に実際に班での立ち回りを模擬戦を用いて行なっていた。
班の陣形は、有間さんをトップに置き右翼に天野班長。左翼に佐々木さんを配置し、トライアングルを形成した前衛、その後方に中衛として俺。さらに後ろ、雨と佐野さんが並んで配置されている。
3-1-2という、攻撃重心のバランス型陣形らしい。
まるで、サッカーのフォーメーションみたいだ。
佐野さん曰く有間さんは高等執行官の中なら頭ひとつ抜けている実力だそうだ。二十三歳にして榊原流剣技を七ノ型まで全て習得している強力な執行官だ。
「榊原流剣技、四ノ型——灼月!」
振り下ろされる、炎を纏った刀身。
前方にいたホムンクルスは、音も立てずに塵へと還る。
その一撃によって生まれた隙、ホムンクルスの一撃を——
「油断するな、有間。次の動きも想定しながら戦え!」
指を鳴らすと同時に、氷で生成された一撃が迫るホムンクルスの上半身を破壊した。
「すいません、天野センパイ!」
俺も、置いていかれるわけにはいかない。
前衛の三人が取りこぼしたホムンクルスを、変速とハヤテを用いて切り倒していく。
中盤の俺の役割は大きく分けて三つ。
一つ目は、今と同様。前衛が取りこぼした敵の排除だ。攻撃能力の低い後衛に、支援以外の負担を負わせない。
二つ目は、後衛と同様。魔力、術式を用いた前衛への支援だ。俺の場合は、魔力支援ができないため前衛への変速付与になる。
最後、三つ目。自軍の通信が切断、或いは現場指揮が壊滅的打撃を受けた際の情報伝達だ。柔軟に動ける中衛の俺がその役割を担うことになっている。
これは、非常時のみの役割だが天野さんには絶対に忘れるなと念を押されていた。
「東雲、やる気を出すのはいいがはみ出しすぎだ。もう少しコンパクトに戦え」
「すいません!」
「……ふん」
メガネをクイっとさせ、指示を出す佐野さん。
その横では、雨も必死に班に食らいつこうとしていた。
◇
「結城、お前は目がいいんだから焦らなくていい」
「わかりました!」
「魔力支援のやり方はわかるな」
「もちろんですっ!」
メガネと前髪を気にしている佐野先輩。
この人は、私の延長線上の存在だ。視野の広さ、先読みの能力。全てにおいて完璧と言わざるを得ない。全ての動きに、迷いがない。
私も、早く追いつかないと。
「結城、無理に私に追いつこうとしなくていい。一つづつ、着実にお前のできることを増やすんだ」
「……はい!」
「いい返——」
直後、有間さんが剣を勢い余って振り上げたホムンクルスが佐野さんに直撃した。
ホムンクルスの首を切断し、下敷きになった佐野さんを救出する。
「有間、お前ふざけてんのか!」
「ごめんちゃい♪」
手を合わせて、ぺろっと舌を出す有間さん。
「てめえ、絶対に殺す!」
「やってみな〜」
二人の喧嘩が始まり、模擬戦闘は一時中止になった。
◇三時間後
「これで今日は解散だ、明日も今日と同じ時間に集合しろ」
「「「「「はい!」」」」」
班員五名の揃った返事が訓練場に反響する。しばらくして、班員同士の会話や魔導具を収納する音が訓練場に鳴り始めた。
それとほぼ同時に、訓練場内に放置されていたホムンクルスの体液の洗浄も始まり先程までの静けさとは対照的に、騒々しくなっている。
「東雲、少しいいか?」
「はい?」
天野は騒音の中、楓だけに聞こえるよう至近距離で呼び止めた。
「どうかしましたか?」
「ここで言うのもあれだとは思うが、お前は一般人上がりの魔術師だと聞いている。実はな、私も一般人上がりの魔術師なんだ。だから、先輩として言っておきたいんだ。困ったこと、苦しいことがあったら、抱えずに私に話せ。上手いアドバイスはできるか分からないが、聞くぐらいはしてやれる」
「……班長も、俺と同じだったんですか?」
「あぁ、そうだ」
少し困ったように笑う天野。
その笑顔には、彼女の歩んできたここまでの人生の過酷さが滲み出ていた。天野が話すよりも早く、そのことを理解した楓は気まずさを隠すように話を振った。
「……俺も、いつか天野さんみたいに強くなりたいです」
「きっとなれるさ、お前は強いんだから」
「ありがとうございます!」
楓の言葉に、天野ははにかんだように笑い自分の装備の片付けを始めた。
——任務開始まで、残り59日。




