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第二節.任命式

 公安新宿本局。い(・)か(・)に(・)も(・)、な礼服に身を包んだ同じ修練院生——いや、執行官たちが同じビルに入っていく。

 夜の九時とはいえ、オフィス街の真ん中でここまで人が多いと一般人の目を引くだろうと思っていたが道行く人は俺たちのことを見て驚くどころか、気にもせずに通り過ぎる始末だ。 


「……ここか」


「にしてもすごいよな、この結界。一般人には普通のビルに見えてるんだぜ」


 確かに、初めてここに来た時も第一印象は普通のオフィスビルといった感じだったのを覚えている。魔術師以外にはそう見えているのかもしれない。


「朝日と雨、先に入ってるってよ。俺たちも行こうぜ」


「だな」


 慣れない礼服に身を包み、慎也と共に公安新宿本局へと入る。


◇


 係員の方に案内され、通されたのは見たことないほど大きな講堂だった。座席は、事前に配布されていたプリントに記載され歩いていくとそこには見覚えのある顔が二つ見えた。


「あ、慎也達だよ雨!」


「楓君、羽崎くんこんばんわ」


 大きく手を振る朝日と小さく手を振る雨。

 朝日、雨、俺、慎也の順で座り、式の開演まで軽く談笑しながら待つことにした。談笑している間も続々と人が入っていき、十五分もする頃には座席は全て修練院生によって埋め尽くされていた。


 講堂の電気が消え、幕が上がった。


「始まるんじゃない?」


「……だな」


 他の修練院生も空気を察し会話を止めスポットライトに照らされた司会と思われる女性に視線を集めていた。


『これより、任命式を行います。司会は、私。公安第一課所属の浅上朔夜 特務執行官が進めさせていただきます』


 公安最高戦力、特務執行官が司会を務めていた。


『まず初めに公安局最高議長、伏神 巖雷(ふしがみ がんらい)様のお言葉です』


 講堂の上手側から、着物に身を包んだ白髪の老人が歩いてくる。

 講堂内の浮ついた空気は、一気に厳かな雰囲気へと変貌した。


『初めまして。私が公安局最高議長の伏神 巖雷です。皆さん、四ヶ月の修練院期間お疲れ様でした。そして、この公安局に、入局おめでとうございます』


 丁寧で、物腰柔らかい。初対面と変わらない印象。厳かな空気も、少しばかり和んだように感じた。

 視線を逸らし、横を見ると慎也は腕を組みながらぐっすりと寝ていた。


『これから皆さんは、合計三つの課に分かれることになります。修練院、八王子校は第一課に。修練院、六本木校生は第二課へ、文京区本郷校生の皆さんは第三課に配属されます。本日の任命式終了後に、皆さんをご案内しますので配属される課の具体的な所属先をお伝えしますので、もう少々お待ちください』


 八王子校以外にも、学校があることに驚きだ。冷静に考えれば他の課があるのにも関わらず、第一課で必要な戦闘技術だけを学んでいたのはそういうことだったのか。


『これから皆さんは、多くのものを背負っていくとは思います。それは時に苦しくもありますが、同時にあなた達の背中を押すものでしょう。どんなに苦しくとも、無理に前を向く必要はありません。時に泣き、笑うことで強くなっていきます。皆さんの成長と活躍を、心より祈っています』


 壇上の上で、深々とお辞儀をし去っていく総議長。

 拍手は、浅上特務執行官が咳払いをするまで続いた。


 その後は、公安の変遷や各課の直近の功績などが挙げられていった。うとうとと、首を振りながらも最後まで起き続け、一時間が経つ頃には任命式は終了した。


『皆様、お疲れ様でした。この後は、事前に配布されているプリントに沿って指定された場所へと向かってください。各フロアに、局員がいますのでご不明な点がございましたらお気軽にお声がけ下さい』


 講堂の電気が点く。

 さっきまで熟睡していた慎也は、大きく伸びをしさっぱりとした表情で席を立っていた。


「慎也、式中に寝るのはどうかと思うぞ」


「うるせえ!仕方ないだろ、こんだけ良い椅子なんだから寝なきゃ損だろう」


 相変わらずな慎也に頭を抱えながらも、それぞれの指定された場所へと向かうことにした。


◇


 指定された場所は、本局二階の作戦会議室四。

 普通の会社のオフィスと変わらないような廊下を、進んでいく。後ろには、少し気まずそうな雨が俺の顔色を伺うように付いてきた。


「雨も、このフロアなのか?」


「うん、作戦会議室四ってとこだよ」


「え、俺と同じだ」


「そうなの!?良かったぁ〜」


 えへへ、と純粋に笑う雨。

 思えば雨と二人で行動するのは、三ヶ月ぶりかもしれない。初めての実務演習の後に、廊下で——。


 余計なことを考えるのはやめよう。

 同じ部屋ということは、配属される班も同じ。これからは、本当の意味で命を預け合う関係になる。気を抜いたら、それは互いの死だ。


「楓君、こっちこっち!」


 どうやら、通り過ぎてしまっていたらしい。


「あぁ。すまんすまん」


「それじゃあ、開けますよ」


「うん」


 ドアノブに手をかける雨。

 ゆっくりと、物音ひとつ立てずに開く会議室のドア。


 そこには、大きめなテーブルに向き合うように座る四名の執行官達だ。


「……来たか」


 テーブルの一番奥、右端に座るすらっとした長身の女性。

 髪を後ろで縛り、襟元のネクタイを整え立ち上がる。


「初めまして。東雲 楓、結城 雨。私は天野唯華だ、そして私含めこの六名は君たちと共に任務を遂行する執行官達だ」


「まあ、ずっと立ってても仕方ないし座んなよふたりともっ!」


「はい、失礼します」


「あ、ありがとうございます」


 雨と二人で、ペコリと頭を下げ開いている席に、向かい合うように着席した


「それじゃあ、軽く自己紹介だな。私の名前はさっきも伝えたが天野 唯華でこの班の班長を務める特等執行官だ、これからよろしくな」


「天野センパイの次は、アタシだよねー!」


 勢いよく立ち上がると同時に、彼女の座っていた椅子は壁へと叩きつけられた。

 椅子のキャスターは歪み、壁は少し凹んでしまっている。


「あ、やべ。またやっちゃいました、すんませんセンパイ……!」


 平謝りする女性執行官と、ため息をつく天野班長。他の班員は、まるでこれが日常かのように呆れていた。


「……コホン、私はこの天野班のナンバーツー。有間 咲(ありま さき)、高等執行官だよ!よろしくねっ」


「コイツ、いつもこんな感じだから覚悟しときなよ?」


 俺の隣に座る、爽やかそうな青年が親指を有間高等執行官に向けて冷笑するような表情を浮かべている。


「……すごい、元気ですね」


「元気なんてもんじゃないぞ、あれは。怪物だよ、あは、あはははは」


「怪物とはなんだ、佐々木!」


「騒がしいぞ二人とも、結城と東雲が困ってるだろう」


 天野班長が制止すると二人は気まずそうに席に座った。


「となると、次は私ですね……と」


 結城の隣に座っている、インテリ系な青年が立ち上がる。

 メガネをクイっと中指で押し上げながら自己紹介を始めた。


「私は、佐野 アキラです。上等執行官で、この班の副班長を務めます。さっきの出しゃばり女のせいで自己紹介が遅れてしまいました。これからよろし——」


「出しゃばり女とはなんだクソキザ野郎!天野センパイもなんとか言ってくださいよっ!」


 無視を決め込む天野班長。

 不貞腐れる有間さんと、ドヤ顔で彼女を見下す佐野先輩。


 この班、仲悪いのか良いのかわからないな。


「最後は俺か……」


 俺の隣に座っていた爽やかイケメンも立ち上がり、自己紹介を始めた。


「俺は佐々木 蓮也。去年入局した有間の同期で、中等執行官だ。まだ教えられることは少ないと思うけど、何かあったらいつでも頼ってくれ。これからよろしくな」


「次に私たちが担当する任務は、二ヶ月後の『八咫烏第三拠点掃討作戦』。詳しい説明はまた明日追ってする。今日は執行官寮に帰り休んでくれ」


「「「「「はいっ!」」」」」


◇


「慎也達は、先に帰ったってさ」


「そうらしいですね」


 時刻は午後十一時。

 夜空の下、初夏が運ぶ爽やかな風が心地良いい。


「天野班の皆さん、癖がちょっと強いですけど良い人そうで良かったです」


「そうだな、みんな優しそうだったし緊張も少しはほぐれた気がするよ」


「ですね」


 明日は、昼の二時から早速作戦会議があるらしい。

 どうやら俺たちの所属する『対・八咫烏特務部隊』は合計四つの部隊で構成されており天野班は第四部隊に所属しているらしい。しかも、各部隊はそれぞれ二十班。合計八十班が同時に行動している。


「雨、もしかして怖いか?」


「……まさか、初任務が大きな任務だとは思ってなくて……」


 雨が不安がるのも無理もない。


「大丈夫、まだ二ヶ月もあるし、班長なんて特等だ。きっと大丈夫、誰も死なないさ」


「……はい」


 不安が拭えない、雨を女子寮の前まで送り俺も帰路につく。

 久しぶりに見上げた夜空は、霞坂で見たものとはまた違った光景だった。

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