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第二節.ハヤテ

 翌日


 帰り際伝えられた集合時間。

 午前十時にホテルの前での待ち合わせ。服装は昨日と変わらず、慣れないスーツに身を包む。


「おはよう、東雲」


「おはようございます、赤城さん」


 集合時間丁度に到着した赤城さん。

 昨日の夜と同じように、赤城さんの後を追いながら公安局に入っていく。乗り込んだエレベータは昨日とはまるで違い地下へと降りていく。


 静かに扉が開かれるとそこには、久遠織の研究施設を思わせる無機質な空間が広がっていた。違うものがあるとしたら、この施設は白を基調としいかにも現代の工場ラインを思わせる場所だった。

 そして、この施設には多くの技術者のような人たちが行き交い、見たことのない機械を使用し何かを加工している。


「はよっす、赤城。待ってたぜ。こいつぁが例のガキか?」


 俺たちを出迎えたのは、汚れが目立つツナギに身を包み顎に生えた無精髭をいじっている四十代後半くらいの見た目をした男性だった。


「あぁ、そうだ。挨拶しろ、東雲」


 促されるまま、目の前の男性に会釈をし自己紹介をした。


「東雲楓、です。よろしくお願いします」


「おう、東雲よろしくなぁ!オレァ五十嵐 勇那だ!」


 屈託の無い笑顔を向け、手を差し出す五十嵐さん。合わせるように手を差し出し、握手を交わす。


「例のブツ、完成してるぜ。いくぞ、東雲。赤城はそこで待っとけ」


「……フン」


 顔を歪ませ腕を組む赤城さん。不機嫌になた様子を全面に押し出し、『行け』とハンドサインを俺に送る。

 軽く赤城さんに会釈をして、五十嵐さんの後を追っていく。



 五十嵐さんの後を追い、施設の奥へと進んでいく。無機質な通路を歩くたびに、機械音が大きくなっていくのを感じる。

 そして、施設の一画に通される。一度五十嵐さんは、俺と赤城さんの元を去り黒塗りのアタッシュケースを抱えて足早に戻ってきた。


 近くにあった手頃なテーブルを引き寄せ、アタッシュケースを置く。


「これは、もしかしたら東雲にとってはキツイものかもしれない。でも、見てほしい。オレ達が残すことができた、小泉から東雲に託された唯一無二の代物だ。」


 そう言い、アタッシュケースを開ける五十嵐さん。


 中に入っているのは、剣の柄のようなものだった。黒を基調とした全体像に、鍔には青黒い宝石のようなものが埋め込まれ、その周囲には同系色で装飾されている。


「なんですか、これは」


「これは、小泉颯の霊獣核、および外殻から生成した魔道具。通称、()()と呼ばれるものだ」


 小泉の、霊獣核と、外殻から生成……


「……は?」


「すまない、でもこちらとしても小泉は無視のできないものだった。構造を把握するために、必要な工程だった。決して、小泉のことを死後に凌辱する目的でやったわけじゃない。不快にさせたのならすまない」


 深く頭を下げる五十嵐さん。初対面のぶっきらぼうな態度とは違い、どこまでも誠実な姿だった。

 でも、不快に思ったわけじゃ無い。ただ、もう人生において颯を感じることができないと思っていたから、あいつとの繋がりを残せるものがあることに驚いたのだ。

 記憶はいつか薄れるのだから、思い出以外にも何か形のあるものがあればと思っていたから。


「い、いえ。別に不快に思ったわけじゃなくて、単純に驚いただけです。それと、その霊装ってやつはなんなんですか」


「霊装は、簡単に言えば霊獣から作り出した魔導具の総称だ。霊獣は魔力生命体。死亡すれば塵になって消えてしまう。それを、核だけ取り除き適合率の高い宝石と融合させ現世に留めたものだ。特に、武器に加工した時に本領が発揮され通常時は刀身が無いが。魔力を込めることで、実体化させることができる。コンパクトな上に、初見の相手には読まれ強いのが特徴だ。」


 魔力生命体の霊獣を現世に留めたもの、魔力を込めることで武器の本体が実体化する。

 待て、霊獣を埋め込まれた小泉はどうなるんだ。あいつは、死亡した後も普通に存在し塵になることなんてなかった。


「待ってください、小泉は元人間で霊獣と融合された奴です。この場合はどうなるんですか。」


「死亡しても消えないということが今回の件で証明された。そして、この魔導具はさっき説明した通り小泉颯の霊獣核と外殻。つまり、彼の霊獣の要素だけを摘出し作ったものだ。摘出すれば、消えてしまう。摘出しなかったら今までにない未知の霊装が作れる。」


 五十嵐さんの話は止まらない。


「それだと、人として死ねないのでは無いかって。彼は、一般人だ。ならせめて、死後は人間らしくしてやりたいと、オレの職人としての矜持より、人間性を優先した」


 俺は、自分から魔術の世界に足を踏み入れることを決意した。でも、颯は被害者。つまり本来は絶対に交わることがないはずだったのだ。だからこそ、五十嵐さんの『死後は人間らしく』が心に残った。


「ありがとうございます。五十嵐さん、あいつのことを考えてくれて」


 俺にできることは、この言葉を伝えることだけだった。


「教えてください、この霊装のことを」


 そして、五十嵐さんの瞳を見つめる。


「あぁ、わかった。この霊装の一番の特徴はやはり術式だ。この霊装に宿る術式、継颯(ケイサツ)()()により生じる運動エネルギーを魔力に変換し貯蔵する。この魔力は一定のラインまで蓄えられ、任意のタイミングで放出することができる。この放出される魔力はある程度指向性を持たせることもでき、斬撃や、魔力を圧縮した弾丸の射出。はたまた、指向性を持たせずに無差別に魔力を放出することが可能だ。また、一定のラインを超えた魔力は自動的に所有者の体の治癒に回される。話を聞いてわかると思うが完全に、東雲専用の霊装だ。実際に手に取って確かめてみるといい」


「……はい」


 アタッシュケースに入った霊装を手に取り、実際に魔力を流してみる。

 その直後、青黒い宝石は輝きを取り戻し鮮やかな色彩を取り戻す。同時に、その周りの装飾も連動するかのように発光した。

 そして、徐々に形成されていく刀身。刀身は柄と同じ黒を基調としているが、光が反射しているところは金色に輝いている。改めて、この霊装が常識の外側に存在するものだと本能的に理解させられる。


 やがて、刀身は全て形成され全体像が顕になる。

 剣全体はそこまで長くなく、形状は短剣寄りだったが俺が今まで使っていた短剣よりも少し長いものだった。


「……すごい、です。これ」


 柄を握る手に、微かに鼓動のような脈動が伝わってくる。それに、颯が隣にいるような不思議な感じもする。


「……颯」


「東雲、この霊装の名前はお前が決めろ」


「え、名前」


 この武器の名前


「……ハヤテ」


 勝手に、口から溢れていた。でも、考えれば考えるほどこれ以上に相応しい名前が見当たらない。


「……なるほど」


 五十嵐さんは、小さく笑う。


「いい名前だな」


「そしたらこの紙にサインを欲しい。これは、この霊装がお前のものだという証明書だ。」


「わかりました。」


 五十嵐さんから紙とペンを受け取り名前と押印をする。

 自分の名前と、霊装の名称を書いていく。筆を進めるその手はいつもよりずっと重く感じた。


 サインを済ませ、五十嵐さんに紙とペンを返却する。

 紙に記載された字を確認し、頷く五十嵐さん。


「これで、正式にお前の霊装だ」


 いまだに右手に収まる霊装――ハヤテに力を込める。


「そしたら、多分正式に執行官になるまではカグヤはないからハヤテはこれに入れろ」


 そう言い、五十嵐さんはさっきまでハヤテが入っていたアタッシュケースを差し出した。


「ありがとうございます。」


 手を離し、アタッシュケースに全体を収めると静かに刀身は消え、ハヤテを初めて見た時と同じ柄だけの状態に戻った。同時に、鮮やかだった核も青黒く濁っている。


「いきな、東雲。赤城が待ってるぜ」


「はい、わかりました。今日はありがとうございます」


 深くお辞儀をする。


「良いってことよ!お前の活躍、期待してるぜ」


「ありがとうございます!」


 そう言い、来た道を戻っていく。

 右手に伝わる、確かな重さ。

 これはきっと二度と、見失わないための重さだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

もしよろしければ感想やリアクションをしていただけるとこれからの創作の励みになりますので、お時間がある際にでもしていただけると嬉しいです!

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