第0節.はじまり
「天野班長、残党が撤退していきます!」
「お前らは分散して残党の殲滅を、私は本丸をやる。」
「「「「了解!」」」」
夜中の一時。薄暗い商店街の中、黒いコートに身を包む影が散っていく。残されたのは、私だけ。
切れの強い瞳は強かに、獲物を見極める。
未然の事件とはいえ、推定事案ランクはB以上だ。下手をすれば私らも相当の被害を被ることになる。
「見つかってしまいましたか、やれやれ。公安も暇なんですね。あ、本物の執行官さんですか。最近噂で――」
黒いローブに身を包む背の低い影。声からして、成人ではない少年だ。
「黙れ、慎め。戦闘許可証だ。貴様を拘束する。」
「それで私が素直に首を振るとでも?」
「関係ない、逆らえば身の安全は保証できないぞ。」
「仕方ない……これもまた人生。王に、手間をかけさせるわけにはいかないですし……」
そう言い、対面の影は静かに鞄から物を取り出す。
「何を、する気だ。」
「決まっているじゃないですか、執行官さん。」
「待て!」
走り出しても、遅い。
不規則に点滅する街灯に照らされている少年は手にした物を、頭部に翳す。黒塗りのそれは魔術という奇跡を否定するかのように、あまりにも現実的だった。
――秘匿ですよ。
そう言い、撃鉄を落とす。
乾いた音が、商店街に鳴り響き血と脳漿が混ざった物体が宙を舞った。
「……めんどくさいこと、しやがって。」
「天野さん!こっちは、確保完了です……しかし、一名だけまだ発見できておりません。この一名に関しては今桐原中等と佐々木高等が捜索しております……それと、」
駆けてきた長髪で整った顔の女、佐野だ。
目の前に広がる死体に、思わず目をそらす。
「天野班長、彼は……」
「自殺だ。」
「……」
返答は無いのも、無理はない。私ですら、直視することは難しい。
「現状は把握した。佐野上等、お前達は撤退しろ。あとは私が捜索する。」
「……わかりました、二人には私から伝えておきます。」
そう言い、佐野は長い髪を揺らしながら去っていく。
薄暗い街灯の下、横たわった死体と取り残された影。
「やっぱ、慣れないな。この仕事は……敵とはいえ目の前で自死されれば、目覚めが悪い。」
死体を回収し、辺りを浄化する。
執行官は、神秘の残影と共に夜の闇に溶けていく。




